ハレのち恋
「嫁が私の事をどう思っているのか不安でたまらないんだ…。昔は、…」
「そうでしたか。それでは貴方を通して占わせていただきますね」
今日もこの遺跡船とやらは、とても平和だとしみじみ思った。大陸からこっちに態々(ワザワザ)占いをしに来たけど、ここの人達の悩みは大陸の時よりも親身になってあげたくなるものばかり。
何故なら大陸では私の名前は知らずとも、私という占い師がいるという噂は風のように忽ち広まってしまって、どこかの貴族やら帝国やらの人達もが私の所にやってきては、物騒な事ばかりを言ってくるからだ。その人達には顔を見せないように、必ず互いの間には布を張って、私自身にも布をまとって口元も隠すように覆っていた。素性を知られて後々厄介な事になりたくないというのもあった。
そんな大陸に比べればここは顔も隠さずに自由にやれて、本当に開放された気分だ。勿論、ここに居るみんなの悩みだって深刻だ。でも私は国家レベルよりこういう小さく身近な悩みの手助けの方が性に合ってる。
「こんばんは」
それにかわいいお客様にも気に入られたみたいだし。占い目的ではないんだろうけど。
「なあに?また冷やかしに来たの?」
「まさか。天気を訊きに来ただけですよ」
「私はキミ専属のお天気お姉さんか」
「違うんですか?」
「黙らっしゃい」
この年もそう変わらない男の子。…私より年下だろうけどね。この子は出会ってから毎日私がお開きにするギリギリにやってくる。
何でこんな時間に来るのかと聞いたことがある。返答は、最後だったら長く話せるからとの事らしい。万が一お客が、なんて事をぼやいたら、薄く笑って私のテントに、今日は終了しました、なんて札を貼っていると。そもそもそんな札私は作った覚えがないんだけどね。
「ふう、」
「今日は何?ラッコの話?それとも仲間や家族の話?」
「いえ。…一番最初にあなたに会った時の事、覚えてます?」
「覚えてるよ」
「占いなんて信じてないんですけど、あなたの言う事は信じてみます」
「なに突然。気味が悪いよ」
そうヘラリと言ったら睨みを利かせて私の目を見る。だって、昨日までそんな話しなかったくせに急にそんなこと言われたら流石の私だって反応に困るわけで。
「素直にありがとうと言えないんですか」
「キミに言われると何かあるんじゃないかって、…いひゃいいひゃいごめんなひゃい!あひががひょうごじゃいまふっ」
「ふん、知りません」
「いてて、そんなに頬引っ張る事ないでしょ?」
「しりません」
シリマセン、は、いじけた時の口癖だと最近知った。へらへらしながら謝ったら何だかんだで許してくれるのも知った。
「あなたは自分自身を占ったりしないんですか?」
「それは無理だよ。自分の事になると邪念や煩悩が多すぎて占えやしないんだ」
「そうですか。手を握ればその人が考えてる事わかるんですよね?」
「まあ、集中力いるけどね」
「なら、はい」
はい、って何?いきなり手を出してきた彼に、私は目を丸くして首を傾げてしまった。
「ちょっと。話の流れで解るでしょう。今ぼくが悩んでる事解決してくださいよ」
「たった今占いは信じないって、」
「あなたの言う事は信じるって言いましたけど」
減らず口を叩き込んでくる彼に折れて、手を握った。にしてもさっきから落ち着きないし顔が赤いな、なんて思いながら目を閉じて彼のことに集中した。
のが、ちょっと後悔といいますか、何と言いますか…。
「…っ?!」
咄嗟に手を離して自分の口を手の甲で覆う。こっちの心拍数までさっきの一瞬でどっと挙がってしまった。
「ぼくの悩み、どうしたらいいでしょう?」
「…告白してみたら、イインジャナイデショウカ?」
恋の悩みだ。それも質(タチ)が悪い。
「なんで片言なんです。じゃ、質問を変えます。もし告白したとして、良い返事を貰える確立はどれくらいですか?」
「…よ、4割?」
「それだけですか?」
「の、…2.5倍…かな?」
もう確信した。
「ぼく、あなたが好きなんですよね。付き合ってみません?大事にしますよ?」
逃げられないって。占い師、常に冷静でなくてはいけない。けれど…不覚だ。
「返事は?」
「〜〜っ、…よ、よろしく…です」
小さいテントの中、私の唇を一瞬だけれど簡単に奪った彼は、見た事のない幸せそうな笑顔をしていて、胸がキューって締め付けられた。
私の波乱万丈な未来が、見えた気がした
「そろそろ名前を教えてあげます。なので教えてください」
「今さら…。ジェイくん」
「!!何で知ってっ?」
「逆に知られてなかったのね、私」
20141217
また名前を呼ばれないヒロインちゃんでした。
無料HPエムペ!