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いつまでも









 私は歩けません。だからと言って決して悲観的に思ったことはありません。いつも笑ってますし、美味しい物をいっぱい食べてますし、みんなと遊んだりお喋りしたりしてますし、私にとっては何ら問題はありません。ただ、事故だったんです。ハイ、事故だった。





「ふぁーすとさん、ここで良いですか?」

「うん、ありがとうジェイ。」




車椅子を噴水の傍まで押してくれていた彼に後ろを見ながらお礼を言うと、苦虫を噛むような表情で私から目線を逸らしてしまいました。そして決まって、。





「ぼくがやるのが当然なんです。」





そう言葉を続けるのです。これだけが、この彼だけが私の中で引っかかっていて。





「ジェイ、なんで貴方がやるのが当然なの?」

「だってそれはっ……。」




こんな彼を毎日見なければならなくなってしまった事だけは私にとっては大問題です。


 随分過去にこんな事がありました。





『私、ジェイが好き。』

『はい?ご冗談でしょう。くだらない事を言ってないで人の役に立つ事でもしてください。』





実に迷惑そうに私を振ったのです。私の初恋はそこで散っているのでした。けれど、私の足がこうなったのはこれよりも数ヶ月後で、ジェイが私につきっきりなったのもこの時からです。




「ふぁーすとさん、寒くなってきたでしょう?噴水から少し離れましょう。」

「ねえジェイ。無理して私といる必要なんて、。」

「違う…ぼくがあんなミスをしなければ…。」





そう、彼と任務中に魔物に負けていました。倒せたものの、高い崖に刺さった苦無が原因で岩の瓦礫が戦闘不能状態の私に降ってきたんです。綺麗に私の足の上に。

それからなんです、ジェイが一人責任を感じて気もない女の子の世話をしているのです。





「あのね、ジェイのミスじゃない。魔物も強かったし横たわってた私も悪いんだから。」

「けど、。」



「おい、ジェイ。」




二人で声の方を見るとクロエとセネルがこっちに歩いてきていました。最近この二人とは話していない気がします。何故だか会わないのです。






「お前、いい加減甘やかすのやめろよ。ふぁーすとがいつまでたってもお前から離れないじゃないか。」

「そうだぞジェイ。私もそう思う。……、ふぁーすと。」

「…なに?」

「いつまでジェイに甘えてるつもりだ?確かにジェイの苦無が原因だろうが、四六時中ジェイを連れまわすのはどうかと思うぞ。」





なるほど、…。共に戦っていた仲間にこんな風に思われてるなんて思いもしなかった私は少しちくりと胸に何かが刺さりました。ほんの少し痛いくらいです。ええ、本当に、ほんのちょぴっと。




「同情を引いてジェイが悪い事にして…、俺達ももう見てられない。」

「え、ちょっとセネルさん!」



セネルはジェイをぐいぐい連れて行きます。ジェイなら振り解けるはずですが、私に付きっきりだったため疲れ切ってそんな体力も無いでしょう。或いは、本当は私から離れたかったか。それはそれで構いません。彼が解放されるのなら。





「ふぁーすと、もう一人で大丈夫だろう。私は帰るぞ。」

「うん。…クロエ、。」




クロエもセネル達のあとを追っていくので呼び止めて言いたいことを言いたかったのですが、振り向きもせずに行ってしまいました。





「…一人か。」




一人≠ナはなく独り≠ナしたね。確かに同情だったのかもしれないのです、周りの人は。私と仲良くしてくれた人たちも。それを言ってしまえば、。





「きりが、…ないじゃないの。」






車椅子のホイールを握って村に戻ろうと慎重に街を抜けました。ダクトを目指せばいいだけなんですから。


 漸くダクトの手前に来た時でした。少し段差があり車椅子ごと落ちてしまいました。少し上にダクトの光が見えますが、あちらからは私は影になって見えないでしょう。車椅子から放り出された私は、這い蹲ってある一点を目指しました。ああ、これが匍匐前進というやつですね。




「ふはは……、バカみたい、こんな時に。」




何を考えているんでしょう私は。

一点を目指していましたが、もう力も残っていないので段々意識が朦朧としてしまい少し涙も出てきてしまいました。



もがくのをやめてそっと目を閉じると、真っ先に彼が浮かんでしまい、酷く切なくなって…。

私…わたし…、
   ワタシ……―――。





「ジェ…イ……。」

































――――。













「っ!!!」




目を開けると見慣れた天井でした。



「私…どうして……。」

「起きましたか?」





扉に手をかけて立っているジェイが居ました。そうか、彼が私を見つけてくれたんだと理解してお礼を言おうとしたときです。





「あなた…、何処に行くつもりだったんですか?」

「…え、なにが?」

「死ぬ気だったんですか…。」




ハッとしました。

そうです。車椅子から放り出された私はただただ無心に一点を目指していたんです。





「貴女が気を失っていて良かったです。数メートル進んでいれば、海に落ちてましたよ。」



彼の言うとおり、一点とは海なのです。あの時は絶好のチャンスと思いました。自分の手で自分を殺せるかもしれない、きっとそっちの方が良いと思いました。

何故って、急に自分の存在が虚しくなったからです。





「なんで、…助けたの?私なんか。」

「何言ってるんです…。ふぁーすとさんらしくない。」

「ジェイだって自由になれるっ。…好きでもない私の為に自分を犠牲にしてほしくないもの!」




すると彼が突然ベッドに横たわる私の手を握ってきたのです。思わず彼を見つめると、今まで以上に…いえ、今まで見た事の無い顔でした。



今にも…泣き出しそうな顔でした。






「勝手なことを言うな…っ。ぼくは本気で…。」

「……。」

「本気で!ふぁーすとを好きになったんだっ……。」

「う、そ…。」




私の正直の言葉でした。






「けどジェイ、…私の事…。」

「ええ!もう好きとか思ったことなかったですよ!始めは責任からだった……。けどこうやって毎日毎日…!ふぁーすとはぼくの中を滅茶苦茶にするっ……!どうしてくれるんですか!」




とうとう泣き出してしまったのです、彼が。強がってでも泣かない彼だったのに、泣いたのです。






「邪魔じゃないの…?……私。」

「…ふぁーすとっ。」

「ちょ。」





抱きしめられました。こんなのってありでしょうか?私は心臓が破裂しそうで怖いです。もしかしたら本当は海に落ちて死んでいて、これは夢なんじゃないでしょうか。

もう、周りにどう思われてるなんてどうでもいいです。ただ、今を大事にしたいのです。動かない足を理由にしていると非難をされても構いません。






「離したくない…。離したくない人なんです…ふぁーすと。」

「ジェイ…、ありがとう。」




大好き。













(ジェイ、今日もよろしくね。)
(勿論、ふぁーすと。)








20161127
リハビリどっかーんです。







あきゅろす。
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