兄さん
※ある意味ネタバレ
「ユリウスっ」
「また来たのか」
「またって事無いでしょ?結婚する事、ルドガーに知らせるのは一緒が良いって言ったじゃない」
俺達は分史世界で慌ててマンションの部屋に隠れて会話を聞いていた。兄さんと声も聞いたことのない謎の女。
「おいルドガー。あの女、誰」
「知らない」
「この世界ではユリウスさん、婚約者が居るんだね」
ヒソヒソと話していると、扉の向こうにあるリビングから笑い声が聞こえてみんな耳を澄ませる。
「ふふ、なんで私がルドガーを好きなのよ」
「ルドガーの方が年は近いだろ?でも今こうしていられているのなら過去なんかどうでも良いけどな。ふぁーすととこうして」
「それならよかった」
ふぁーすと、・・・?やはり聞いた事ない。正史世界の兄さんはこの女性に会ったことがあるのだろうか。
「それに前の仕事を辞めて新しい仕事もできて先が明るいぞ」
「前のは、・・体を犠牲にして戦う仕事だったから私は嫌い」
「だから辞めたんだろ。今の会社は大分給料が下がるが、お前やルドガーに心配させるくらいなら」
こっちの兄さんは家庭を取り、転職もしていて危ない事も辞めているのか。
「ところで新婚旅行、どこが良い?」
「ユリウスと一緒ならどこでも良いよ」
「嬉しい事を言ってくれるな。そうだな・・、ふぁーすとの両親は新婚旅行どこへ行ったんだ?」
「行けてないの。豪華客船に乗って旅行行く筈だったけどお母さんの体調が優れなくてキャンセルしたんだって。そしたらその豪華客船が行方不明になったとかなんとか」
アルヴィンがハッとしたように、眉間にシワを寄せ頭を軽く掻いた。
「あのふぁーすとって女、正史世界には存在してないんだよな」
「解らないけど、会ってない事からするとそうなのかもな」
「たぶんあの女の親は、俺と同じ船に乗ってたんだろ。そんで事故に巻き込まれて命を落とした。或いはリーゼ・マクシアで片方は死んで片方はアルクノアとして生きたか」
「じゃあこの世界の彼女は、お母さんとお父さんがエレンピオスに留まったまま進んだ世界って事だよね?」
短く肯定の返事をするアルヴィンと興味深そうに納得しているレイア。
「じゃあ今回のターゲットは、」
「ああ、あの女だろ」
「・・・・・」
あの女性が実際にいて、兄さんと出会っていたらこんな未来があったのか。こんな幸せそうな兄さん、久しぶりに見た。
たった一人の女性が兄さんを幸せに導いてくれている世界。
壊すのが・・・・惜しい。
「普通の女だ。どうにかして一人にさせねぇと」
「そうだね」
「てなわけだルドガー。お前が行け」
アルヴィン突然の発言に声を抑えながら驚いた。
「あの二人はお前を知ってるんだ」
この世界のお前になりきってこいと言われても、上手くいくか正直不安だ。
けれどレイアとアルヴィンはただ黙ってじーっと俺を見ている。
「・・、はぁ」
機械音と共に扉が横に開き俺だけ出ていけば、兄さんと女性が心底驚いた表情で視線を注いできた。
「ルドガー、いつの間に帰ったんだ?」
「あ、・・と。兄さんとふぁーすと、さんがイチャついて気付いてなかったんだろ」
「そうだったのか?それは悪かったな」
「けどルドガー、何で急に私をさん付けなの?」
しまった。こっちの俺はさん付けしていないのか。慌てながら訂正し、呼び捨てで呼んでみると、彼女はにっこりと笑顔を向けてくれた。
「ふふ、変なルドガー」
「本当にな。・・ルドガー、お前に話したい事がある」
知ってるよ。ここの兄さんは、
「俺達、結婚するんだ」
なんて幸せそうに笑うんだろう。
「どう?ルドガー。驚いちゃったかな?」
俺は頭を横に振り、何となく解ってたよと告げると目を見開いて、そっか、と照れている。
「普段から一緒にいるから時間の問題とでも思ったんだろ?」
「もしくは、私を差し置いてユリウスが言ったか」
「なっ、してない!本当だぞっ」
こんな幸せな場面を見続けるのは正直辛い。何故ならこの幸せをこの世界ごと、・・・・壊すのだから。
「あ、そうだ。さっき下で大家が兄さんに用があるって言ってたぞ」
「?、そうか。じゃ少し訪ねに行ってくるよ」
「私も行こうか?」
「いや、ふぁーすとはゆっくりしてろ」
俺の嘘を信じた兄さんはこの場から居なくなった。そしてソファに座って微笑んでる女性を見る。
すると、小さくくすりと笑い声を溢し俺の手を取るとお腹に当てられた。
「ルドガーにも教えないとね」
「・・・、」
まさか、止めてくれ。
「赤ちゃんが居るのよ、ここに。ユリウスとの子が」
「・・っ」
世界が違うとはいえ、今から殺そうとしてる俺は、何とも罪深い。やりたくない。出来ることなら、この世界でも良い、兄さんに幸せな日々を送らせたい。
「ふーんふふふーん」
「その歌、」
「小さい頃からよく歌ったわよね」
ああ、きっと今回のターゲットはこの人じゃない。この人のお腹に宿る兄さんとの子どもだ。
「っ、・・くそっ」
「え、・・・・ルドガー?」
「ごめん、ごめんなさい姉さん」
「ね、姉さんだなんて気がはや…っうぐ・・・・」
ポタポタと槍を伝う鮮血が、床に、絨毯に、ソファに染みを作っていく。彼女の体を貫いた槍の先には、目的のソレ。
「ルド、ガ・・・?」
「ごめん、ごめんっ・・・」
ごめん・・・・兄さん・・・。
そしてその分史世界の破壊を成功させ、正史世界に戻ってきた俺達はそれぞれ苦い顔をしたまま宿屋に到着する。
「ねぇルドガー、」
「レイア、飯にしようか」
「あ、・・うん」
「そうだな、俺も腹減ったし。ルドガー何か作れよ。俺はジュード達呼んでくるから」
アルヴィンは姿を消すとレイアが手伝うと言ってくれた。みんな気を使ってくれているんだろう。本当に優しい仲間を持ったと、嬉しく思う。
「ルドガー、ユリウスさんはルドガーがいて幸せだったと思うよ」
「…」
「だからさ、・・上手く言えないけど」
「解ってるよレイア。ありがとう」
兄さん、ありがとう
「俺も兄さんといれて幸せだったから。」
20121108
こんな分史世界もあり得たのかな?と書いてみました。
TOX2、ネタバレしないようにと思いつつもしちゃってますね。ごめんなさい。クリアして一番印象に残ったのはルドガーとユリウスさんの想い出シーン。物凄く泣けました。
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