止まらない
「ジェーイ、寒い」
「冬ですからね」
そんな一言だけで済ませられたよ。そりゃ冬は寒いよ、当たり前じゃん。それでもあえて言ってしまうのが冬だからじゃない。
未だに依頼書に目を通すジェイで暖をとろうと後ろからそおっと腰に手を通そうとした。…のだけど。
「あだ!いだだだだだだだあっ!!」
「気配でわかりますよ。ふぁーすと」
「何よ!なにもこんなに抓らなくてもいいじゃん!ばかっ」
「寒いからより痛く感じるんでしょう。…見てるだけで楽しいですね」
「こんの鬼畜変態っ…」
人の不幸ほどオイシイものはないですから。なんて一言添えられてより鳥肌が立った。この人実は危ない人かもっ。ソロンに似てきたんじゃないの?
じろりと睨んでやれば、にいっと天使の微笑みを向けてくる。
ああ、笑顔はすごく可愛いのにな。あとこっそり見た寝顔も。
「そんなに寒いなら寒風摩擦でもしてきたらどうですか?」
「死んじゃう!私今更しても手遅れだと思う!」
撤回しよう。天使なんかじゃない、悪魔の微笑みだ。
「もうやだ…」
「はいはい」
「…ふん!もー良いもんねっ、こんな冷淡で変態でド鬼畜な女男彼氏なんかもういいもん!」
「…ふぅーん?」
時すでに遅し。言いたい放題言った後に彼にギロッと目を向けられて背筋に寒気が一気に走った。本能が逃げろって言ってるっ…。
「ジェ、ジェイなんか大っ嫌いだああぁぁあ!!」
やけくそになって逃げた。ダクトに乗り込んでちらっと振り返ってみた。どうやら追っては来てないみたい。忍者な彼だから私ごときに足の速さで負けるわけがない。半ばさみしい思いもあるけれど、追いかけられ恐怖のお仕置きを食らうのはごめんだ。
無事に街について安堵感から胸をなでおろす。でもやっぱり寒いわけで。誰かの所にお邪魔しようかな。ウィルは仕事中だろうし、残されたメンバーの中で明らかにセネルの家が温かい。もちろん病院でもいいんだけど、あの独特なにおいはどうもダメなんだよね。
寒さからかじかんだ手でドアを乱暴にノックしたら寝癖の凄いセネルが出迎えてくれた。
「ふぁーすと?」
「セーネールーッ、寒いっ、入れてっ、お邪魔します!」
一歩中に入れば予想通りぽかぽかと温かい。
「おい、藪から棒になんなんだ?ジェイの家にも暖炉ぐらい、」
「あるよ、ちゃんとしたの。でも…」
「でも?」
「私が寒がるのが面白いからって火を灯してくれない」
「……」
やめて、そんな哀れんだ目で見るのやめて。こっちだって愛されてないんじゃないかとか、恋人なのかと疑問に思う時は山ほどあるけど、好きなんだからしょうがない。紛れもなくジェイは私の彼氏で、私はジェイの彼女だ。
「毎回お前も大変だな」
「年がら年中寝てるセネルは体験できないことだよね」
「はっ倒されたいか?」
「冗談ですごめんなさい」
凄い勢いで頭を下げたら地面におでこをぶつけてしまった。我ながらの凡ミスだ。涙目になっていれば、セネルは屈んで私のおでこを心配そうに見てくれる。ああ、なんて優しいんだセネルよ。
「もっと気をつけろ」
「うん、…あり、がと…」
「…なんだか嫌な予感がする」
「へ?」
「前にも同じようなことがあった気が…」
「セネル?」
前にもっていうのは、ジェイと何かあるたんびにここに逃げ込むことかな?でも頭打ったのは今日が初めて、
「やっぱりここにいたんですか」
「よ、ようジェイ。元気か?」
「はい。もちろん。そんなことよりその手をふぁーすとから退けてもらえます?」
突然現れたジェイに汗がこれでもかってくらい出てきているセネル。毎度私を迎えにくるジェイの圧力には勝てないでいるみたい。
「セネルさん、席を外してもらえます?」
「いつもの事だがここ俺の家なん、」
「外してもらえます?」
「…ハイ」
しぶしぶ自分の家から追い出されたセネルは、いつもどこへ行くんだろう。私には地獄が目の前まで迫ってる。ジェイの冷め切った表情。私は思わず正座になってそんなジェイから目を離せない離しちゃいけない。
「ふぁーすとさん、もうやめにしましょう」
「な、何のことでしょう」
「とぼけないでください。ここに逃げ込むことです」
さん付けされるときは本気で不機嫌で、怒ってる証拠だ。
「あ、でももういいんでしたよね?」
「…えっと」
「こんな彼氏もうどうでもいいんでしょう?なら関係を解消しましょうよ」
え?今までとは全く違う展開に慌てふためく私は目を見開いて彼を見続けるも、彼の表情は変わらない。
「言いましたもんね?ふぁーすとさん。もういい、大嫌いだと」
「それは、…その」
「……」
「ジェ…イ。ごめ、なさ……ごめっ…」
訳が分からなくなって涙があふれ出てしまった。これじゃもう面倒な女じゃないか。けど涙は私の心情なんかお構いなしにあふれ出てくる。
「好き…だよ、……お願い…そ、なに…怒らな、でっ…」
「……」
「ジェ、イ…ジェイ〜っ…ごめえなざぁぁいっ」
ジェイとのことでこんなに泣いたのは初めてなんじゃないかってくらい大泣きした。もう本当に終わってしまうかもしれない。
「一緒にいな、と…わた、しっ…もっとざむくなる゙ゔっ!」
「バカ…」
よく知った温もりに包まれた。ぎゅっとしてくれながらえずく私の背中をトントンと優しくたたいてくれるジェイが目の前にいた。
「ふぁーすと…ごめん。ぼくもやりすぎた。けど、急に怖くなったのは事実だよ」
「ふ…うぇ…」
「嫌いだって言われたのが初めてで、追いかけることもできなかったし」
「ジェイじゃなきゃ、やだ…。ジェイと別れたら…私お嫁に行く夢が一生叶わな…」
「別れたってふぁーすとは人気が高いよ。…って言いたいところだけど、おあいにく様。離す気なんかないから」
それからというもの、結局私たちはいつもの日常に戻っていた。
「毎晩思うんですよ」
「…?」
「こうやって寄り添って寝るのは最高だな、って」
ぎゅうって抱きしめてくるジェイにいつものように抱きしめ返す。
大好きが止まらない
「クーリッジ、いつも病院に来てるが…」
「クロエ…、俺もここで暮らしたい」
「な!…それって…」
「(またベッド使われてるんだろうな…)」
リハビリ。もっと楽しい話を書くつもりだったのだよ。
さらには意地悪なジェイ不発。
20131212
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