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虚無







魔導器がなくなって私は、声を無くしました。




「おーいあだな、」

「・・・・」

「朝だ。起きようぜ」



一緒に寝ていた恋人のユーリにコクリと頷いて起き上がる。

もう朝か…。
彼のお陰で寝るのが遅かったから物凄くだるい。けど彼にはギルドの仕事があるし、私も家の事任されてるし、そうもいかないか。

そう思いながらベッドから出ようとしたら突然ユーリがキスをして来た。




「っ・・・」

「はは、可愛いやつ」

「〜〜〜〜っ」



声が出ないから少しむくれながらそっぽを向けばまた手でぐいっと顔を戻されてまたキスをして来た。

声を失ってからまだそんなに経ってないけど、毎日私達はこの調子だ。

…幸せだ。





「んじゃ、今日は軽い依頼ばっかりだし、早く帰ると思うからあと頼んだぞ」

「…(コクリ)」




そして彼は仕事に出掛ける。
元々声のでない私は、魔導器の力を頼りに声を出してた。

だから魔導器がない今は何もしゃべれない。

けどユーリは私を見捨てたりなんかしなかった。声が出なくてもお前はお前だって傍においてくれる。













「ただいまー」



笑顔で出迎えて夕食をテーブルに並べる。おー、美味そうだな。なんていつも誉めてくれるユーリは私の頭にキスを落として椅子に座った。

一緒に食事をしている時、彼は一日の出来事を話してくれる。
おかしな話や悲しい話、楽しい話。私はいつも笑顔でそれを聞く。

これもいつもの事だった。





けれど日に日に少しずつ崩れていった。

朝起きて、はよ…、っと声を出してベッドから抜けるユーリに若干寂しさを感じた。

仕事は昼からみたいで昼食を摂ってから向かうらしい。二人で食べていると、いつのように話し始めたから私も笑顔でそれを聞く。




「はは、笑えるだろ?」

「…(コクリ)」

「ははは…──。」

「?」



私を見ながら急に黙り込んで俯くユーリに少し困惑した。
疲れてるのかな?何とか今日お休みとれないのかな?

けど私の予想とは反して彼は拳を握って、そして。





「どうして笑ってばっかなんだよ…」

「…?」

「どうして何にも話さねぇんだよっ!いつも人形みたいに笑顔でいやがってっ」

「…っ」




え、え?ユーリ?

グサグサと突き刺さる言葉に私は戸惑いを隠せず体が小さく震え出す。
ユーリは苦い顔でそんな私を一直線に見ていた。





「…オレ、行ってくる」

「……」



そうか。ユーリに私は負担だったか。

…──、そうよね。

よく考えてみれば・・・・そうよ。


固まったままユーリが出た扉をただ見つめていた。


数時間後、買い物へ行こうと準備をしていたら、窓の外から彼の声がした。それは今日は聞けなかった楽しげな声色。
思わず外を見てみれば、ユーリとエステリーゼ。

二人は本当に楽しそうに話してる。ユーリが話せば彼女が声を出して相槌をうち、時にはふざけて反論している。


ああ、きっとユーリはそんな風に話したいんだ。楽しく、そして一方的ではない会話をしたいんだ。

ユーリに話さなければいけないことがあるのに、・・・・話せない。
文字にして渡すしかない。

けど、この現状でユーリに伝えるべきか悩んでしまう。





「・・・──、」




今はどう考えたって無理だ。
伝えたところで彼が頭を抱えるだけだ。


二人が居なくなったところで買い出しへと向かった。

日が暮れてある程度買い終わり、暗い路地を一人で歩いていたら横から手が伸びてきて奥の方へ連れていかれた。

いきなりの事で頭が回らず、暗くてよく見えない複数の顔を必死に見ようとする。





「こいつがあの野郎の恋人ですぜ」

「なるほどな〜」



誰、だれなの?

声のでない私は後ずさって逃げようとしたけど、後ろは煉瓦の壁。
もう、逃げられなかった。
最後に見たのは、私が持っていた紙袋から虚しく転がっている丸いマルイ・・・・林檎。
















「あんたっ!大丈夫かいっ?」

「…─?」



気がつくと私はいつも行っていた診療所のベッドの上だった。

何故ここに?、と考えたと同時に自分の身に何があったのかを一瞬で思い出した。




「っ……、」

「解っているよ、安心をし。この子も大丈夫だった」



震えた体を看護婦さんが摩ってくれた。思わずお腹を撫でる。

けれど彼にどんな顔をして会えばいいのだろうか。




「あだなっ!!」

「!」



ユーリ?、どうして──。

少し険しい顔をしている彼に私は顔を背けてしまう。




「迎えも来たし、もう帰れるよ」

「………」

「悪い、世話になったな。…行くぞ」

「……(コクリ)」



手を強く引っ張られ、私はユーリの背中を見ながら帰路を歩いていく。

きっと疲れてるのに、彼に迷惑かけちゃった…。頭の中が次第にぐちゃぐちゃになっていく。



家に入れば、ユーリは背中を向けたまま私に声をかけてきた。





「何なんだよ…、何でそんな目に遭うんだよっ。お前ちゃんと用心しながら帰ってたのかよ!」

「……──」



ごめんなさいも言えない私の口。背中を向ける彼に私の表情も動かす口も解るわけがなくて。


ベッドに横になる。けど寝れるはずなどなかった。ユーリは壁に凭れながら座って眠っているらしい。

こんな私とはもう共に眠れないと言うことなのだろう。それを考えると、怖くて悲しくて寂しくて体の震えが止まらなかった。



結局寝不足のまま朝を迎え、ユーリの朝食を準備する。

けどユーリは着替え終えるとそそくさと出ていこうとした。私は必死に彼の腕を掴んで引き留める。

彼の顔を見て必死に大事な話があると顔で訴えながら見つめ続けるが、




「離せよ…」

「っ─」



振りほどかれて出ていってしまった。

ああ、何でこんなことになったんだろうか。

声が出ないせい?




「…っ、・・っ─」



泣いて泣いて、
泣いた。


「貴方の傍には居られない」








20130410
投稿日::0412

久々の短編。うろ覚えで捏造だらけごめんなさい←。切ないのをもっと書きたい。因みにこれは続編書きますのでっ。








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