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まい・でぃあー 22






ふぁーすとが大陸へ帰ってから一ヶ月。その間ジェイは色々失敗するようになった。

例えば一緒に戦闘をすれば、必死に戦う俺達の後ろで上の空。思い出したかのようにやっと苦無を手にすれば全部味方に命中。特にモーゼスに。

ホタテの安売りがあるぞ、と伝えれば、「ホタテ、安売り…はぁ」と何かを思い出したかのように一気に落ち込む始末だ。

けど今日は至って普段どおりのようで、安心して胸をなでおろす。





「ジェイ、今朝パンを作ったんだが、食わないか?」

「そうですね。頂きます」



休憩がてらその辺に座ってパンを口にした。仕事熱心で普段どおりなジェイは相変わらずで目的地の確認やら時間やらを正確に測っていた。

そう言えばクロエが言ってたな。失恋した奴には優しくしてやれって。…だが、そもそも。



「ジェイ」

「はい?」

「ジェイは失恋したのか?」

「…」




ボトッとパンを落とした。ヤバイ、地雷踏んじまったか?でも失恋たって、ふぁーすととは気持ちが通じてるんじゃないのか。出航間際にあんなもの見せられたら失恋したなんて信じられない。

…が、この様子じゃだいぶ引きずってる、引きずってやがるよこいつ。




「お、おいジェイ。パンが落ちてるぞ」



正しくは落とした、だが。



「ぼくは別にふぁーすとなんて知りません」



ふぁーすととは言ってないんだが。




「そんなに気になるなら手紙でも出したらどうだ?」

「住所とか知りませんし、興味ありませんから」




こいついったいどの面下げてそれを言ってるんだ。めちゃくちゃ目が死んでるじゃないか。めちゃくちゃ上の空じゃないか。
食べかけのパンをまた口へと運びながら俺は空の青さを眺めた。




「住所知らないんだな。俺は知ってるから最近返事が来たけ…ど、?」



突如鋭い視線を感じて、横を見てみると途轍もなく腑のオーラを放ちながら俺を恨めしそうに見ていた。勘弁してくれよ。誰だよ、こいつと依頼一緒に行こうって言ったの。…あ、俺だ。




「へぇ?手紙…。文通してるんですか」

「いや…その、一回だけだ」

「したんですね」



頼む、そんな俺を殺すような目で見ないでくれ、頼むから。




「何なら教えてやろうか?」

「い、要りません」



頑固だな、こいつ。こんなに面倒な奴だとは知…ってはいたけど、ここまでくると重症だろ。






「けどなー、返事が素っ気無いんだよ」

「セネルさんだからじゃないんですか」

「失礼だなお前」

「どんな返事なんですか」

「最初はお元気そうで何よりです、って始まってたんだが、今日は雨です、で終わってるんだよ」




そう言ったら、へっ、と鼻で笑いやがった。何だよ。




「ノーマも似たような内容だったみたいだし忙しいのかもな」

「…それなら良いんですけど」





依頼を無事に終えて街に戻ろうとしたらノーマとクロエと鉢合わせした。こんな時間にどうしたんだろうかと思い、駆け寄って話を聞く事にした。




「どうしたんだ?」

「クーリッジ…それが、」

「あたし、大陸に行くから!んじゃ」

「待て待て待て」




んじゃじゃねーよ。オレとクロエで、港へ向かおうとするノーマの首根っこを掴んで引きとめた。いったいなんで急にそんな事を言い出したこいつ。





「学校ですか?」





俺もそう思った。学校かなって。けど的外れだったらしく悩んだような顔で重たそうに口を開いた。




「あだなに会いに行こうと思って」

「は?」




真っ先に反応したのは隣にいるジェイだ。如何にも不機嫌丸出しだ。ふぁーすとが絡むとこの調子だな。




「だって可笑しいじゃん。お元気そうで何よりですって、そんだけだよ?!」

「嫌われてるんじゃないんですか?」

「はあ!?ジェージェー心配じゃないわけ!?あたしは心配だよ!だから大陸に行く!」




クロエはどうやら説得しようと止めに入ってたらしいが、ここまで来てしまっていたらしい。




「だいたいさ!ジェージェーだって好きなら追っかけて迎えに行けっての!」

「…」



面食らったように目を見開いたジェイは少し考えたように手を顎に持っていった。




「クーリッジ、どう思う。ふぁーすとを」

「どうって…確かに心配は心配だが……」




もし俺達を恨んだるんなら、手紙の返事が素っ気無いのは仕方ない事なのかもしれないし。クロエと二人談義し始めているとジェイが、解りました、と漏らす。




「ぼくも同伴で大陸へ行かせてもらいます」

「げっ!」

「言い出したのはノーマさんです」

「二人で行くのか?」

「…よしっ、私達もついていこう」

「ん?」




私達?って、は?俺も入ってるのか?ぎょっと思わずクロエへと顔を向けた。もしかしなくても俺なのか。




「クロエ?」

「だめか…?クーリッジ」




何だろう、最近クロエに流される事が増えた気がする。たまに女の子に見える。…まあ女の子なんだが。何も言えなくなった俺は渋々承諾する事になった。けど俺たちが行ってどうこうなるのか。
ジェイはジェイで俺を威嚇するように見てくるし。どうせ自分だけでも良いくらいだとでも思ってるんだろ。うん、まあそうかもしれないが。




「まさかとは思うが今から行くのか?」

「そっ!切符も買ってあるし!」



付いてくるなら自分達で買ってよね、と言い捨てられた。





「ジェイ、お前本当に行くのか?」

「ぼくが居ては駄目ですか?」

「ふぁーすとに会うんだぞ」

「…そうですね。けど、…返事を聞きそびれたんで」




そう言ってノーマの後を付いて行く。俺は溜息交じりでそれを眺めていたらクロエがクスクスと笑って恋とは凄いなと口を開いたが俺にはさっぱりだった。





「港で必要なもの買っていくか」

「そうだな」






なんだか面倒な旅になりそうだ。

港からウィル宛に手紙を出して俺も船に乗り込もうとすると、クロエが必死にしがみ付いてくる。やれやれと肩を抱きながら船へと乗り込んだが、何故だかがっちがちだ。クロエが。




「日も沈む頃に船ってなんかわくわくする!」

「ノーマ…あまりはしゃぐな。…転覆する」

「あたしゃそんなに重くないわ!!」



この二人は正反対だと認識したところで、ただぼーっと海の果てを眺めてるジェイの横へ足を運ぶ。





「船はどうだ?」

「初めてじゃないですから平気ですよ」

「それもそうだな」






暫くの沈黙が続くと時間は夕食時で、俺はその場を離れて今朝作っていた余ったパンとノーマとクロエが港で準備した食べ物を船の中のテーブルの上に広げた。




「ジェージェーは?」

「後で食うんだとさ」






食事を済ませて寝る支度をしてもジェイは中へと入っては来なかった。まさか誤って落ちたとかじゃないだろうな?…いまのあいつならあり得る。不安を抱えながら甲板へと上がるとジェイはそこに居て安堵の息を吐いた。




「おーいジェイ、みんなもう寝るぞ」

「先に寝ててください」

「…」





あーもう勝手にしてくれ。俺は腕の物騒な物を外して自分の寝床へ潜りこんで目を閉じていざ寝ようとしたときだった。腕を横からちょんちょんと突かれた。




「クーリッジ」

「?、クロエ?」



隣の布団で寝ていたクロエが毛布の中で俺の腕に触れているらしい。うとうととしているクロエに少し笑いそうになった。



「悪い、起こしたか?」

「いや、いいんだ。ジェイはどうだった?」

「まだ寝ないってよ」

「そうか…。あいつも色々と悩む年頃なんだな」

「俺たち一つしか変わらないけどな」

「それを言ったら終いだ。…ところで結構揺れるな」


そう言いながら顔をそらしたクロエは、きっと船が怖いんだろう。俺は毛布をずらしてクロエに問いかけた。




「たぶんまだ揺れるぞ。怖いなら俺にしがみついてるか?」

「な…!」

「怖くないのか?」

「怖い、です」

「ほらさっさと来いよ」



なにをもじもじしてるんだこいつ。文字通り控えめに抱きついてきたクロエはわずかに震えていた。

怖がりすぎだろ。こんなんで寝れるのかクロエ。
眠かった俺はおやすみと言って目を閉じて夢の世界へと旅立った。








「この二人、見せ付けてくれますね…」






そんな声が俺に届くはずが無かった。










20140406









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