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ハレのち雨







「そういえば、最近面白い奴が遺跡船に来てるみたいだぞ」



依頼の協力をしてくれていたセネルさんが思い出したように口にした。
 面白い、ね。ぼくが知らないという事は、どうせ大した事ないのだろうと括って流すようにその話を聞きながら依頼結果を読む。依頼結果にだけ淡々と目を通すぼくにとってはくだらない事だと察したのか、少し黙り込んだセネルさんは再度そのことを話し出した。さらには見に行こうとまで。



「セネルさん、ぼくこれでも忙しいんです」

「そうなのか」



特に残念がる素振りもしないまま、夕暮れで橙に染まっていく街並みを見渡しもうこんな時間かとぼやいたセネルさん。今日は二人とも朝が早く、彼も稀に早く起きるんだ、などと失礼ながら思った。

…眠いのだろうか?



「今日はお疲れさまです。また何かあれば声をかけますね」




一言、そうしてくれ、と言えばセネルさんは欠伸をしながら自宅の方向へと歩いていった。

 さてぼくも帰ろうか、などと踵を返し、道中の広場前に差し掛かると、賑やかな声が聞こえてきて足を止める。

別に祭りなどの行事ゴトはないはず。なのになぜ目を向けた広場には列が出来ているんだ。


なぜ、なんて疑問を持ったままでは帰ろうにも帰れないぼくは広場の中へ足を踏み入れた。列の最後尾の女性にこの先に何があるのかを訊いてみたら、ぼくは何ともいえない脱力感を覚えた。



「占い、ね」


非科学的過ぎなんだ。勿論そんな胡散臭いものに、僕は興味はない。けれど、見てもらって帰っていく人に目がいってしまった。

何で泣いてるんだ。


あんな良いオトナを泣かせるほどのものなら一度見てみたいとちょっとした好奇心で列に並ぶ。まあ、どうせ、ありがちな事を言われ、それを真に受けて感動したってオチなんだろうけど。

それに、論理的に責めたらどんな反応をするだろうかと、そっちの方がある意味楽しみだ。





「こんばんは」

「あら、可愛らしいお客さんだ」



僕の番になり小さなテントの中に入ると、如何にも胡散臭さが漂う内装がされていた。
そして小さなテーブル、…なのだろうか頼りない感じに置かれた台越しにクスッと微笑んだ女の子。
一瞬目を奪われてしまうも、気を引き締めて向かいに腰を下ろす。




「さて、キミの名前は?」

「占いにそんなものが必要なんですか?」



質問を質問でかき消せば、きょとんと目を丸くする彼女。そしてまた小さく声を漏らしながら微笑んだ。




「嫌な子ね、キミ」

「性分ですから」

「まあいいや。質問の答えね、私には必要無いよ、名前は。ただ聞いてるだけ」

「私には、というのは?」

「占いなんて人それぞれやり方がある。水晶だったり名前だったり生年月日だったり。けれど私はそう言うのじゃないから」



言われてみればこの狭い空間にはぼくと彼女と、そして二人の会いだにある台。それ以外のものは見当たらない。

ますます興味深い。



「では名乗らなくて良いですね」

「ええ、構わないよ。信じてない口のようだし。それで悩み事とかはあるの?」

「いいえ。…そうですね、僕を信じさせてみて下さいよ」

「まるで勝負ね、いいわ」




すると、ぼくの挑発を聞いた彼女は手を出すように指示を受け、素直に出せば、何の躊躇いもなく僕の手を握った。
その瞬間、全身がゾワゾワとくり立つのを感じた。いや、偶々だと自分に言い聞かせて目を閉じる彼女をじっと見つめた。

暫くそのままでいたら僕の手を握る彼女の手が僅かに跳ねたのを感じた。ゆっくり目を開けた彼女は、一言一言と言葉を紡いでいく。



「強制、裏切り、孤独、…そう、まるで人形」

「…っ」



急に恐ろしくなってその手を無理に振り解いて彼女を見つめたら彼女は僕を黙って見つめて一筋、涙を流す。



「何が言いたいんですか」

「過去をね、見せてもらったの」

「口から出任せでしょう?さっきの言葉も今の言葉も」



いったい何が見えると言うんだ。過去?そんな過ぎたことをどうやって見るんだ。
冷静に見てくる彼女に対してぼくは必死だった。必死に自分に言い聞かせた。見えるはずがないと、ぼくの見られたくない過去が見えるはずないと。



「真っ赤に染まり、命が消える」

「やめ、ろ…」

「突然消えて独り、心に大きな穴が、」

「やめろって言ってるんだよっ!!」



ハッとした時、嫌な汗と動悸が激しい自分に気がついた。けれど怒鳴ってしまったと言うのに彼女は何の動揺も見せない。そして、ゆっくりと僕の頬に手を添えてきた。



「落ち着いて。ね
「はっ…はぁっ……」

「嫌なこと、思い出させちゃったみたい。でも今のキミは恵まれた環境にいて独りじゃないことが手に取るように感じ取れる。少なくとも地獄から平和な日々に戻って幾分か幸せだと思う…たぶん」



少し申し訳なさそうに話したあと、頬にあった手でそっと頭を撫でられた。



「ごめんね、代金はいらない」

「……、」

「さ、出ようか」




そう言って僕の手を引いて二人でテントからでれば、相変わらずの列が出来ていた。

彼女は苦笑いで列に向かって声を張り上げた。


「みなさーんっ、今日はここでお開きにしまーす!並んでいただいたのにごめんなさーい!」




それを聞くなり、落胆の声があちこちから聞こえてきたが、彼女は変わらず、ごめんなさいね、と口にした。



「あなた、見たんですよね」




何のことかは敢えて言わなかった。だってそんなもの彼女が解らないわけないんだから。



「さあ?何のことだか」

「貴女ね、そこはちゃんと、」

「あ、そうだ。はい」



いきなり渡されたそれは傘だった。




「何でかさ、」

「このあと降るから」

「何言ってるんですか。今日は降水確率はゼロに等しいんですよ」

「大雨になるよ、だから帰るときは気をつけてね」



きれいに笑ってそういい残した彼女はテントを小さく畳むと宿屋へと足を運んでいった。
取り残されたぼくは渋々傘に目を移す。
そして、雨も降っていないのに、ばっと開いて少し火照った顔を傘で隠すように歩き出した。







ぽつ、ぽつ…ざあざあ。




「天気予報のバカやろーキュ!いきなり大雨なんて聞いてないキュ!」
「あはは、おかえり」
「?ジェイ、良いことあったかキュ?」
「どうかな?(…また会いに行こう)」






20141207


名前変換なっしんぐ!
続編描きたいなー






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