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まい・でぃあー 21







それから数日。ふぁーすとさんは退院できるまでに回復して、ホテルに戻り身支度をしていた。こんなに大人しくなるものなのか、って思うほど彼女の口数は明らかに減っていた。

もちろんぼくに寄って来る事もなくなって、普通に話す程度になっていた。ただし、ノーマさん同伴で。でないと、素っ気無い。まるで、もうぼくに好意がないかのようで。…いや、もちろんそれはそれでぼくは困らないけど…、なんとも言えない気分だ。





「明日だね、あだな」

「うん。お参りも終わったし」




あのときの言葉にみんなは触れない。ぼくらは恨まれてるのか…今ノーマさんと笑ってる彼女からは解らない。
けど、正直言ってそんな事知りたくないって思うぼくがいた。見ず知らずの人に恨まれているかを知るのとふぁーすとさんに恨まれているのかを知るのとは全く別物で…頭が痛くなりそうだ。




「明日でお別れなんだね〜…」

「そうだね。船も早朝の便だから今日はあんまりのんびりできない」




コレで終わり、っと言葉を漏らして大きめなカバンをパタンと閉めた。そして笑いながら、お茶でも頼もうかと受付にいいに行くためにぼくとノーマさんを部屋に残して出て行けば、耳に響いてきのは盛大な溜息だ。もちろん誰のだなんてすぐに解る。




「ノーマさん、今日一日で何度溜息をつくつもりですか?」

「知んなーい。…ねぇ、ジェージェー」




適当に聞こえた返事の後に少し真面目な声色をしたノーマさんに目を向ける。





「あだな、行っちゃうんだってさー。大陸に」

「ここ数日ずっと一緒に居て知らないとでも?」

「だーよねー」



増してや目の前で身支度まで見せ付けられて、それなーに?なんてそこまで馬鹿じゃない。このままここでこの人と話していれば頭痛が酷くなりそうだから背を向けて部屋から出てしまおうと思ったときだった。





「ジェージェーはいいわけ?」

「なにがです」

「あだな、いっちゃうよ?」



そんなの解ってる。ここ数日は何度も何度も頭の中で再確認してた。けどそれはぼくには変えられない事実で、。



「……だから、なんです」

「こしぬけ」

「あなたはっ…」




また後ろを向いてノーマさんと向き合う。どう見ても不機嫌な顔だけど、ぼくも同じで非常に不愉快だった。





「なにが言いたいんですか、本当に」

「このままでいいの?ジェージェーだってあだなの事、」

「煩いな!ぼくが彼女の事をどう思ってるかなんて知ったことじゃないでしょうっ?」




それにぼくは、…ぼくは。




「いつぼくを殺すかもしれない相手に好意を寄せるわけがない!」




そう言い放てば後ろから大きく何かが割れる音がした。瞬時に振り向くとふぁーすとさんがトレイごと紅茶のポットとカップを床に落としていた。紅茶が地面を濡らしていく中、ふぁーすとさんは瞳を見開いたまま黙ってこちらを見つめていた。

胸に力が入る。とんでもない罪悪感が一瞬にしてぼくの体を熱くした。




「あだな!ちょっと大丈夫っ?」

「へ、…き」

「ごめん、なんて?」

「平気だよ」



ああ、こんなときにまで貴女は笑ってられるんですか。ついさっき言い放った言葉は誰だって不快になるような発言だったというのに、どうしてそんな…。

気づけばぼくは彼女の腕を掴んでいた。





「ちょっと来てください」

「え、ジェ…、っ」



無理に引っ張り出したから言葉を遮らせたけどその場から離れてとにかく二人になりたかった。道中彼女は一切口を開かなかった。勿論ぼくも。

たどり着いたのはモフモフ族の村。たくさんのモフモフ族が居るというのにもう前のように騒ぎ立てない彼女を見ると本当に克服したんだと今頃になって感じた。それもぼくが出任せに言った口約束の為に。


家に入ってピッポが居なくてよかったの思うのは何故だろう。ぼくの部屋にふぁーすとさんを連れ込むと鍵をかけた。




「ジェイ、何かあるの?ここまできて」

「単刀直入に訊きます。貴女はぼくが嫌いになりましたか?」



そんなぼくの質問に動揺を見せた彼女はすぐに顔を背けた。ぼくはそれをじっと眺めていた。ようやく開いた彼女の口は




「嫌いなのは、ジェイの方でしょ?」




一つの鋭い矢を放つようだった。




「これでジェイは万々歳。私は明日いなくなる」




違う…、ぼくはそんな…。こんなはずじゃなかった。彼女を想っているなんて、傍にいて欲しいだなんて…。本当に今更だ。

たまらず彼女の肩を掴んで少し引き寄せてぼくを見るように促す。




「なんでそんな事言うんですかっ…、ぼくがどれだけっ、」

「痛いよっ…」

「それに何でぼくを庇ったんですか!」

「…それは」

「ぼくが嫌いなら、…あんなこと出来ないですよね」



次第にふぁーすとさんの瞳から一筋の涙が伝う。そっと彼女を抱きしめた。最初の頃ならこんな事お断りだし、いつも彼女からだった。でも今はぼくの意思でちゃんとこうしたくなった。




「ジェ、イ…ジェイィー…」



暫くそのまま抱きしめていたら、泣き止んだらしくぼくから少し間を取る。



「ジェイ…。さよならだよ」

「…どうしても大陸へ帰るんですか」

「そうだよ。何度だって言ったじゃない」




どこまで頑ななんだ。




「ふぁーすとさん、ぼくは貴女が、」

「私はジェイなんか、好きじゃない」

















































「忘れ物無いか?ふぁーすと」

「うん」

「パン作ってきたから船で食べてくれ」





みんなでふぁーすとさんを見送りに来たは良いけど昨日の今日で、ぼくは何も彼女と話せる気にもなれなかった。

背を向けて船に乗り込もうと足を進めていく彼女をただただ見ていたら、くるっとこっちを向き荷物をその場においてからぼくに駆け寄って、…そして…。



「…え」



突然の事だった。頬に唇を押し当ててきたんだ。一瞬の事で驚いていたらニッコリ笑って船の中へと駆け込んでいった。



「ジェー坊、…いつんまにそがぁな関係に、」

「ほんとだよね!ジェージェーいつ?!」



甲板の上からぼくらを眺めたあとに横に向いた彼女は今度は無表情だった。
そんな彼女にぼくは何も言わずになんて居られない。だってこんな事までされて、一人でいつもずるいんだよ。

船が進んでいく中ぼくは叫んだ。




「ふぁーすと!!」

「…!」



呼び捨てで呼んでみると驚いたようにこっちを振り向く。そして、




「ちゃんと好きだよ!大好きだ!!帰るなよっ!」

「っ…」




最後の最後にぼくはふぁーすとを困らせたかった。ぼくの言葉で、気持ちで、困らせたかった。

案の定困ったように微笑んで泣き顔を見せた彼女は船と共に見えなくなっていった。














20140401











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