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これで。













 日が沈みきっていても泉の水で綺麗な黄金色の髪が濡れているのが遠くからでも分かった。




「シャーリィ?」

「ふぁーすとさん…?」




やっぱりシャーリィだったか。もうすっかり暗いのに一人で泉で遊ぶなんて危ないのに。けど、彼女の様子はどこかおかしい。近づいたら分かった。遊ぶ…というよりも、そんな感じじゃない。





「どうしたの?何かあった?」

「お兄ちゃん、守るべき人を見つけたって。…馬鹿みたいですよね。妹が相手にされる訳が無いんだよ。」





誰なの?、なんて訊かずとも分かっていた。風の噂とは仲間内だと特に早いから。こうなる事を少し予想してた分、何とも言えない気分になる。

 何も言えないでいると、もう一つ人影が近づいてくる。





「シャーリィさん、ここに居たんですか。」

「……、ほら、お迎え来たよ。」

「ジェイ…。」




私は素通りか、なんて今に始まったことじゃないからいい。私は平気だ。いつから彼の事をジェイ≠ニ呼ぶようになったんだろう、いつからこの二人はこんな仲になったんだろう、なんて疑問も、きっと私の中ではもう古い疑問で、毎度シャーリィのピンチを救いに来るジェイを胸がギュウギュウなりながら見ていた。


 すっかり濡れてしまってるシャーリィを複雑そうな表情をしながら近づいて行った。




「帰りましょう、風邪を引いてしまいます。」

「いいよ。ジェイ達は帰って。」

「ぼくが嫌なんだ。…ぼくはシャーリィさんを放っておくなんて…嫌なんです。」





蚊帳の外になってしまった私はそっと二人の傍から離れて街に戻る。一番始めに街で会ったのはウィルだ。話しかけられないなんて事は有り得ず気さくに挨拶をしてくれた。




「ようふぁーすと、今から帰りか?」

「ええ、…帰るつもり。またね。」




そう言ってダクトを目指そうとすれば呼び止められた。





「おい。何だか顔色が悪いぞ。」

「そ?たぶん最近休んでないからだと思う。」




そんな時、パン屋の方からノーマがひょこっとやってきた。




「あだなじゃーん!仕事帰り〜?」

「まあね、だから今から帰るところ。」

「えー?少し話そうよっ。」




 嬉しい誘いだけど正直迷うというもの。このままここに居ればきっと見てしまうから。そう思っていた矢先、ウィルが声を上げた。




「あれはジェイと、。」

「それじゃあ私はもう行くね。ノーマ今度ゆっくり話そ。」




そう言ってダクトへと急いだ。





「…そういうことか、あだな……。」







































―――――…・・






 ダクトでモフモフ族の村まで行って、中に入らずに外れにある自宅へ向かう。

 元々はモフモフ族に育てられてたけど今は村に居場所がないから村を出た。ジェイを見るのも嫌になってたってのもある。それにしても、ジェイがやって来た時は、…。




「本当に…大変だったな。」





 懐かしんでいたらいつの間にか家に到着。比較的に古い捨てられ小屋だけど、私にとっては新居なんだよね。

 あの後どうなったんだろう。ジェイは相変わらずシャーリィの傍についてるのかな?あんなか弱い女の子だもんね、好きにもなっちゃうよね。




「私は…、ジェイに協力できるかな…。」





さっきの事もあって今は何も考えないようにゆっくり目を閉じた。











 数日後、ホタテを切らした私はモフモフ族の村に足を運んだ。勿論ジェイの居ない時間帯に。ホタテをしっかり袋に詰めて村を出ようとすれば、シャーリィが村に入ってきていた。お互い足を止めて数秒見合った後、彼女は笑顔になって駆け寄ってきた。





「ふぁーすとさんっ、買い物?」

「ええ、買い物だよ。シャーリィは?」

「ジェイに会いに来たんだけど、居るかな?」



少しそわそわしているシャーリィは文字通りジェイに会いに来たとの事らしい。彼女よりジェイの行動を把握できる私は少しだけ優越感。




「ジェイはまだ居ないよ。この時間帯は大抵ね。」

「そ、か。少し村を回りながら、待ってようかな。」

「ふーん、良いんじゃない?私はもう行くから回るなら気を付けてね。」

「ふぁーすとさん!、少しお話しましょう?」





そう言ったシャーリィはどこか何かに迷ってるように見えて、放っておくわけにもいかない気がした私は、近くの岩にシャーリィを座らせて、すぐ隣で壁に寄り掛かった。





「実はね、一昨日ジェイに告白されちゃって…。」





それはまるで重い石で頭を殴られ、胸に強く押し付けられるような感覚が私を襲った。
 
何て言ったの?ジェイが、告白?とても信じられなかった。





「あのジェイが?」

「そうなの。だから返事をしようと思って来たんだけど、今になって迷っちゃって。」

「セネルの事もあったのにすぐに断らなかったんだ?」

「…それは、。けどこのままもいけないと思って。」




とてもつい最近大好きな人にフラれた人とは思えない。けれど…シャーリィは良い子だ。少なくとも私よりは。そしてジェイは私の大好きな人だから、幸せになってほしい。もし、このままシャーリィがオーケーを出したとして二人は幸せになれるのかな?





「ねえシャーリィ、…。」

「なに?」

「断ろうとしてるの?」

「…、そうだね。好きになるのは少しずつで良いからって言われたけど、このままジェイに甘えてたらジェイに失礼だもの。」





断ろうとしてる。私はほっとしてる。してるのよちゃんと。…安心なんて言葉じゃ足りないくらいほっとしてるの。





「もったいないよ…。」

「え?」

「ジェイは昔と違うんだー。初めてここに来た時なんて表情も無くてまるで人形で…、私も頑張って馴染んで貰おうと色々したしっ…。みんなに会って尚更素直になってすごく優しくてちゃんと男の中の男って感じでっ。」




何言ってるんだろう、私は。そう自分でも思うけど、きっと私はシャーリィには敵わない。この二人が付き合う事がないとしても、私は特にそんな可能性はないんだ。それなら、…。







「そして何よりジェイはきっと、…シャーリィを大切にしてくれるよ?」

「ふぁーすとさん……。」






それだけを言って私は村を出た。

 体中が小刻みに震えてる。きっと寒さのせいだよ。…そうに決まってる。呼吸をする度に苦しくなるのも寒さが悪いんだよ。








「ふ…ひっ…、っうう…。」





空を見上げたら初雪が降ってきた。






これで、いいんだ。



(あだな、リっちゃん達付き合い始めたって。大丈夫なわけ?)
(何が?幸せそうでいいじゃない。)
(……、…。)











20161206

リハビリはもういいかな。









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