まい・でぃあー 13
フィーネさんがソロンの娘を追ってしまった。叩いてしまった罪滅ぼしだろうか。けどその必要なんてないのに。…とは言ったものの、フィーネさんからはどこか違和感を感じた。
無関係な彼女はソロンの娘にあんなにはっきりと言うほど、干渉してくる人だとは思えない。あれはまるで、自分の事のように…。
「ソロンの子どもっちゅーことは、ろくな奴じゃねぇぞ」
「私にはそうは見えなかったが…」
「いや、この後どう出るかが問題だ」
ぼくは黙って周りのこの状況を眺めていた。本来ならぼくだって何か言ってもいいはずなんだけど、…浮かばない。
「いい加減にしなよ!あだなが何したってーのさ!」
居た堪れなくなったんだろう、ノーマさんはダンっと床を何かを踏みつぶすように叩きつけた。フルフルと震えて悔しそうに涙を堪えてるノーマさんを、ぼく以外のみんなが息を飲んで目が離せなくなっていた。
「あんなに無邪気でへらへらしてて一生懸命でっ…どこがロンロンに似てるってーのよ!あだなはあだなじゃん!娘だからってこんなのおかしいってっ。それにジェージェーも!」
「ぼく?」
「あんなに追い詰めたら、」
「追い詰めた?…ぼくはただ本当のことを言っただけで、っっっ―!?」
殴られた。凄い勢いでノーマさんに、あのノーマさんに殴られた。
思わず倒れこんだぼくの胸倉を掴んで持ち上げた。…どこにそんな力が。
「嫌いじゃなかったじゃん!」
「はい?」
「あだなの事、ジェージェーは嫌ってなかったじゃん!!ソロンの時みたいに嫌ってなかったじゃんっ!」
「何言って、」
「好きだったんじゃないの!?」
「!!」
言われた瞬間やめろと言いたくなった。急激に体中の血の巡りがよくなった気がするから。ぼくがソロンの娘を好きになるわけがない。だいいちぼくはフィーネさんが気になってるんだ。あんな奴の娘なんかじゃない。
「あたしも探しいく!みんなはせーぜーここでじっとしてれば!?」
「ノーマ!」
その時だった。
「ジェイ…さ、」
「フィーネさん!」
泥だらけのフィーネさんが戻ってきて僕に凭れるように倒れてきた。何があったの…いったいなんで彼女がこんな目にっ。
「ふぁーすとさんを追ってたんだけど…いざこざになっちゃって。ダクトで逃げられたの…」
「あだな…が?」
「ノーマ、もうあいつは俺たちの知ってるあいつじゃないんだ」
「それより傷だらけ、」
増々嫌になった。やっぱり親も親なら子も子だ。
「ぼくは許せないです。…フィーネさんにこんな、」
「…もーわかった。もー、いいよ…」
「ダメだキュ!!!!」
今までいなかった声に目をやると、ポッポが息を荒げていた。そして次の言葉でフィーネさんの体が一瞬揺れたのが分かった。
「フィーネさんが言ってるのは嘘だキュ!」
「どういうこと?ポッポ」
「ポッポは見たんだキュ!男が二人でふぁーすとさんをダクトに連れ込むところを!」
まるで誘拐じゃないか。そう思ったとたんに胸がざわついた。ポッポが言っていることが本当だとすると、フィーネさんが言っていたことは覆されてしまうわけで。けれど真実は知るべきだ。
「フィーネさん、」
「そんなっ!私なんかよりそんな動物を信じるのっ?」
「嘘だキュ!」
「煩いわ!黙りなさいよ!!」
今…、彼女がおかしかった。思わず僕から引きはがして彼女を見たら、不安な顔から一変、ニタっと笑った。
「彼女は悪魔から生まれた子だもの」
後にぼくが愚かなことを思い知らされる。
20140105
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