どうか、
※ネタバレあり
「ふぁーすとも居なくなるの?」
ミラが消えた。分史世界のミラが。だからこそ、一番衝撃を受けている少女にこんな質問を投げ掛けられたんだろう。
「どうだろうねー。難しくて解んないや」
「ウソ」
ヘラヘラと困ったように惚けても今のこの子には通じないらしい。
どうして私はこの正史世界に居るんだろう。どうして私ごと分史世界を消してくれなかったんだろう。
ああ、こんな時にこんな事、考えたくないのに。
「ねえ、この正史世界じゃ私は生まれてないんだよね」
「みたい・・だけど」
「それならここでずっと暮らせるかな?この世界に馴染んで、・・エルや皆や、・・ルドガーと」
「できるよっ!だって今ここに居るもん!だからずっとここにっ。ルドガーだって絶対に守ってくれるし!」
私の例え話に必死になってくれるエルは物凄く泣きそうな顔で、あんな事を言ってしまった自分自身を少し恨んだ。
「ごめんね、エル」
「なん、で・・謝るの?ヤダよっ!!」
とうとう泣きながら私に抱きついてくるエルを抱き締め返しながら頭を撫でてあげる。
「エル、」
「やだやだっ、消えないでふぁーすと!」
その言葉通り、消えたくないな。でも定かじゃない事は約束できない。泣いているであろうエルを黙って笑顔でぎゅっと抱き締めた。
暫くすると泣きつかれたのか私の膝を枕にして眠ってしまった。
可愛いな、と思いながら私と似てる色をした髪に触れる。
「おい、飯」
「あ、ルドガー。そう言えば私もお腹空いたや」
あははと笑ってルドガーを見ると複雑そうに私を見つめてる。
「どうしたの?あ、エル?ごめん、私が泣かしちゃってさ、」
「エルも心配だけどふぁーすとも心配だ」
笑ってた筈の顔がひきつるのを感じて俯いて膝の上のエルを眺めた。
「な、に言ってるの?はは、私はいつも通りよ」
「笑えてないぞ」
「はは・・は・・・・。ルドガーには敵わないよ」
顔を上げて言えば、ルドガーは真っ直ぐに私を見ていて視線を反らすのもできない。彼に映る今の私は不安気な顔をしているのだろう。
「さっきエルにね、消えないでって頼まれちゃった。でも返事なんて・・」
出来なかった。出来ることなら「消えないしずっとここにいてやる」って高々に言ってやりたいくらい。
けれど、消えないと確証も持てない私自身の存在では、安易にそんな言葉言えやしないんだ。
「ルドガー、私だって消えたくないよ。でも、・・・・」
「お前が消える大きな要素はないだろ」
「うん。ミラみたいに同じ人物が居る訳じゃない。けどねルドガー」
私は分史世界の人物で正史世界の人物じゃないんだよ。そう囁くように呟くとルドガーは私の手を握った。
「いつ消えても、可笑しくない」
「消えそうになったら俺がこの手を握る」
「・・・・バカだな、ルド、ガー・・は、・・ふ・・っ」
「エルみたいに泣き虫だな」
ねえ、エル。私が消えた時は・・、
どうか、
「ルドガーって意外とキザだよね」
「は!?」
「無口でキザで優しくて・・。そんなルドガーが私は好きよ」
20121106
投稿日::20121108
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