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抜け駆け禁止








「起きるキュ!」

「もう少し・・」

「起きないと・・・ちゅー・・しちゃうぞきゅ?」





とんでもない台詞に慌てて目を覚ますとピッポが私の上でモジモジと照れたようにチラチラ私の顔を覗き込んでる。





「ピッポ・・、照れるくらいなら言わなきゃいいのに」

「ふぁーすとが大好きだから言ったんだキュ!ムードとロマンは必需品キュ」

「ムードとロマン・・ね」




いったい全体何のムードとロマンなんだ。ピッポが上に乗っているのも構わずむくりと起き上がると彼はころんっと転がって私の膝の上にとてんと座った。

かわいいなー。思わず帽子越しに頭を撫でて抱き上げる。




「ふぁーすと?」

「起きなきゃいけないんだから退いてもらわないといけないでしょ?」

「そ、それならそう言えキュ〜・・」

「いいからいいから」





私の腕に抱かれた事に照れながらもしっかり腕に手を乗せてた。素直じゃないんだなこの子。

ピッポを抱いたままお隣のジェイの家まで連れて行くと玄関が開いて中からジェイが出てきた。そんなジェイを見るなりピッポは慌てて私の中で丸くなって隠れようとしているのだろうか、微動だにしなくなった。




「おはようジェイ」

「おはようございます。そんな恰好で外を出歩くなんてずぼらな人ですね」

「そうは思ったんだけど、・・ね?」

「ねって貴女・・・。まあいいです。それより大事そうに抱えているものはいったい何なんです?」




ニヤリと嫌な微笑をしたジェイを見てピッポの行動の察しがつく。




「何に見える?」

「ぼくがついさっきまで探していたものによく似ていますね」

「そうなんだ…。えっと、一応ボール・・だけど」

「へー、大きなボールですね。では、・・こちらに渡してくれませんか?」




ジェイが言った瞬間、ピッポは尋常じゃないほど震えだして私も思わず目の前に居るジェイに恐怖を覚えた。




「でも・・私のボール、だよ?」

「それじゃ、そのきったないボールをこっちによこしてください。ピッカピカになるまで磨き上げて綺麗にしますから」

「ピッポは汚くないキュ!!」




丸まっていたはずのピッポは怒りを露にして私の腕の中で反論した。ていうか、この二人・・いやいや、この一人と一匹が仲違いするなんて珍しい事もあるもんだな。




「あれ〜?ピッポ朝方ぶり」

「・・あ、ジェイ・・・おはようキュ〜、キュキュ」




自分の置かれている立場を理解したピッポはがちっと固まっては引き攣っているであろう顔でジェイに挨拶を交わすけど、ジェイは今にも苦無を投げてきそうな形相で睨んでる。




「そんなかわいい仕草しても許さないよ?」

「ちょっと待ってよ。何があったの?」

「そ、そうだキュ!ピッポが何したって言うキュっ?」

「それは・・」




言葉に詰まったように見えたジェイを見てはふんぞり返るように自信満々に返答を待っているピッポ。




「どうしたキュ?ふぁーすとを前にしたら理由なんか言えないキュ?」

「う・・」

「え?何でよ?」




私には言えないようなことなのか、そうなのか。それなら私はさっさと退散した方がいいよね?寝巻きのまんまだし。そう思ってピッポを降ろそうとしたらガシっと腕にしがみついて離れようとしない。





「降ろしたら駄目キュっ」

「でも私が居たんじゃ解決できないんでしょ?なら私家に戻るよ」

「ピッポは絶対ふぁーすとから離れないキュっ」





一旦地面に足を着けたかと思えばそのまま地面を蹴って私の胸目掛けて飛んできた。





「なっ!ピッポッ・・!」

「ちょっとっ。ピッポ?」

「ふぁーすとはフカフカしてて気持ちいキュ〜キュキュ〜」

「ちょっとくすぐったい」




何度も胸に顔を埋めるピッポとそれを見るなり噴火するのではないかと心配になるほどのジェイの怒った形相。





「ふぁーすと!嫌じゃないんですか!?そんな事されて!」

「そんなこと?」

「解ってないなんて鈍いにも程が・・」

「ふふーん。羨ましいなら同じ事ができるようになればいいんだキュ〜」

「できるか!」

「やっぱり意気地なしだキュ〜」





はて、困った。見事に板ばさみ状態ではないですか私。救いの手が欲しいところだけど、・・この人たちを止められる人なんて・・。あ、居る。人じゃないけど居るよ。




「キュッポーっ、ポッポー!いませんかーっ?」




ジェイの家目掛けて呼んでみると、土煙を上げながら猛スピードで出てきた二匹。それにしても一瞬ジェイの家が揺れた気がしたけど大丈夫かな。





「「どうしたキュ?!」」

「この二人をどうにかし、」

「「ピッポーーーっ!!!ふぁーすとの独り占めは禁止だって言った筈キュっ!!」」

「え、何その決まり」

「今朝だって皆で行くって言ったのに抜け駆けなんて許せないキュ!」

「そうだキュ!だからジェイだってこんなに、」

「あーあーっもういいですよ!!」

「ジェイも賛成したはずキュ!ふぁーすとが一人に絞るまでは抜け駆けは無しだって!」



凄い討論を繰り広げられてる中、輪に入っていない私は静かに自分の家に帰った。

結局なんだったんだろ・・、寝なおそう。






抜け駆け禁止!

「はあ・・」
「ジェイ、そんなに悩むくらいならいっそ言ってしまえばいいキュ」
「そうだキュ」
「・・。そういうキュッポたちだって」
「キュッポたちはどうでもいいキュ」
「そうだキュ。でもピッポ兄さんは例外だキュ。本気だキュ」
「・・・(恋敵が人じゃないなんて複雑だ)」









20120514
投稿日//20120626


恋に悩むジェイくん
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