愛
「・・・・・・」
小屋、基、小さな家を建てていただいてから約数ヶ月。定期的に近くまで来て旅人に物を売る商人がいて、いつもそこで食糧とか色んなものを買ってるんだけど、今日はどうやら来ないみたいで、私は大きくなったお腹を抱えて途方に暮れていた。
魔物が出にくいとはいえ、ホーリィボトルは手放せないし、食料も衣類も調達しなければならないというのに。
どうしたもんかと考えれば考えるだけ時間はあっという間に経ってしまう。
仕方ない、と遠出をする格好をして玄関を閉めた。最後のホーリィボトルをとりあえず家の周りに撒いてからそこを後にした。
このお腹で長い距離を歩くのは結構つらいな。砦とハルルなら・・・、距離的にはハルルね。
今日はハルルで宿をとるのが目に見えて思わず大きなため息が出てしまった。
ハルルに到着したのは夕方過ぎ。
一息つこうと道の端によって座り込み水筒の水を飲みほした。川の水が綺麗で助かったな。あのおじさん達が居たら挨拶したいんだけど、今はハルルには居ないみたい。
よっこいしょっ、と。
立ち上がってお店の人に必要なものをメモした紙を手渡して全部準備してくれている間にお金の準備をしているとコインを一枚落としてしまった。拾わなきゃ、とお腹を気遣ってしゃがもうとした時だった。
「コレ、落としたわよ」
「・・・・・」
聞き覚えのある声に嫌な汗が一瞬で出てきた。顔を上げた相手も目を見開いて私を見ている。
「あんた・・ふぁーすと?」
「・・っ」
リタだ。これまた厄介な子に出くわしてしまった。慌ててマントのフードを被りなおして顔を背けるけど彼女は私だと確信したのか腕を掴んできて離さない。
「ちょっとアンタっ、何してたのよ!エステル達があんたを探してんのよっ?」
「・・・・!」
「声が出ないだけでも面倒だっていうのに、いい加減あの子達に迷惑かけるのはやめなさいよねっ」
「っ!」
無理して振りほどいたら倒れこんでしまった。
そして、
「・・・っ」
痛い・・・お腹が・・・
けれどここから立ち去らないと。
私はなんとか立ち上がって無我夢中で走り去った。必死にお腹の痛みを耐えてだんだん暗くなるフィールド上を林に向かって走る。
そして、漸く林に入りこんで家を目指すも、
「・・・っ・・?」
ここ、どこ?
どうやら私は別のルートから林に入り込んだらしく、自分の位置が分からなくなっていた。
どうしよう・・。お腹の痛さももう限界よっ・・・・。
「っ・・・ッ!」
もう立てなくなってその場にしゃがみ込んだ。そろそろだとは思ってたけど生まれる?それとも、さっきの所為で流産?
意識が薄れそうな中、必死に保とうと努力する。家に、戻らなきゃ・・・・。じゃなきゃこんな所で生んでしまっても川もなければ水もない。
ああ、・・ユーリ。こんな時ばかりあなたに傍にいて欲しいって思ってしまう。
「・・・・っ、」
ユーリ、ユーリユーリユーリっ・・、
「ィ・・、ユーリィィ!!」
声帯が生まれつき悪い私は声が出ない、筈だったのに。
摩導器なしに出るなんて・・。だいぶガサついた声だけど。
声が出たことに呆気にとられていると、ガサガサと音が近づいてくるのが聞こえてきた。たいへん、声を出したせいで魔物が、・・。
声を出そうにももうさっきみたいに出てくれずに空気だけが抜けていく。
音はもう近い。お腹痛いし生まれそうだし動けないしもう、終わりだ。
「あだな!!」
「・・・!」
うそ・・ユーリ?
「お前っ・・。とにかく我慢な?」
「っ・・・」
突然現れた彼にそのまま抱えられて木々を抜けていくと一本の川が姿を現す。
私を近くに降ろすと私のマントを脱がし一部引きちぎって、残った大部分は私の腰の下に敷いてくれた。
「生まれそうなんだろ?気をしっかり持てよ?」
「っ・・・〜〜」
私の耳に響く元気な産声と、横目で見る川の水面に映る月が私を安心させてくれた。
ユーリはと言うと赤ちゃんを何故なのか手慣れたように川の水で洗ってくれている。どうにかこうにかすぐ隣にあった気に凭れ掛かるように横にしていた体を座らせた。体力も限界だな。このまま寝ちゃいそう。
そんな時彼が川から出ていつの間にか泣き止んでいる赤ちゃんをしっかり抱えて私に歩み寄ってきた。
「ほら、お前の子だ。カワイイな」
「(コクリ)」
「リタから急に連絡があって事情聞いたら、マジで腹でかくなってんだもんな・・・・」
ああ、なるほど。だから逃げた大体の方向で探せば見つかりやすいって事か。けど林に入ってしまえば見つかるものも見つからないはず。どうやって見つけたんだろう。
ぼうっとした頭で赤ちゃんを抱っこしながら考えていると、後ろから赤ちゃんごと彼は私を包み込んだ。
「お前、呼んだだろ。オレを」
「!」
「摩導器の時と違って声が変だったけどな。無理に出したから痛いだろ?喉」
「・・・・・」
そっと喉元に触れてきた彼の手を弾こうとも思ったが体力のない今の私の弱々しい手なんて簡単に彼の手によって受け止められた。フッと笑ったかと思えば手を離して抱きしめている手にぎゅっと力を込めてきて私の肩に顔をうずめてくる彼。
「あだな・・帰ってきてくれないか?」
「・・・・・・」
「あんな態度もお前にして来た事も許してくれなんていわねえ。これは俺のエゴだ、ただの我儘・・だ。帰ってきてくれ」
ユーリ・・、ねぇユーリ。ずっと訊きたかったことがあるの。
彼の月光に照らされている澄んだ瞳をジッと見つめ続けて口を動かす。動かし終えたときに彼の目は一瞬見開いては目を細めて私を見つめて言葉にしてくれた。
愛してるよ、ちゃんと。
「名前何にすっかな。ユーリジュニア?いやもっとこう…、あ!ドンなんてどうだ?強くなるぞー」
「……」
「…冗談だよ」
20131213
下書きのままで公開してなかったよ。ごめんなさい。
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