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まい・でぃあー 01









港町で珍しくホタテが安売りされてたから、大量に買い込んで家路を急いでいたら女性が道端に座り込んでいた。

何してるんだ?足を休めてるとか・・かな?にしても何も持っていないように見える。


前までのぼくなら素通りをして放っておくんだろうけど、





「どうかしたんですか?」




どうも世話焼きになった気がする。




「・・・・・。」

「武器を持っていないように見えるけど、もしそうなら魔物が来たら危ないので最寄りの町等に行かれた方が良いですよ。」

「・・・・・。」

「あの・・聞いてます?」





何で返事をしないんだ?頷いてはくれたけど。

全く反応を見せてくれない目の前の女性に、どうしたものかと頭を悩ます。話し掛けておいて急に放っておくのもどうかと思うし。





「・・・・。」

「・・ん?」






ぼくの後ろの方を指差す女性に眉をしかめながら振り返ってみる。





「まもの」




なんだ、このタイミングは。
魔物についてついさっき警告したばかりなのに、早速これだ。


それに漸く声を出してくれたは良いんだけど、まもの≠ニ言う言葉のみで狙ってるのかと突っ込みたいくらいだ。





「言ったそばからっ・・!」




女性の手首を掴み走って距離を置いてみる。

案の定女性の足はそれほど早くなくて、距離を少し置いても魔物も付いてこれるくらいだ。


仕方なく苦無を手に持つも、でかでかしい魔物はぼく、ではなく、女性目掛けて走ってくる。



そして女性に攻撃を仕掛けてきて、振りおろされる拳が女性に当たる寸前、走るのをやめてぼくは魔物の前に出た。






「ただ大きいだけの魔物ですね」





短剣を敵の急所に凄い勢いで突き刺し、苦無を二、三発投げればもう動かなくなった。

やれやれ。大量に買ったホタテも気付けば袋ごとどこかに落としてしまったみたいだし、とんだ災難だ。

ま、女性が無事なら良いかな。



彼女へ向き直ると、さっきだろうか、座り込んでいる。

さらには、





「あ、」





ホタテの入った袋をしっかり抱えていてぼくは心の中で彼女に感謝する。

・・・あの道中でどうやって拾ったのか解らないけど。


まずは彼女を立たせようと近づいて手を差し伸べた。






「ありがとうございます。ホタテ拾ってくれてたなんて」

「・・・・」






また無言だ。

でもさっきと何かが違う。
目を丸くしてぼくをじっと見てるんだ。


差し出した手に驚いてるのか躊躇ってるのか解らないけど。

もしそうなら手を引っ込めた方が、

──ガシッ


「!?」

「貴方・・私の王子様ね!」

「え゛っ!!」





いきなり腕を捕まれたかと思えば、唐突に発せられたセリフ。


どうしよう・・。とんでもなく面倒で厄介な人に構ってしまった気がする。

うん確実にそうだろう。


物凄く目を輝かせる彼女に対してぼくは引き気味だ。





「貴方強いのねっ、名前は!?」

「あ、・・あの、」

「女の子って事はないわよね?」

「ぼくは男ですっ!それと顔が近いっ」





捕まれた手を振りほどいて後ずさる。


一体なんだこの人っ!

さっきとは打って変わって別人じゃないかっ!!





「あは、照れるなんて可愛いなー」

「な、照れてませんっ」

「やーんっ、顔赤くしちゃってますますキュート〜!」






反論すればするほど目の前の彼女はエスカレートして状況が悪化してる。


モーゼスさんの次にあまりか変わりたくない存在だ・・っ!!

いや、モーゼスさん以上に厄介な相手だとも思えてきた。


あまり深入りしない内に村に戻ろう、そうしよう。





「ねー名前何て言うの?私はね、」

「ぼくはそろそろ行きますね。もう魔物に狙われないように精々気を付けてください、それじゃ。」

「え、ちょっとーっ」






一気に言い切ったぼくは彼女からホタテの入った袋を取り上げて颯爽と走ってダクトに乗り込んだ。


さっき逃げる時に彼女は走るのが遅かったし、それにぼくは忍者の修行をしていたんだ、追い付けるはずがな、






「わあ、何これっ?この赤いのに乗ったらどうかなるのっ?」

「?!?!」





な、ない・・はずなのに。






「なんで貴女がっ!!」

「なんでって、王子様がいきなり走るから、」

「誰が王子ですか!あとぼくが訊いてるのはどうやって付いてきたのかって事で、」

「走ったんだよ。へへ、速いでしょ」

「でも逃げてる時、」

「ホタテの袋が足に何度も当たっちゃって走りにくかったんだー」





ああ、謎が解けた。合点が合う。辻褄が合う。もうどれでも良い。

動揺しているぼくに急に詰め寄ってきた彼女は口を開く。





「それでー、私の王子様は何処へ連れていってくれるの?」

「引っ付かないで下さい、大体王子って、」

「あなたが私の王子様なのっ!」

「ふがっ・・・・!」





いきなり抱き着いてきてぼくは、耐えることを忘れてそのまま尻餅をつく。

その拍子にダクトのスイッチを押してしまったらしく刹那、そのまま二人で瞬間的に移動した。






「キュ?」

「キュキュ?」






どうやら無事に目的地に着いたみたいだけど、何でキュッポ達が少し離れたダクトの前に?





「ジェイ、遅かったから迎えに行こうと思ってたキュ」

「丁度良かったキュ」





なるほど、そう言うわけか。





「ところでジェイ、その女の人は誰キュ?」

「あ・・・」





まだ重みがあるかと思えば、彼女が抱きついていたのを思い出して、慌てて引き剥がそうとする。






「ちょ、ちょっと離れてくださいよっ」






けれどもぼくの上から退いてはくれない。






「ジェイのフィアンセキュ?」

「ち、違うよっ!」

「赤くなってるキュ〜」

「そういうことなら歓迎するキュ」

「ピッポ違うんだって!もう貴方もいい加減に、・・?」





冷やかされて恥ずかしくなり無理に剥がそうと彼女の体を押そうとした時に、首に回された腕が・・いや、彼女の体全体が小さく震えているのが解った。





「どうしたんですか?・・震えて」

「も・・・」

「も?」

「どうしたんだキュ?」





心配したキュッポがぼくの後ろに回って彼女の顔を覗き込んだらしいその瞬間、





「もじゃもじゃーーーっ!!」

「キュキュッ!?」

「はい!?」





キュッポを間近で見て急に僕の耳元で泣き叫んだ彼女にキュッポもぼくも驚いて呆気にとられた。
(ぼくは耳が痛くて鼓膜が破れたかとも思ったけど)

もしかしなくても、この人・・・。




「動物が苦手なんですか」

「やーっ!来ないで来ないでーっ!!!」

「ちょっ苦じっ・・・」







余計に力を込められて首が絞まりそうになった。

冗談じゃないっ、こんなところで死んでたまるかっ!

むしろこんな死に方ごめんだっ。





「何事キュ?」

「大丈夫かキュ?」

「わあ!いっぱいいぃいぃ!」

「だからぐるじ・・っ」






何だ何だとモフモフ族の皆がわらわらとやって来たのと同時に彼女の腕の力が更に増した。このままだとぼくは本気で殺されかねない。


限界がきたぼくは、彼女を力の限り押し返していた。力が強すぎたのか彼女は鈍い音をたてて、そのまま仰向けで倒れ込んで動かなくなった。




「今凄い音がしたキュ」

「ポッポも聞こえたキュ。ごんって」

「ごんじゃないキュ!ガコンっ、だキュっ」





ごんでもガコンでも対して意味合いが変わらないそれは、正しく彼女がダクトの角に頭をぶつけた音の事で、まさか殺めてしまったのかと、嫌な汗をかきながら彼女の体を揺らす。


みんなの目の前で人を殺める事の方がぼくにとっては最悪なシナリオだ。



脈を確かめてみたら生きてはいるみたいで安堵の息を吐いた。


けど、

「気を失ってるキュ」

「みたいだね・・・。」



やけに冷静にいうキュッポにぼくは堪らずため息混じりに相づちをうった。









20120606
投稿日//20120626












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