年の最後
一年の最後の日、朝から大掃除をした甲斐もあって落ち着いた頃、カウントダウンに向けての花火を運んでた。
「いて!」
「ちょっと、何やってるんですか」
道中躓いた私は、見事なまでに花火を一面にばら撒いてしまって、青ざめて隣にいたジェイに顔を上げると、それはそれはもう素晴らしい程の…、うん、なんて言いますか、凄い剣幕で私を見下ろしてる。
しでかしてくれたな。と目が訴えてた。
「ご、ごめんっ。すぐに拾うから、」
「まったく、これだから貴方と一緒なのは嫌なんですよ」
ああ、まただ。どうやら私は彼を怒らせる天才らしくて、彼に起こられない日はないんじゃないかってくらい怒られるし、きついお言葉が舞ってきます、はい。
私としてはもっと仲良くなりたくて、いろんな試みをしてきたんだけど、どれも彼には無意味みたいで全てを拒否される。今回は私の我侭で年明けは花火をさせてくれる事になったけど、このジェイだけが乗り気じゃない。いつも私には否定的だ。
「花火がしたいって言ったのはあなたでしょう。ちゃんと運んでくださいよ。ぼくとしては、年明けはゆっくり静かに過ごしたかったんですけどね」
「わ、私が住んでた大陸の街じゃ毎年たくさんの花火で、」
「わかりましたよ、…まったく」
ここで言い返さない方が吉だったのかな。益々機嫌が悪くなっていく彼に泣きそうになる。拾い終えるとゆっくりと立ち上がり、目的地まで歩いていく。その間もジェイは無表情だ。
そもそも私たちの関係がおかしいんだ。こう見えて恋人なんだよ、一ヶ月前から。事の発端は飲めないお酒を(年齢的にも飲んではいけない)飲んでしまった事だ。ジェイは私にべったり、私も彼にべったり、そのままキスをしてしまったのがいけなかった。やる事まではやっていないけど、みんなの手前、キスを見せつけて、仕舞いには恋人だから良いんだと二人で公言してしまった。勿論朝起きれは、隣にはジェイが寝ていて、昨晩の記憶が吹っ飛んでいた、……なんてこともなくて綺麗に全部私の頭に刻み込まれてた。
体の関係はないものの、なんとなく取り返しのつかない事になった気がした私は、ジェイと話し合った。私は彼に好意があったからこのまま付き合えればラッキーと浅はかに思ってた。現実になったけど。どうする?と切り出した私に彼は誤解を解くのが面倒だと恋人のままでいいと言って今がある。
「ね、ねえジェイ。今日キュッポたちとご馳走作るんだ」
「冗談。貴方が作るなんて毒でも入ってそうだし、第一、逆にキュッポ達の邪魔になるんじゃないですか?」
「そんなこと……」
……もう、何でそんな意地悪な事言うんだろう。俯いて下唇を噛みながら泣くのを必死でこらえた。
私が好きになった人は、こんな人なんだ。こんな捻くれた人を私はなんで好きになったんだっけ。今となっては思い出せない感覚を必死に思い出そうにも、目の前の現実が掻き消していってるみたい。
「これくらいで良いでしょう」
「うん!ありがとうジェイ」
「もう面倒ごとはごめんですよ」
「う…ん……」
モフモフ族の村のすぐ傍に花火をセッティングし終えたジェイは村に入って行って、私はただただそんな彼をやるせない気持ちで見つめていた。
ふと、思った。大陸に戻りたいと。興味本位でやって来て、好きな人の傍に居たかった。でも、こんなの正直つらいだけ。
「あっちは盛り上がってるかな…」
しゃがみ込んでセットした花火を自分のお国を懐かしみながら眺めていたら、段々悲しくなってきた。
「ふぇえっ…」
こっちに来てから泣かないって決めてたけど、限界だった。恋人の彼はなんだか怖いし、そもそも恋人は本当に成立してるのかも解らなくなるし。
「!、ふぁーすとさんっ?」
「うぇ…っぐ」
どうやらジェイが戻ってきたみたい。持っていた何かをその辺においてしゃがみ込んでいる私に駆け寄っては屈んで顔を覗かれた。
「なんで泣いて…、どこか痛いんですか?」
「ジェ、い…」
「それとも何かあったんですか?」
「ううっ…ど、して…」
「はい?」
「どうして急にやざじいのー!」
感極まって大泣きしてしまった。そんな私に目を丸くしたジェイは黙った。
「もう大陸に戻ろうとか思ったのにっ、…こんな時に優しくなるなんてっ」
「…だめですか?」
「へ?」
「恋人に優しくしちゃだめなんですか」
「こいびと、って…本心じゃないくせに…」
そう言ったのがいけなかった。彼はどこか悲しんでいるように見えた。はっきり言ってそんな顔は見たことがない。
「ジェ、」
「貴女はそう思ってたんですね」
「…だって、」
「言っておきますけど、将来共になろうと思ってない人を易々と家に住まわせません」
「将来ともに…って」
そういう、ことなの?まるで私がジェイの…、。
「奥さんになる、って…こと?」
「それ以外に何があると?」
「……」
「……」
「やだ」
「は?」
すっかり泣き止んで、唐突に嫌だと拒否してみた。何故かと言えば、…。
「こんなに冷たくされる人生なら大陸に帰る」
瞳が揺らいだ彼は引き気味の私をゆっくりと抱きしめてくれた。彼とこんなに密着するのはあの酔っ払った時以来で、顔が赤くなるのを感じる。咄嗟にジェイを突き放そうと両手で彼を押すも、微動だにしない。寧ろ、力を込められて離してくれない。こんな小さな体のどこにこんな力があるんだろう。
「い、痛いよ…っ」
「知りません…、ふぁーすとさんが傍に居てくれないならこのまま離しません」
「意味解らないよ…っ急に、」
「ぼくが素直な人だと?」
その発言にちょっと驚いてしまった。まさか自分で言うなんて。
「貴女がぼくを好きだと感じたことがなかった。ぼくと言うよりモフモフ族のみんなやモーゼズさん達の方の為に居るんだって感じてたんです」
「要は私がジェイを好きじゃなかったって思ってたの?」
「…だって貴女と恋人でいれてるのは、飲酒をして軽率な行動ばかりみんなに晒してしまったからでしょう。ま、話し合いの時にどちらかが断っていたらこんな奇妙な関係にはなってないですけど」
「…同じだ」
そう、同じだよ。私もジェイは私なんてどうでもいい、寧ろ邪魔だと思ってるって感じてた。けどそれは彼も同じだったってことだよね。
「ジェイ、私も好きだった…ずっと」
「本当…ですか?」
私の肩を掴みながら体を離して疑うように顔を見つめてきた。そんな彼に少し震えながら控えめに頷いてみせた。その瞬間笑顔になって「ハハハっ…」と笑いを漏らしながらまた抱きしめてくれた。
今度は優しい抱擁に私も抱きしめ返して、彼の肩に顔をうずめる。
「ジェーイ!ご馳走が出来たキューっ…てあれ?」
「わ!キュッポっ、」
「お邪魔だったキュ?因みに花火はカウントダウンの時かキュ?それまで邪魔はしないようにするキュ」
大人のような対応をしてくるキュッポに私達は顔を見合わせて真っ赤になった。
どうしよう、急に恥ずかしくなったっ…。全力でジェイを突き飛ばしてキュッポの傍に寄った。
「キュッポ!食べる!みんなで食べるから!家戻ろう!」
「な?!ふぁーすとさんっ?」
後ろで倒れこんでるジェイを残して私はキュッポを抱き上げて颯爽と村に入っていった。
「3、2、1…明けましておめでとう!」
「おめでとうキュ〜〜!」
「おめでとう御座います……」
「ジェイ機嫌直してよー」
「ふん、知りません」
「…私の事…やっぱり嫌いなんだ…」
「!!違っ、」
「キュキュキューっ新年早々泣かしたキュー!」
「ああもう!ぼくを差し置いてふぁーすとさんに抱き着くなよ!」
20150208
遅くなりましたがあけおめですっ。
リハビリ撃沈です←
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