赤ちゃん
たまたま人間の微笑ましい場面を遠目で眺めていたら、エドナに何見てんのとつっかかれた。
「あれって人間の家族?」
「見る限りそうじゃないの?」
人間が私たちを見えないことを良いことに、そのお出かけ中であろう一家に向かって指を指しながらエドナに問うてみた。けれどやはりどうでも良いようで、適当に返事をしてそっぽを向かれる。
そんな時スレイが、そろそろ宿屋に戻ろうと言い出したから、皆でぞろぞろと宿屋までの道を歩く。けど、やっぱり私はさっきの一家が頭から離れないのだ。
そして思わず呟いた。
「いーなー」
って。
みんなが不思議そうに私を見てきた。私は私でやってしまったと口を押さえて目をそらせば、気づいたことがある。ぼーっとしている間に宿に着いちゃってたみたい。
「もう宿屋の部屋だったんだー、えへへ」
「なんなんだ?君はさっきから」
「本当、なんなの?気味が悪いわよ」
エドナもミクリオも酷いなー、なんてイスに座りながら軽く言うも、スレイがとうとう気になって仕方がないらしい。
「何が、いーなー、なんだ?」
「え、赤ちゃん」
「なっ…!?」
「まあ…!」
「赤ちゃんかー」
その瞬間スレイを除くみんなは一瞬凍り付いたように固まったと思えば、ミクリオとライラはぼんっと顔を赤らめて、エドナに関してはニヤリと不適に微笑む。
「私も欲しいけどどうやって生まれるのかな?」
「いいわ、今からでも試してあげようか。私が」
座っている私の前までやってきたエドナが手を私の頬にピトッと触れた。
「エドナ?なんか近いよ?それに何で私の顎を持ち上げるの?」
「おいっ、ふぁーすとから手を離せ!」
「ミボのクセに生意気」
「そもそも、天族でも赤ちゃんって生めるのか?」
「スレイもややこしい事に興味を持つなよっ」
なんだかミクリオがひとりで頑張ってる。面白いなー。ライラは目を輝かせてハラハラとその場を見守ってるだけだけど。
「だいたいな!何で急にそんな、」
「さっきの家族、赤ちゃんがいて可愛いなって。ただそれだけなんだけど、どうやったら生まれるのかな?加護?」
「バカ発言はそこまでよ。私が教えてあげるわ」
「だから女性同士がしてどうするんだよ!」
すると、エドナが不適に笑った。これはミクリオがいじられるパターンだ。
「女性同士が?して?私たちがいったい何をするの?」
「そ、れは」
「ミクリオ?顔が赤いよ?」
心配しながら見ていたらチラリと私を見ては目をそらした。どうしたんだろうか。余計に心配になってきた。
「あらあらあら、ありえない確率のほうが高いですけれど、万が一にふぁーすとさんの赤ちゃんが生まれるとしたらですよ?それには必要なものがありましてー」
「え、なぁに?」
ライラさんが張り切ったようにずずいとオドオドするミクリオを私の前に差し出した。キョトンと目の前のミクリオをただ見上げてみる。
「ミクリオさんです」
「え?」
「ライラっ何言って!」
「だって、ふぁーすとさんの赤ちゃんのお父さんなんてミクリオさん以外考えられませんもの。それとも他の殿方でもよろしいと?」
「それは駄目だ!」
切羽詰ってるミクリオを不思議そうに見つめていたらスレイが解ったようにパアっと笑顔になって声を張った。
「解った!ミクリオとふぁーすとが結婚するって事だなっ」
「はい?」
「ス、スレイ!」
結婚って、人間の男女が一緒に居るためにやってる儀式みたいなあれ?
「ミクリオとふぁーすとが家族になれば赤ちゃんが生まれるかもしれないぞ」
「結婚したら生まれるの?」
「それは人間ぐらいよ。それとね、結婚したからって生まれるもんじゃないの。細かく言うと、」
「エドナーっ」
「うっさいミボ。気安く触らないで」
なんだかよく解らないけど、ミクリオと私の赤ちゃんか。…よし。
ギャーギャー騒いでる中、ばっと立ち上がってミクリオの手を強引に掴んだ。
「ミクリオ!」
「は、はい!?」
「二人で赤ちゃんを生もう!!」
「な、あっ…!?」
「大丈夫!ミクリオと私なら赤ちゃん育てられるよっ」
すると見る見るうちにミクリオの顔が、真っ赤っかになってそのまま、…。
「ミクリオ?!」
「あらまあ!これが青春っ、純愛!」
「やっぱりミボね」
その後結局、私はどうやったら赤ちゃんが生まれるのか解らないまま旅を続けるのでした。
「ミクリオー赤ちゃん…」
「あー!いずれな!いずれっ」
「やったーっミクリオ大好き!」
「またそうやってっ…!」
「もどかしい距離ですわね…っ」
「なあ、天族も子ども生めるのか?」
「さあ?忘れたわ」
20150208
ミク坊最高だね。
無料HPエムペ!
|