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動き出す







「アルフレド、ちょっといいか?」



皆が寝てる中、バランに呼ばれて外に出た。

柵に寄りかかりながらエレンピオスの空を見上げ、二人で沈黙になる。けどバランは思いの外直ぐに口を開いた。





「ふぁーすと、目が赤かったけど?」

「へー」

「ふう、お前はいつもふぁーすとを泣かせてたな。泣かせてはおばさんに怒られてたし」

「・・・」

「昔っから不器用だよ、お前は」




バランはクスクス笑って街の景色を眺めてやがる。ふぁーすとにはきつい言い方をしたかもしれない。それは真っ白なあいつを汚れきった俺の傍にいさせないためだ。





「あっちで何してたかなんて訊かなくても何となく解るけど、だからってふぁーすとを突き放す必要がある?」

「あいつは真っ白で綺麗過ぎなんだよ。天使かってぐらい」

「おーおー立派な詩人だね〜。このロマンチスト」

「茶化すな」






はははと笑うこいつにため息すら出てくる。でもま、らしくない事言ったっちゃ言ったかもな。





「あ、そうだ。ふぁーすとのイヤリング見たか?」

「ん?あ・・ああ」

「あれ覚えてるか?」

「ああ、俺があげた」

「あれ元々ブレスレットだったろ。ふぁーすとな?十年くらい前まで腕にはめてたんだけど、きつくなったらしくて態々装飾品店でイヤリングにしてもらったんだぞ?」

「おもちゃみたいなやつだったからな。小さいだろ」





ミラ達と転々としている間、装飾品店でガキが着けるようなやつを見る度に、ふぁーすとを思い出してた。

今頃何してんのかな、とか、あんなガキの頃にあげたやつは捨てちまってんだろうな、とか勝手に思っては虚しくなったっけか。けど、二十年ぶりに再会して耳元で小さく揺れるイヤリングを見て物凄く嬉しく思った。

形は違ってもまだ付けていてくれてんだなって。
なのに俺は・・、






「アルフレドはあっちに行って会わない内にふぁーすとに対する想いを忘れたのか」

「まー、一時期彼女もいたしな」

「はは、だろうね」





そう俺にはジル・・プレザがいた。短い間ではあったが、お互いを居場所にしてたし、愛し合った。
けど、俺は逃げ道を作って裏切った。

俺にはこんなどうしようもない過去があるが、ふぁーすとはどうなんだ?少し・・、いやだいぶ疑問を抱いてバランに向き合う。





「あいつはどうなんだ?」

「ふぁーすと?ふぁーすとはモテる時はモテてたな」

「じゃあ、」

「でも片っ端から断ってた。私、まだ気持ちを伝えていない人がいるのでごめんなさい≠チてね」





バランの話し方でさっきまで恋沙汰の一つや二つあるんだとばかり思ったら、あいつは本気で俺を待ってたのか。少しも揺るがずに。ただ俺だけを。


・・・でも待てよ?バランのやつ、





「お前は何でそんなキレイにふぁーすとの断り文句知ってんだよ」

「何でって、その一人だからね」

「は?」

「キレイにフラれたよ。アルフレドが〜って」

「ははっ・・・・バカだなあいつ」

「そうかもな。お前も気持ちなんかもうないってのに」





それを言われて少し胸の辺りがつまった。認めたくねぇ、そんなの。俺の中のどこかでそう叫んでやがって自分に呆れそうになった。





「違えよ。・・気持ちがない訳じゃねえ」

「へー?さっき言った綺麗過ぎるってやつか」

「ああ。俺はもう変わっちまったよ」





変わっちまった。あいつの知らない俺に。

けどあいつは相変わらずの純粋無垢で、今の俺には高嶺の花もいいとこだ。好きでいることを続ければ両想いなんだろうけど、俺の一方通行だったら良かったのに。





「変わった?どこが」

「どこがってお前、」

「未だにピーチパイ好きで臆病で不器用で、毎度毎度ふぁーすとを泣かしてるのに、何が変わったんだよ。ま、泣き虫は直ったみたいだけど」

「・・・・」




変わってない?・・そうかもしれねぇな。俺が勝手に二十年前までの俺とは違うんだって考えてただけかも知れない。俺よりもバランやふぁーすとの方がちゃんと俺を見てたんだな。





「もう少し、向き合いなよ。ふぁーすとと」

「だから俺は、」

「それじゃ邪魔にならない内に戻るから」

「は?・・・あ」





バランが戻ろうとするから俺も戻ろうと振り替えったらふぁーすとがマンションの入口辺りの街灯の前に立ってた。バランだけが建物に入り、俺はただ少し遠くにいるふぁーすとを見つめたまま動かなかった。


何でこんな時間にここに居るのか解らないが、苦笑いをすればあいつも少し微笑んで俺の所まで来た。





「起きたのか?」

「うん、いつの間にかバランの家で皆と一緒に寝ちゃってたみたいだし。そろそろ帰ろうかなって」

「こんな夜中にかよ」

「そ。こんな夜中に」





バランの様に俺じゃなくて街を眺めながら話すふぁーすとは、今にも泣きそうだ。





「今でもよく泣くんだな」

「アルフレドが居ない時は泣かないようにしてたんだけど、やっぱりまたアルフレドに泣かされちゃった」

「はは、そーかよ」

「私が昔近所の子に虐められて泣いてたらアルフレドってばこいつを泣かせて良いのは俺だけだー≠ニか言いながらその子達と大喧嘩してたよね」

「俺だけの特権か」

「そうよ。私をいつも泣かせれるのはアルフレドだけだよ」





そんなこともあったな。でもそれ以上に二十年の間に色々経験しすぎた。重いのは俺の方だ。





「アルフレド・・、好きだよ。アルフレドは違うみたいだけど」





突然俺を見ずに言ったこいつへと思わず目を向けた。

柵を持ってるふぁーすとの手は、小さく震えててやっぱり横顔でも解るほど涙をこらえてる瞳。
俺はふぁーすとが好きだったんだな、昔っから。

好きで好きでどうしようもなく好きだったけど、会えないだろう、会ってももう俺には目を向けないだろうと、忘れようとしてたんだ





「違う」

「・・何が」

「好きだよ、俺も」





驚いたように漸く俺を見たふぁーすとの顔は昔のように相変わらず間抜け面で思わず笑ってしまった。





「笑うなんて・・からかったの?」

「違えよ。気持ちを正直に言ったまでだ」

「じゃあ・・」

「けど駄目だ。俺はお前を好きになって良いような奴じゃねえよ」





色々ありすぎて汚れきった俺がお前と居たいって願って良い筈がない。

自分を嘲笑ってふぁーすとから視線をずらす。





「アルフレドは気持ちを操作できるの?」

「・・・」

「すごいね・・・、感心するよ。私にはそんな器用な事出来ないから」





その皮肉混じりの言葉に耐えられなくてふぁーすとを腕の中に閉じ込める。俺の肩にこいつの頭があるからどんな顔をしてるのか皆目検討もつかない。





「俺だってそんな器用な事出来ねえよっ・・」

「ア、アルフレド・・」

「出来ることならお前と居てぇよ、いろんなお前を知りてぇよっ。でもこんな俺にどうしたら良いのかなんて解らねえんだよ・・・!」

「それが本心ならそうしてよっ。難しく考えないで私と居てっ・・・」





力を緩めてふぁーすとの顔を除くと泣いていて、俺を見上げれば余計に泣き出す。

今の俺の顔、とんでもなく余裕の無い顔してんだろうな。





「好きだ・・、ふぁーすと」

「ふふ・・・、アルフレド」

「ん?」

「おかえり」

「、・・ただいま」





動き出す秒針












20111022
投稿日//20120628

バランってこんな口調だったっけ(゜ロ゚)






あきゅろす。
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