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まい・でぃあー 16







あの後ウィルさんの家を出てみんなが散策しているであろう間に別のダクトへ急いで一足先に蜃気楼の宮殿にやってきた。





「いた」

「フィーネ、おせーよ」

「ごめんなさいね。…さて、ふぁーすとさん」




気分はどう?なんて訊ける状態じゃないか。縛られている彼女は気を失っていて泣いた跡でずっと泣いていたのが見て取れる。




「この女、男が苦手みたいだな。めちゃくちゃ震え上がっててとてもあいつの娘とは思えねぇ」

「だから?」

「別に?まあ、少しばかり虐めてやったけどな」

「何したか知らないけど、…まあいいわ。それよりあなたの相棒は?」




姿が見えないようだから問うてみたら、どうやらジェイさん達を倒しに行ったらしいけど。勝算があって行ったのかしら。私の目の前にいるこの男とは違って突っ走る性分だから幾分心配だわ。





「…う、」

「あ、起きた?」



私を視界に入れた途端、キッと鋭い視線で私を見てきた。何よ、その目。




「フィー、ネっ?解いてよ!」

「解くわけないでしょ」

「そうそう、まあ解いてもいいけど俺と遊ぶ?」

「っ?や…来ないで……!今度は何しようって言うのよ!」



私の時とは打って変わって怯えた表情の彼女。この際この彼女が何されたっていい。死ななければ。命をとるのは私の役目だし。



「ふぁーすとさんって男性が苦手だったよね?大丈夫?」

「な、にっ?や、…やだっ……やだやだ!」

「大人しくしろっての!このクズ女!」



私は疲れたように息を吐いてもう一人が戻ってくるのは通路を見ながら待ってみる。後ろで何を始めようが知った事ではない。




「あ、」

「なんだよ、フィーネ」

「あの人、負けたみたいよ」



何故って、。




「フィーネさんっ?」




ジェイさん達が来たから。死んだかしら?私は立ち上がってジェイさん達に向かってにこりと微笑んだ。これは戦わなければいけないなと仕方なさそうに後ろにいた彼女に跨っていた男が前線に立つ。




「ジェ、イ?…ジェイ!」

「ふぁーすとさんっ…」




ああ、腸が煮えくり返りそう。





「フィっちん!あだなは返してもらうかんね!」

「それは困るわ。これからが良いところなのに。なんだったら公開処刑でもいいけど」

「ふざけないでください!」



ゆらゆらと揺れながらジェイさんとこちら側の男のちょうど中間まで歩いて立ち止まった。




「ジェイさんごめんね?こんな事になって」

「……」

「戦う前に昔々のお話、ちょっと聞いてよ」





また微笑んで、んー、と悩んでみた。どこから話そうかな。





「昔々…大陸に住む貧しい家に住んでいた女の子がいました」



ジェイさんたちの方を向いて話し始めるとみんな黙って私に注目する。後ろの男はだるそうに座り込んだ。私はそんなのかまわずに目を閉じて話し続けた。




「その子には優しいお母さんとお姉ちゃんがいて貧しくても幸せに暮らしていました」



ゆっくりと目を開けて視線を下に移す。



「ある日、女の子のお姉ちゃんはお金持ちの男の人と恋に落ちました。その人は御伽話に出てくるようなとてもとても優しい王子のような殿方で、女の子のお姉ちゃんとはお似合いでした。ですがそんな二人が結婚を決めた時、殿方のお父上は決して許しはしませんでした」




そして、そして…―。



「そしてあの日がやってきたのです。女の子はお母さんのおつかいで、出ていた時にとんでもない事になっていたのです。家に戻って入ろうとすれば扉が開きません。不思議に思った女の子はお母さん、と声に出そうとしたときです。中からいろんなものが割れたり壊れたりする音が聞こえてきたのです。そして中からお母さんが女の子に言いました。まだ駄目、もう一回行ってきなさい、と」






微笑んでいた私の顔は段々険しくなっていく。




「お母さんの言う事だから仕方ない、ともう一度出かけました。そして夕暮れ時。女の子が家に戻ると扉がわずかに空いていました。ゆっくりと空けてみると女の子の幸せは崩れていったのです。家中めちゃくちゃにされていて、お母さんは床、お姉ちゃんはテーブルに体を預けて赤に染まっていたのでした。あちこちに刺さった鋭いもの。後に忍びのある者の物だと解かりました。お姉ちゃんの婚約者は数日後に自ら命を絶ち、その父親は病で死んでいきま、」

「フィーネさん」





ずっと聞いていたジェイさんが私の話を遮ってきたから顔を向けて何だと言いたげに見続けた。だけどジェイさんは悲しい顔をする。



「僕が続きを話しましょうか」

「え…」



何?何言ってるの?知るはずがないじゃない。ジェイさんが。



「その父親は貴族で地位のためにもご子息を一文無し同然の娘と結婚させるわけにはいかないと、暗殺を忍びに依頼。暗殺には成功したけれどフィーネさんが言ったようにご子息は自害、その父親は病死」

「ジェイさん?何でそんなに詳しいの…」

「どうしてかって、…その任務はソロンから指示を受けたぼくが担当したからです」



目を見開いた。じゃあ、じゃあっ…。




「あなたの家族の仇は、ぼくです」










20140112












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