まい・でぃあー 17
「ですからふぁーすとさんを標的にするのはお門違いなんです、フィーネさん」
冷静に淡々と言うぼくとは裏腹に、酷く驚いた顔を見せてきたフィーネさん。彼女はそんなにソロンの事を調べ上げていないのかもしれない。
「貴女はソロンが、使い捨ての駒がありながら自ら手を汚すような事をすると思いますか?」
「…っ、」
「貴女はソロンの弟子の前に、親類縁者を探ったみたいですね。じゃなきゃ彼女だけが標的になる筈がない」
彼女の目が鋭くぼくを捉えたと思えば、クツクツと笑い始めて扇のような物を服の下か二つ取り出した。片方は口元に持っていって上品そうに微笑む。警戒しながら見ていればこっちを向いたままもう片方の扇を後ろ向きで振り上げた。時だった。
「ちっ、…危ねーな」
「ふあっ…!!」
「ふぁーすとさん!」
「フィっちんっ!何してんのさ!」
軽く振り上げただけの扇からブレス系であろう風が起きて、ふぁーすとさんを吹き飛ばした。一緒にいた男は間一髪の所で避けたらしくその場に立っている。
「知ってたよ?ジェイさんがソロンの弟子だった事なんて。…けど」
「…」
「貴方は私たちと同じだと思ったの。酷い事されて酷い事させられてきっと恨んでるに違いないって。だから私、あなたに漬け込んだの。だってふぁーすとさん、あなたのことお気に入りみたいだったから。貴方を痛めつけたソロン共々、…親子よね」
どうしてそんな不快な言い方をするんだ。ぼくは思わず苦無を握る力を無意識に痛いぐらいに強めていた。隣で身を乗り出したノーマさんも、ぼくの異変に気付いたみたいで一歩引いたのが解った。
「けーど?まさか貴方に家族を殺されていたなんて、調査不足だったわ」
そう言いきってまたふぁーすとに扇を向けたからすかさず彼女に詰め寄って苦無で扇を動かなくした。
「ジェイさん?邪魔する?」
「殺す、と言うのであればとことん邪魔しますよ…」
扇に力を込められて今度はお互い瞬時に離れた。
「うふふ、ふはははっ…!なら貴方から、貴方達から始末してあげる」
もう彼女を止められない。そう悟ってぼくも本気を出す事にした。
「ワイらも助太刀すんぞ!」
「ジェイ、あんまり一人で突っ走るな」
「そうだぞ。目が血走っている」
男性陣に忠告され、冷静さを取り戻そうとした。
中でもモーゼスさんは親指を立てて無駄に張り切っている。
「そーだよ?あたしはあだなのマブダチ第一号なんだからさー、少しくらい手柄頂戴よね」
「本当だ。私たちを忘れられては困るな」
「ですよね」
本当、ぼくにはどうしようもなくいい家族を持ったらしい。…口には出さないけど。
「仲良しこよし、…まあいいけれど」
「俺も参戦してやろうか、フィーネ」
「もちろん」
武器を構えて微笑むフィーネさんは、いつも見せてくれていた笑顔だ。ぼくが惹かれつつあった、…あの笑顔だ。けど、今となってはもうそんな事悠長に考えてる暇なんてない。
全力で戦う。
「いきます」
ふぁーすとさん、…貴方を助け出すために。
20140201
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