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同居人とワタシ 01











時は放課後、友達の居残りに付き合わされて少し遅くはなったけど、今日はバイトもないし友達と真直ぐ家に帰宅していた。夕日のおかげで、まだ少し明るい時間から帰ってゆっくり出来る時間がある、と思うと何とも言えない開放感を感じて思いきり背伸びをした。





「あだなってばニヤニヤしすぎ〜」

「だってこの後バイトが無いんだよ?のんびり出来るじゃない」

「あんさー、だからってそんな顔すんなっつの!私なんてこの後弟の面倒見なきゃいけないんだからさ」

「良いなー弟。弟ほしい!」






あんな面倒なもんいらんわっ、とノーマが悪態をついて私は思わず笑ってしまった。

本当に弟が・・妹でも良いけど欲しいんだよね。離婚してからお母さん出張ばっかで滅多に家にいないし、ちょっと物足りなさがある。


だって少し広い母の実家はおばあちゃんも二年前に天国に行っちゃって私しか居ない状態。

夜になれば怖いの一言だった。

その点ノーマは弟がいるからいいなー、なんて羨ましく思う。


ノーマとは二つ年が離れてるけど、通学路が同じってのがあって学校へ一緒に行く内に仲良くなったいわばご近所さん。





「んじゃ、また明日ねあだな」

「うん。じゃあね」




分かれ道に差し掛かってノーマと別れて直ぐに家に着く。玄関を開けると誰も居ない筈なのに知らない靴が置いてある。


私のじゃない・・、お母さんかな?でもお母さんスニーカーは持ってないし履きたがらないはず。





「おかーさーん・・?」





怯えながら小さく呼んでみるもやっぱり返事なんて返ってこない。そもそもお母さんの今回の出張は来月戻ってくる予定だし、誰も居るはずなんて無い。

もしかして泥棒?強盗・・?あれ、意味同じ?でもでも泥棒が靴をこんな丁寧に並べるものなの?

でもでもでもっ、もしもの事ってのがあるし・・。


玄関先に置いてある傘建ての中から物音を立てないように傘を抜いてみる。ここで物音を立てなくてもさっき玄関の音、思いっきりたてたし、お母さんを呼んでみたから今更無意味かも知れないけど。


傘を構えて何があるか解らないから靴を履いたまま一歩一歩と家の中へと踏み込んだ。居間の扉を少し開けて中を覗こうとしたら中から微かな物音がして背中に嫌な汗が一気に流れた。

意を決して勢いよく障子を滑らせる。スパーンと綺麗な音が出たと同時に戸棚を開けようとしてる知らない少女・・少年?どっちでもいいや、子どもがこっちに振り向いた。





「それ以上触らないで!警察呼ぶわよっ・・?」

「・・は?」






怪訝な顔をした子どもはいかにも訳が解らないと言いたげに見てきて、私は戸惑いながら傘を握りなおして臨戦態勢をとる。






「き、キミ、泥棒でしょ。警察呼ばれたくなかったら素直に、」

「何言ってるんですか?あなた。それに土足で家の中を歩くなんて不謹慎ですね」

「へ?」





物凄く冷静な相手にキョトンとして思わず間抜けな声を出してしまった。






「とにかく、傘をおろしたらどうです?見てて馬鹿みたいですよ?」

「ちょっとっ!馬鹿って・・・あ、そうか解った。そうやって私に油断させようって魂胆ね?」

「・・・とことん救いようの無い馬鹿ですね」





これまた冷静に突っ込まれ、何だか怒りを通りこして悲しくなってきた。

何でこんな子どもに馬鹿と何度も言われなくちゃいけない。






「泥棒の癖に、」

「その様子だと、あなたの母から何も聞いていないようですね」

「何言って・・・泥棒なんじゃ・・、」

「その台詞そっくりそのままお返ししますよ。土足の上、忍び足でやってきて傘を振り回そうとしている貴女の方が傍から見れば泥棒そのものです」






言われて見れば、そうかもしれないけど。じゃあこの子はいったい誰だっていうのよ。家を間違えたとか?
中まで入らないと解らないとか重症だけどそういう病気なのかもしれないし・・。






「泥棒・・じゃないってこと?」

「はい」

「えっと・・じゃあボクは迷子なの?」

「はい?」






できるだけ優しく言ったつもりの私の質問に思いきり眉間に皺を寄せたこの子は私を睨む。






「家間違っちゃったの・・かな?」

「あなた・・、ぼくをそこら辺の小学生だと勘違いしてるんですか」

「え、違うの?じゃあ中学生?」

「・・・。殺してあげたくなってきますね」

「ひっ!!やっぱり泥棒なんでしょ!」

「違いますっ。とにかく今すぐにあなたのお母さんに連絡してみてください」






急に物騒な事を言い始めたこの子にすぐさま傘を構えなおしたけど、お母さんに連絡しろってどういう事よ。意地でも電話なんてかけるもんか!その内に逃げるかもしれないのに。






「あなた、まだ僕を疑ってるんですか」

「と・・当然でしょ?」

「・・解りました」






業とらしくため息をついてポケットに手を突っ込んだ。

何だろう?・・もしかして刃物とかそういうもの?傘で勝てるかな?


すると取り出したものは携帯電話。私が呆気に取られていればこの子は何かを押したあと携帯を耳に当てる。






「ちょっと・・何して」

「・・・・・。あ、おかあさんさん?」







おかあさんって・・お母さんの名前・・。







「・・はい、はい。・・・・ええ、無事に着きました。はい。」

「・・・・・・」






何が起きているんだと驚いていたら、この子は目の前まで来た。携帯を差し出してきて受け取ればそっと耳に当てる。






「もしもし、?」

「ふぁーすと?元気にしてる?」

「お、お母さん?!」






本当にお母さんだ。でもいったい全体なんでこの子が知ってんの!






「ごめんねー。忙しくて知らせるのが遅れちゃったのよ」

「な、何の事?」

「ジェイ君いるでしょ?」

「ジェイ、くん?」





私は目の前の子を困惑したように見れば自分を指差して頷いてる。ってことは・・この子がお母さんが言ってるジェイ君。





「その子を引き取る事にしたの」

「えっ!引き取るってお母さん!何でよ!」

「ちょっと込み入った理由なのよねー。ってことで仲良くしてあげてね」

「まってまって!意味解んないから!」

「お母さんもそのうち戻るからね〜、ばいばーい」
  プツッ・・ツー・・ツー・・





おかあさん・・何を考えてるのよ。じっと目の前の子を見つめるとこの子もニッコリ笑って






「という事なので、宜しくお願いします。ふぁーすとさん」






と口にするのだった。






20120522
投稿日//












あきゅろす。
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