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同居人とワタシ 06











今日は休みでジェイ君の部屋を準備しようと、埃だらけの部屋で一人黙々と掃除をしてる。
なんで一人かと言われればジェイ君は用事があるからと出掛けたからで。


締め切っていたカーテンを開けても曇天のせいか部屋は薄暗い。

にしても懐かしいものばかり置いてあるな。これとか私が使ってたリコーダーだし。







「ある程度は終わったかな、と」



あとは本棚。

本棚なのに要らないものを置くスペースになってしまっていて、ジェイ君が本を置ける状態じゃない。


ちゃっちゃかここの片付けも始めますか。

そう意気込んで手を伸ばしたら本棚から何かが落ちた。何かと思って見てみると小さい時に私が使っていた野球ボール。


最悪だった。

薄暗い部屋に野球ボール。






「・・・・」




無意識に体が震えて野球ボールから離れた。
フラッシュバックするのは、数年前の出来事たち。段々平常心を保てなくなって力が抜けたように座り込む。






「あ、・・やめて、」




自分の肩を抱いて私は体を小さくした。前には已然として床に転がっている野球ボール。

頭も体も、拒絶している。





『さぁ、遊ぼうか』
「あ・・・ど、して・・」




やめて、・・ダメなのっ。







「もうやめてえっ!!!」

「ふぁーすとさんっ?」





名前を呼ばれて混乱しながらも扉の方を見てみるとジェイ君が目を見開いては渋い顔をして立っていた。

そして、歩み寄ってきた。
でも、





「やっ・・」



頭じゃジェイ君だと理解していても体は言う事を聞いてくれない。
視界には転がるボールとジェイ君。けれどそれは、あの人、あの場面と重なった。






「ふぁーすとさん、ぼくです」

「・・っ、」

「解りますか?ジェイですよ」

「ジェ・・く、」

「はい」




目の前まで来てしゃがんでは私と目を合わせてくれたジェイ君は優しく微笑んでくれた。

それ見て少し安心して涙を流す。するとジェイ君は私の手を握り立たせると部屋の外へ連れ出してくれた。

廊下で二人、突っ立ってればジェイ君はそっと頭を撫でてきて、私は漸く落ち着きを取り戻した。






「ジェ・・・・くん」

「何があったかは訊きませんから、あとはぼくに任せてください」

「けど、」

「いいから。ふぁーすとさんは休んでいてください」





いつもとは違って優しく言ってくれたジェイ君に、ありがとうと一言残して階段を降りた。


もう何年も前の話なのにまだ怖がるなんて情けないな。ジェイ君にも迷惑かけたかもだし。

お茶を飲んでさっきよりも何倍も落ち着いた私は、縁側でぼんやりと空を眺めた。



















「ふぁーすとさん、ふぁーすとさん」

「ん・・」





あれ、私・・・・・・。

気付けば日は傾いて空が橙に染まってる。






「風邪、引いちゃいますよ?」

「寝ちゃってたんだ、私」

「はい。グースカ寝てました」



ぐ、ぐーすか?
うそ、私いびきかいてたとか?

考えただけで顔が熱くなってジェイ君と向き合う為、体を少しずらしたら何かが私の上からずり落ちた。

それはタオルケット。





「ジェイ君が被せてくれたの?」
「あ、まぁ・・はい」

「・・・・。ありがとう」




自然と笑って言ったら何故か顔を逸らされた。

どうしたんだろう、と思ってみたもののあまり気にも止めずに夕飯の支度を始めようと立ち上がった。





「今日は何作るんですか?」

「んー・・いつもならあるもので簡単なモノ作るんだけど」



歯切れの悪い言い方にジェイ君は眉をしかめ、怪しむような目をし始めた。





「何かリクエストあったら、聞くけど?」

「はあ、」

「時間も沢山あるし、買い出しにも行けるしね」




目を丸くしたかと思えば直ぐに笑顔を作った。顎に手をあて、斜め下に目線をやりながら、んーそうですねー、と悩む素振りをする。





「美味しいもので」

「美味しいもの?」

「はい。久しぶりに美味しいものを食べたいので」




この子は何が言いたいんだ。遠回しにこの数日私が作った献立は美味しくないと言いたいのか。

そんな考えに辿り着いては、ジェイ君を見てみると、・・・・・・やっぱり。





「なーにニヤニヤ見てるのかな?ジェイ君。まさかとは思うけど私の料理が不味かったとか言わないよね?」

「まさかそんな失礼なこと。不味いなんて思ってませんよ」

「・・・・」





的外れな回答に拍子抜けした私は、さっきまでの疑り深い自分を恨んだ。






「ただ、特別美味しいとはお世辞でも言えませんけど」

「・・・・・・・」















結局いつも通りの夕飯を食べてる私達は相変わらず黙ったままだった。


けれど、そんな静かな空間に彼の声が響く。






「昼間のことなんですけど」

「あ、うん」

「トラウマ、でもあるんですか?」

「・・・・そう、なるかな」




気まずくてぎこちなく答えれば、そうですか、と一言だけ言えばまた食事を始めた彼。

気を使って深くまで訊かないのだろうか。でもそれはそれで有り難いのかも知れない。






「そう言えば帰ってくるの早かったね。てっきり遅くなると思ってたよ」

「はい。面接をしに行っただけですから」

「面接?バイトの?」

「そうですよ。ぼくもお金が何かと必要な歳なんで」





そう言えばジェイ君からその類いの話を聞いたことがなかったな。

やっぱり年頃だしお金も使うよね。





「そっか。頑張ってね」

「はい。勿論ですよ」

「コンビニ?」

「いえ」

「飲食店?」

「まあそんなところです」




飲食店か。私が働いてる場所は皆優しいけど、ジェイ君の所もそんな人達が居れば良いな。





「じゃあ今度食べにいくねっ」

「御勝手に」










20120926
投稿日::0928









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