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喪失。







あれから彼はここに帰ってこなくなった。待てども待てども帰ってこない。

もしかしたら新しい女性を見つけて共に暮らしてるかも知れない。それなら私がこうして待つ必要もないんだけど、はっきりしていない以上勝手に出て行くなんて以ての外だし。

それに・・まだ私を好いているなら、いきなりいなくなった時彼は必ず心配するし、怒るだろう。


数日が経った時、扉がノックされる音がしてハっとする。ユーリかしら?けれど彼の部屋なのにノックするはずがない。

・・・・でも、。

少しの可能性を信じて扉を開ける。





「あ、あだな」

「・・、。」




そこに立っていたのは彼ではなく、カロルだった。

カロルは気が抜けた私を見てはアハハと小さく笑って中に入ってくる。




「ユーリが忘れ物したからって、・・・・だけど、大事なものだからボスの僕が取りに来たんだよっ?別にユーリが嫌がったとかじゃないからっ」

「・・・・」




そう、そういうこと、───。

カロルがタンスの上に置いてあった手紙の束を鞄に詰め込んで、私に挨拶をしてから部屋から出て扉が閉まる。

彼、ユーリは私がいるところには戻りたがらない。そう言うことでしょ。

それなら、なにも貴方が出て行くことなんてないわ、ユーリ・・・・、だって貴方の家だもの。
厄介者はオサラバするわ。


適当に荷物をまとめて出て行こうと扉に手をかけながら部屋を見渡してみる。

色々あったな、本当に。





「・・、──」



サヨナラも言えないなんてね。すごくお世話になったこの部屋にも言えない。

そう、言えない。ありがとうも、サヨナラも、好きも嫌いも、愛してるも、何もかも。


ユーリ、貴方には本当に感謝してる。声がでなくなったこんな私を見捨てなかった。

少しの間だったけど、幸せな夢を見させてくれてありがとう。



ねぇ、ユーリ。
ユーリ、ユーリ、・・・・ユーリ。




そして私は、帝都をでた。

取り敢えずハルルに向かった私は、砦まで行くというお年寄りの商人の馬車の荷台に乗せてもらった。進行方向に背を向けてる私は段々離れていく帝都の街並みが見えて、ユーリのような人影を遠目で見かけると静かにコートのフードを深く被って、馬車は無事に門を潜った。


そして砦に着いてお年寄りにお礼を伝えてから、乗り換えのように別の商人の方にメモを見せて、ハルルまで送ってもらった。





「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

「・・・・・」



メモを千切って見せると快く部屋に通してくれて安心した。
ベッドに深く沈んでお腹に手をやる。この子だけは守らないと。

夜が明けて、大きく背伸びをする。一晩考えた。これからのことを。
ダングレストはギルドの街だからこれから住む所としてはNGだ。ハルルもエステリーゼがよく出入りしているみたいだから見つかってユーリに報告されても困る。

どうしようか、と考えると荷台にたくさんの木材を乗せた馬車が止まっていた。どうやら処分に困っているらしい。


慌ててその馬車の所へと急いだ。

































「ここら辺でいいのかい?嬢ちゃん」

「(コクリ)」

「そうかい。これだけありゃ立派な小屋ができるぞ?」

「いやいや小さな家になるさ」



ハルルから大分離れた林の奥。木材を売っていた三人の男性とそこに私は居た。少し前に男性が苦手になってたけど、今はだいぶ平気になった。さっきメモを渡してこの状況になってる。

メモには多額の値段とその木材で家を建てて欲しいという事を書いていた。





「近くには小川もあるし、ここら辺は魔物も出づらいから安心だろ」

「とりあえず時間はかかるから暫くはテントで野宿だな」




―ありがとう、と口を動かせばワシャワシャとおじさんたちが頭を撫でてきた。





































「あだな!どこだよ!」

「ユーリ!落ち着いてよっ」

「これが落ち着いてられるかよっ」



どうなってんだよ、どこに行ったんだよ!
持ってきた書類が違ってたらしく取りに戻ったカロルが慌てたように俺達の所に戻ってきた。

衝撃だったのは、「あだなが居ないしあだなの荷物もなくなってたよっ?」っていう息切れしながらの言葉。慌てて戻ったらこれだ。
あだなの姿はどこにもない。

そしてテーブルの上には、オレがあげた髪飾り。あいつがいつも大事に着けてくれてたもんだった。




「あだな・・、」

「あら、貴方にとっては都合が良かったんじゃないの?」

「ジュディ?」



開いている扉に凭れ掛かりながら鋭い目で睨むように見てきていた。カロルに関してはオレがたった今まで散らかした部屋をオロオロと片付けていた。




「貴方、最近彼女に冷たかったじゃない。辛く当たりすぎてたんでしょう?」

「それは、」

「あの子だって声が出ないからっていつでも笑顔って訳じゃないわ。前の彼女を覚えてるでしょ?大人しい子とはいえ、喜怒哀楽がよく表情に出ていたし、良く喋る子だったわ。声が出なくなって彼女の中身が変わるわけじゃない。悲しみや苦しみを感じないわけじゃないものよ」

「そんな事解ってんだよ・・」

「そう? 解った上でのことって事は貴方はこの事実を望んだって事よね?何日も彼女の元に戻ろうともしないで。まさか、都合の良い時だけ戻ろうなんて思ってたなんてことは無いしょうけど」

「・・・・」


ジュディの言葉に俺はどう返せばいい。動揺して思考もまともじゃない今、うまく切り替えるはずがねぇ。墓穴を掘るだけだ。




「彼女は貴方のピエロじゃないのよ、ユーリ」



結局ジュディ達は帰って行って、俺は壁に座り込んで廃人のように部屋の中をただ眺めた。そしたらラピードが呆れたように俺の前で律儀に腰を下ろした。




「あー・・ラピード。オレ今回はヤベーよ。こんなに来るもんなのか?」

「わふっ・・・」

「ほんと、今更だな……」



好きだった。ちゃんと。
けど時折アイツの声が聞きたくなる。アイツの声でオレの名前を呼んでほしいし気持ちも声にしてほしい。だからって日に日にイライラしてくんのはアイツの所為じゃないのに、襲われた時だってオレがちゃんと支えてやんなきゃいけなかったってのに。




「くそ・・・・何やってんだよオレは、」




恋しくて、。

「今更お前が居ないとダメとか・・、あだな」





20130624

まだ続きますφ(..)






あきゅろす。
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