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思春期






「ミクリオ、スレイとふぁーすとにも伝えておけ」

「わかったよ」



 ジイジと今夜の事を話していた。まあ大した事はないのだけれど、あの二人は全力で楽しむだろうと安易に想像がついてしまう。ジイジの家から出てすぐそこにある夕陽に照らされた池の前でしゃがみ込む影が一つ佇んでいるのが視界に入った。

そのよく知った塊に歩み寄って声をかけてみた。




「何をしているんだい?」

「…」

「黙ってちゃ解らないだろう、ふぁーすと」



決してこちらを見ない彼女は幼馴染のふぁーすと。こんなに機嫌を損ねているのは随分と久しぶりで対応に困る。



「何かあったか知らないけど、今夜ジイジがバーベキューをした後に、空を見ながら星座について話してくれるそうだよ」

「…」

「いかにも君が食いついて来そうな話だと思ったんだけどね。ま、スレイは確実の楽しむだろうけど」



その時ピクっと反応したふぁーすとに僕は嫌な予感がした。物凄く面倒な予感がする。




「スレイ…いらない」

「……」



やっぱりだ。元々口数の少ない彼女だ、何でも直球な物言いをする。それになんだ、いらないって。

スレイ絡みだとふぁーすとは色々厄介になる。何年か前にも似たような事があったが僕は常にお手上げ状態だった。





「スレイ、ね。何があったんだ?」

「知らない、いらない、会わない」

「何だよその三拍子」

「スレイ、…バカ」



こうなった彼女はひたすらに黙秘し続けるから困ったものだ。僕はため息を吐き、構ってられなくなって彼女から離れた。

そして辿り着いた先、スレイの家だ。さっきふぁーすとと居た場所から本当にすぐの距離だ。考える暇もないくらいに。
 ノックもせずに開けると、彼の姿はない。少し角度を変えてみたら、ベッドにうつ伏せになって枕に顔を押し付けて唸っている情けない僕の幼馴染が目に付いた。
 とりあえず今夜の予定を伝えないといけないな。



「スレイ、あのさ」

「訊くなミクリオ…。俺は今、無だよ、空気だよ、屍だよ」

「……」


こっちも厄介だった。
というか、僕が話題に出そうとした内容とは違うんだが、スレイ。



「何のことだよ。僕はジイジに伝言を頼まれて来たんだけど」

「俺は最低だ…どうしたら……」

「解った、聞くよ、聞くから僕の話も聞いてくれ」

「はあ…どうしよう…」



正直ここまで落ち込むスレイは初めて見るし、見慣れないからは気色が悪い。全く話が耳に入っていないのか、埒が明かないからもう一度ふぁーすとの所に向かう。



「ふぁーすと」

「……」

「仲直りしてくれないかな。あいつも君もこの調子だとどうしたらいいのか、」

「スレイ…突き飛ばした」



突き飛ばした?この華奢なふぁーすとがか?それはまた思い切ったな。全く想像ができない。



「君にそんな力があったなんて」

「違う。私突き飛ばされた…」

「ああ、それなら…って、は?」



あのスレイがふぁーすとを突き飛ばしただと?いやいやそんな馬鹿な話があるもんか。スレイほどふぁーすとを大事にした奴を見たことないぞ。



「何かの間違いでしょ」

「間違い、違う。真実」



体を傾けて後ろから彼女の顔を覗いてみた。ら…、



「ちょ…」


夕日に照らされている横顔は涙で濡れていた。この様子だと嘘は吐いていないみたいだ。とうとう泣かしてしまったか、スレイの奴…。
スレイにも話を聞こうと、またスレイの家に向かった。本当僕は何をしているんだか。





「おい、ふぁーすとを突き飛ばしたのかい?」

「!、違うっ、あの時は反射的にっていうかなんというか、」

「本当とはね。スレイにしては珍しいね、ふぁーすとを突き飛ばすなんて。喧嘩?」

「違う。俺が本読んでて、後ろから…その……」

「その?」



重たそうな口からは中々言葉が続かないスレイにまたもやため息が出た。



「たぶんその本を覗こうとしたんだろうけど、のしかかる形で、俺の背中に…」

「?」

「寄り、かかったんだ…」




はあ、でいったい何なのだろうか。




「スレイ、いつもの事じゃないか」

「だって背中にふぁーすとの胸が、」

「え?」

「あ…」



漸く解った気がした。スレイもお年頃ってわけか。



「……」

「……」

「ふぁーすとの体、女性らしくなってきたもんな」

「ミ、ミクリオ…」

「これからもどんどん成長するんだろうな」

「あああ!やめろおお!」




また枕に顔を押し付けながら足をジタバタさせるスレイ。思春期とはつらいものがある。僕も例外じゃないけど…スレイと僕とじゃ若干違ってくる。

僕は彼女は最近発育が著しい気もしていたし、すっかり大人びたなって思うしだからこそ、ああ女性だってちょっと恥ずかしくなる事も。
そんな僕に対してスレイはふぁーすとを一人の女性としてみている節がある。自分では気づいてないだろうけど。

証拠にこの騒動だ。胸が背中に当たって過剰反応して突き飛ばしたんだろう。僕なら突き飛ばさないでそのままにしておく。彼女を幼馴染として認識しているし大して気にならないだろうから。



「まったく、泣かせるなんて初めてだろ」

「え?ふぁーすとが?」

「他に誰が居るの」



そう言った瞬間、スレイの顔は青ざめてしまった。まさか泣いてるなんて思わなかったんだろう。



「俺っ、」

「うわっ!?」

「行ってくる!」



今度は僕を突き飛ばして家を飛び出すなんて、何か嫌がらせをしてやろうかと本気で思うレベルだぞ。















「ふぁーすと!」

「……」

「ごめん!さっき突き飛ばしたりして」




スレイが両手を合わせて謝ってる、ふぁーすとに。僕は影から見物しよう。




「なんで謝るの?」

「え、…なんでって」

「スレイ、私を嫌い。それなら、ごめん、必要ない」





周りの天族が遠目に二人を僕のように見物し始めた中、スレイはふぁーすとの隣に座り込んだ。



「嫌いじゃないよ」

「うそ、いらない」

「嘘じゃないからっ。寧ろそのっ、…」

「もういい、スレイ、もう会わない」



もう会わないって、こんな小さな村でどうしたら会わないで済むんだろう。そんな事を漠然と考えていたらスレイがいきなりふぁーすとをガバっと抱きしめていた。僕も流石に驚いて開いた口が塞がらない。スレイがまさかこんな行動に出るなんて。




「そんな事言わないで、ふぁーすと」

「え、と…」

「俺はもっとふぁーすとと会いたいし、毎日毎日一緒に居たい」

「スレイ…」




まあでも、一件落着かな。






その夜はとても星が綺麗に輝く日だった。




「で、あの星と星がじゃな、」
「寒くないか?」
「へーき…」
「ワシの話を聞かんかっ!何なんじゃこのフワフワした感じは!」
「ジイジ、無駄だよ。この二人話聞いてないから」
「ふぁーすと、もっとこっち寄って」
「いい加減にせぇぇい!!!」





20150219
初スレイ。増やしていこうそうしよう。









あきゅろす。
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