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止まったまま






「バランさんこんにちは。研究所に来ないから様子を見に来たんだけど」

「あーごめんごめん。色々あってね」

「?」

「お、今日もイヤリングばっちしだな」

「いいでしょそれは」





私はバランの住むマンションまで来てみると、憎たらしいくらいにへらっと出迎えてくれた。


研究所に来る日に来ないなんて何かあったのやもと見に来たのにこれだもんな。心配してるこっちの身にもなってもらいたいくらいよ。

色々、とは何なのか解らないけど、疲れたようにため息をついてしまう。まあ二日間研究所に籠りっぱなしじゃ疲れもするか。なのに交代の時間にこの人は来なかった。幼馴染みだからってこれは酷いよ。






「そんな顔するんじゃないよ」

「したくもなる」

「まあまあ。朗報だってあるし」

「何なの?」

「とにかく中に入りなよ」

「・・・怪しい」

「ふぁーすとになんか何もしないって」




ちょっと、そんなこと言われたら泣きたくなるんだけど。中に誘導され奥まで足を踏み入れればお客がたくさん・・・。



「えーと、こんにちは」





茶色い髪の女の子がぎこちなく挨拶をしてきて、私も反射的に挨拶をした。バランを見てみたら目が合ってまた微笑んでくる。





「リーゼマクシアから来たんだ」

「そう、なの?」





バランの言葉に少し驚きながらもリーゼマクシアからきたこの人たちをつい一人ずつ凝視した。

その内の一人の男性に私は疑問を抱く。知ってる気がする、でも解らない。その時点で私は気のせいだと判断した。


けれどあちらは満更でもないように私を驚いたように見てくる。





「お前・・」

「え、と・・ん?」






苦い顔をした彼に戸惑っていれば後ろにいたバランが私の肩に手を乗せて、ゆっくりと頷く。





「知ってるはずだろ?」

「え・・」






改めて彼をまじまじと見て、まさかと思った。





「お前やっぱ、ふぁーすとなのか?」

「アル、フレド・・・?」

「そう、君が二十年間待ち続けた、」





間違いない、彼だ・・アルフレドだ。


私はいきなりの事で居ても立ってもいられなくて思わず走り部屋からでてしまった。エレベーターに乗って立ち止まった時に少し冷静になる。


アルフレド。


彼は二十年前、姿を消してそして、・・──。


完全に落ち着いた私は小さな公園のベンチに腰を下ろした。

彼は戻ってきた。私はこの日を待ち望んでた。でも、なんで逃げちゃったんだろう。もう会う事なんてないかもしれないと半分以上諦めていたからなのか。






「何逃げてんだよ・・」

「・・、アルフレド?」





膝に肘を付いて頭を抱えていたら頭上から聞きなれない声が降ってきて顔を上げた。

彼なんだろう、本当に。でも二十年は大きかった。別人になるには充分な月日だ。


何て声をかければいいの?
変わってないね、なんて嘘でも言えない。彼からしてみれば私も随分と変わってしまって見えるのだろうか。





「懐かしいな」

「そうね、・・二十年だもん」





隣に座られて思わずうつ向いてしまう。彼の顔を直視できないなんて。こんな私を彼はどんな風に見てるんだろう。




「アルフレドが本当に戻ってくるとは・・」

「あれ、俺歓迎されてない?」

「違うのっ、ただ・・どんな顔して会えば良いのか解らなくて」





それどころか、どんな風に話していたのかも解らなくなっていて。彼といた想い出は幼かったからか酷く断片的で、曖昧で、でも確かなのは私が彼に恋をしていた事だけ。





「俺だって解んねえよ。でもお前変わってないな」

「へ?」





その言葉に彼の顔を見ると、少し安心したような目差しだった。




「変わりすぎてたらどうしようかと思ったぜ」

「アルフレド・・。アルフレドは変わったの?」

「・・・さぁな」





どう思う、と問われて正直焦りを感じた。変わったと言ってしまえば、私がそれを認めてしまえば、アルフレドをまるで知らない人のように思うかもしれない。それこそどう接すればいいか解らない。




「お前、俺を待ってたんだってな」

「・・・、うん。待ってた」

「嬉しいよ。でもな、俺はお前が待ってた愛しいアルフレドなのか?」

「・・っ」





そう貴方はアルフレド。
私が好きになったアルフレド。





「二十年もご苦労なこった」

「・・?」

「俺はあっちで汚いことばっかしてきたんだぜ?誰かをたくさん裏切ったり罪のない奴の命を奪ったり、女の味を知ったり」

「・・・・っ!」





絶望に近いこの感覚はなんだろう。とてもじゃないけど言い表せない。





「俺とお前じゃもう、・・釣り合わない」

「そんなこと、」

「ないって言えるか?そんなに動揺して」





彼の目を見れば言葉を失う。何でそんなに、




「それと二十年も待てるってすげえのは認めるよ。ただ、」




冷たい目で私を見るの?




「重いぜ?そういうの」

「!!」






立ち上がって建物の中へと消えていくアルフレド。バランの部屋に行ったんだろう。





「重い、か。・・はは、そうよね」





二十年も待つなんて私はバカだ。あの頃のままだなんて、そんな筈ないのに。彼の中はその二十年の間ちゃんと時が流れていて。





「アル・・、アルフレドっ・・」





止まったままの秒針







20111022
投稿日//20120628









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