同居人とワタシ 10
「ふぁーすと、最近みんなでよく野球してるわね。楽しい?」
「うん!だから明日からお父さんに教えてもらうんだー」
「ははは、全く勝手に決めるんだから敵わないな。父さんは構わないよ」
───幸せと言えた時間だった。
いつも通りランドセル背負って家に帰ってみるとお父さんとお母さんが深刻な顔をして座っている。
「ただいまーっ、お父さん今日も、」
「煩いな部屋に行ってろ」
「ちょっと、子どもに八つ当たりしないでよっ・・」
その日を境にお父さんは毎日家に居るようになって、お母さんが朝早くから家を留守にするようになった。
お母さんはお仕事を始めた。
それくらい何となく解ったけど、お父さんについては、お仕事お休みなんだろうな、って認識してたくらいだった。
けどお父さんは薄暗い家の中お酒を飲むようになった。
「ただいまー、お父さん?」
「んあ?」
「今日も野球教えてよ。今日もお休みなんでしょ?」
その時だった。初めて叩かれた。
倒れ込んで呆然と言葉も出ないままお父さんを見上げた。お父さんはもう違う人に見えかけてた。
「子どもの癖に親をバカにすんのかっ?」
「何言って、」
「どうせリストラされて無職な俺を哀れんでんだろ!?」
「あわ・・・?」
小さかった私は、リストラとか無職とか難しいことは解らなかったけど、お父さんは私に怒ってるって漠然と思った。
「そうだ、・・野球したいんだったよな?」
「っ!・・い、お父さん痛いよっ」
私を引き摺りながらランドセルを引っ張り布団が敷かれたまんまの寝室の端へと追いやられた。
顔を上げると少し離れた所、部屋の入り口辺りにお父さんは立っていた。
ボールを持って。
それからと言うもの、お父さんは毎日私にボールを投げつけてきた。
お陰で痣ばかり増えて、お母さんには学校で何かあったの?と訊かれる日々だった。
けれど中学生になってからそれはなくなる事になる。
「そんなんじゃ球なんか取れねえぞっ!おらっ」
「う、・・ふぇ、ごめんなさい」
この頃には髪を掴まれたり、酒瓶を投げつけられたり殴られたり、やることがエスカレートしてた。
「何避けてんだよっ!!」
「や、めて・・やあああっ!」
「ふぁーすとっ!?」
玄関の所でお母さんが驚いたように立っていた。
「仕事が早めに終わったから帰ってみれば・・何なのよこれ!」
「っおかあさん、ち・・違うんだ」
お母さんは私を庇いながらお父さんと口論していた。
そして離婚して私はお母さんの実家で暮らすことにしたんだ。
「──・・あ、れ」
「起きました?」
目を開けると覗き込んでくるジェイ君がいて、慌てておき上がる。
「いつから寝てたの、私」
「朝から。因みに今は十時回ったところです」
そっか、寝ちゃったんだ私。よく見ると私の部屋だった。
「ここにきた記憶がないんだけど、お母さんが運んでくれたの?」
「いえ」
てことは・・・・
「ぼくです」
「お、重かったでしょ」
もう恥ずかしくて死にそう。そう顔を背けたらジェイ君が頭を撫でてきてびっくりした。
「ジェイ、くん?」
「ふぁーすとさん、・・」
あれ? 何で?
ジェイ君の顔が近づいてき、
「あらー?お邪魔しちゃったかしらん?」
いきなりのお母さんの登場に慌てて離れる私たち。
そんな私たちを見て今にも吹き出しそうなお母さんはニヤニヤしている。
「ねえ、あなた達ホントに恋人じゃないの?」
「「ちがいますっ」」
「あ、ジェイ君。さっきは長々と話し込んじゃってごめんなさいね」
一瞬ジェイ君の表情が苦痛に満ちていた。いったい何の話をしていたのかを聞いてみた。
「秘密です」
「え、・・お母さんに訊くわ。お母さん、」
「私の海外での活躍を、ね?」
「は、はい。そんなとこですね」
へんなの。
そのあとジェイ君と私をお母さんが茶化してきた。
20130118
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