まい・でぃあー 10
「ねぇジェージェー」
「はい?」
ふぁーすとさんとやって来たノーマさんはぼくを二階まで連れていくと浮かない顔で話しかけてきた。
「あのフィーネって子さ、どんな子?」
「・・どうしてですか?」
「掴み所がないってーのかな・・、こう言っちゃ悪いけどあの子がいたらこの先良くないことが起きそうというか、」
「っ、何言ってるんですか!彼女は気も利くし優しいし見ての通り素晴らしい女性だっ。それに良くないことを起こすとすればきっとふぁーすとさんの方ですっ」
どう見たらそう感じるんだ。フィーネさんはぼくにとってとても魅力的な女性なんだ。
それなのにこの人はっ・・。
「ジェージェー、あだなは頑張ってるし、あたしから見たら不器用だけどスゴく女の子してんよ?フィっちんが好きならそれで良いけど、あだなとも仲良くしてやんなよ」
「(フィっちん・・・)別にぼくは、そんなの望んでませんから」
「はいはい、あだなの事は嫌いなんでしょ」
そんなこと言っていないと小さく反論して、"嫌い"と言う言葉に違和感を感じる。ぼくはふぁーすとさんを嫌いじゃない。・・・・そう、別にそんなんじゃない。
「あっジェーイっ、ここにいた!」
「うわっ」
噂をすれば何とやら。
扉が開いてふぁーすとさんがいつものように飛び付いてきた。
いつも不意打ちで始めの内は倒れたりしてたけど、今はこの通り支えてる。
「いつも危ないって言ってるじゃないですか」
「えへへ。ノーマちゃんと何のお話ししてたの?」
ぼくに支えられたままノーマさんとぼくの顔を交互に見てきた。ぼくに至っては至近距離で目をパチクリさせてる。
「は、離れてくれませんか?」
「えー?何のお話ししてたか教えてくれないと離れない」
「はぁ、」
ノーマさんをチラッと見れば目を逸らされた。
ぼくが言えってことか。
「貴女の事です」
「え?私?」
「ええ、貴女の事を、」
「あだなを誉めてたんだよっ。ね、ジェージェー」
貴女の事を嫌い、とでも言うと思ったのか、ノーマさんはぼくの言葉を遮った。
「はい。貴女が死ぬほど元気だと話してました」
「ほんとっ?何かヤだ・・すごく嬉しい」
ぼくから一歩下がって頬を染めながら両手でその頬を包む。
照れた彼女なんて見たことがなかったぼくは少し、・・ほんっの少しだけ可愛いと心のどこかで囁いた。
そんな時、フィーネさんもやって来て不思議そうにぼくらを見てきた。
「お茶菓子の用意ができたけど、・・何かあったの?」
「これが幸せかな・・」
「・・・・ふぁーすとさんに求愛でも?」
「してませんよ!」
冗談だと笑いながらフィーネさんは階段を降りていく。ぼくらもその後ろを追って一階に辿り着く。
ふぁーすとさんは未だに別の世界へいっていた。ノーマさんはクッキーをバリバリ食べながらフィーネさんと少し世間話をしている。
「そう言えばふぁーすとさんは戦うときには、どんな武器を?」
「ふぇ?私は戦わないよ?」
「・・・・・・」
フィーネさん?
一瞬氷のように冷たい表情になったのは気のせいかな。
「あだなは戦えないよー。足早いから逃げ回ってる」
「そう、なの」
「でも護身用あるよね」
「うん!父様から頂いた・・、」
コレっ!、とポケットから取り出したのは、
「く、ない?」
「ジェイ知ってるのっ?これ使い方解らないけど護身用として持ち歩いてるんだ」
苦無を見せてきたほんの一瞬、今度はフィーネさんの顔が不気味に微笑んでるように見えた。
今日のぼくの目はおかしいのかもしれない。
けど苦無って・・。ふぁーすとさんも忍者?足も早いし・・。
けれど戦えない。
そのふぁーすとさんが持ってる苦無をまじまじと見ると、あるものを発見した。
どういうことだ?
見間違えか?
こんな事、確信付けたくはないけれど、
「ふぁーすとさん、その苦無を一日ぼくに預けてくれません?」
「え?でも」
「ちょっと気になることがありまして」
「ジェージェーが最高の営業スマイルしてるー、やなカンジ」
この際ノーマさんは放っておこう。
無くさないでね、と一言添えながらぼくに渡してくれた苦無を見ると、・・・・やっぱりだ。
じゃあふぁーすとさんはいったい・・。嫌な予想ばかりが頭を駆け巡る。
「・・やっぱりお返しします。別に気になったことができたので部屋に戻ります」
「ジェイ?」
「・・あ、ノーマさん」
立ち上がって背を向けたが、頭だけを少し横に向けてふぁーすとを見る。それはもう冷めたように。
「明日、セネルさん達をぼくの家に連れてきてくれませんか?お話したい事があるので」
「んー?別に良いけどさー」
「それとふぁーすとさん。貴女も是非来てください」
「うん!ジェイからの初めてのお誘いだもの。絶対に来る」
それは安心しました、と一言言い残して部屋に戻った。
20130207
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