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朝から






「ふぁーすと、朝食ができたので起きてください」

「……」

「ふぁーすと?」



朝の弱い彼女を起こしに来てみれば、頭から毛布をかぶって一切姿が見えない。声をかけても反応がないとなると爆睡してるんだろう。早くしないとピッポたちがせっかく作ってくれた朝食が冷めてしまう。



「ふぁーすと、起きて」

「……」

「聞いてるんで…ってうわ!」




その毛布とふぁーすとでできた塊をゆさゆさと揺らした途端、腰あたりに思い切り蹴りを食らった。油断しきってたぼくはそりゃあもう盛大なくらいにベッドから突き落とされて尻餅をつく。

その時思った。もしかしたらアレだ、と。いや、確実に。カレンダーをちらっと見ればやっぱりだった。彼女は今戦ってるんだ。




「ふぁーすと、ごめん。痛かったですか?」

「……ごめんなさい」



毛布越しにくぐもった声。質問より先に謝ってくるあたり本当に優しく臆病な人だと思う。ぼくは別に気にしてないのに。
まだ大きな塊の隣に腰を掛け、彼女の腰あたりにポンと手を置いた。



「人それぞれだと聞きますけどふぁーすとは筋金入りですね」

「……」

「生理痛」



女性特有の月経はぼくを含めた男性陣には分からない事だろう。とくにその痛みは時には尋常じゃないらしい。だからこそぼくはこの時ばかりは、彼女を寝かせたままにしている。



「初めて会って暫くした時も大変でしたよね…」





ふぁーすとと会ったのは数年前。ぼくがキュッポたちに拾われてから一年か二年後くらい。彼女は雨の中、地べたに腰を下ろして両親の死体を抱えて泣いていたのをぼくらが見つけたんだ。

一緒に住むようになってふぁーすとは初めは警戒していた。だからだろう。ある時彼女は部屋からでなくなった。別に怖いことをしたわけでもなく、痛いこともしていないのにこんなにも嫌われるなんて、と初めの内は思ったんだ。けど実際は違った。



「ふぁーすとさん。開けてもらえます?」

「…だめ」

「どうしてですか?」

「……だめ、なの」



泣いているのか、鼻をすすりながら言っている。これは本当に何かあったのかもしれない。けれど開けてくれないんじゃ話にならないと、ぼくがずっと交渉していたところにキュッポがやってきてトンデモナイ事を言った。




「ジェイ!中から血のニオイがするキュ!」

「は!?」



これは絶対に大事件だとばかりに苦無でドアノブをぶっ壊して中に入る、と。



「やだ…見ないでっ…」

「…」



今にも消えてしまいそうな声で訴えてきたふぁーすとに思わず絶句してしまった。何故なら真っ赤なシミを残したベッドシーツを握りしめ、彼女の足には股から血がつたっていたんだから。ぼくもキュッポも何が何だかわからずに、てんやわんやしてる内に本格的に泣き出した。

そこでふと思い出したことがある。ある一定の年齢になると女性は排卵するとどこかの書物で読んだ記憶があった。もしかしたらこの事なのかもしれない。



「ごめんなさい…私、病気なのかも知れなっ…」

「いえ、たぶん違いますよ。大丈夫だから落ち着いて」



きっと彼女もその時が初めてだったんだろう、その事態に凄く怯えていたから。

ぼくが急いで街に行ってる間に、キュッポたちにお風呂に入れるよう頼んだ。戻ってきてから話を聞くと、血が止まらない、お腹と腰が痛いってずっとわんわん泣いてたらしい。未だ浴室にいる彼女に扉越しに声をかけた。



「ふぁーすとさん」

「うう…っ」

「もう大丈夫ですよ」




バスタオルを広げて扉を開けてからぼくも浴室に入り込んで見ないように包んでやった。やっぱり流血は治まってないらしく綺麗な床のタイルがすべて赤くなっていた。



「これを買ってきたんで、説明の所を読んで使ってください」

「それ、で…血が止ま…るの?」

「いえ。病院で聞いたところ、何日か続くらしいです」

「死んじゃ、」

「わないので安心してください」



それから、一から説明してあげたら、疲れたんだろう。部屋に戻ってぐっすりと眠ってしまった。きっとまだ親しくなかったぼくらに言えなくて部屋の鍵も閉めてたんだと理解したら、嫌われたわけではないんだと安心した。

毎月に起こること。初めの内は気まずそうだったし、痛いともう部屋から出てこない。まあ、今でも出てこないけど。

けど…。




「ジェイ…」

「やっと顔が見れた」



今では甘えてくるようになったから全然いい。





「…痛かった?」

「ぼくより貴女のほうが痛いんじゃないですか?」

「…わかんない。痛いけど…」





そうして手を握ってくる彼女の手は冷たく、弱かった。



「腰をね、…その」

「分かってますよ。こうでしょ?」

「うん、…えへへ」



腰をさすってやれば満足げに笑う。ぼくは彼女の笑った顔が好きだから断るなんてこと絶対にない。





朝からの出来事。


「寝ていいですよ」
「寝たらジェイがどっか行っちゃう」
「…(いちいちかわいいな、もう)」






20131212



ジェイ大好きすぎて困る今日この頃。





あきゅろす。
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