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100点







晴れているのに寒い外。出来ることなら学校終わったら真っ直ぐ家に帰りたいところだけど、今日はそうもいかない。

若干田舎にある大学から徒歩で更に田舎の山奥まで行く。道なんて山独特の獣道で最悪だし。
なんたってこんな所に来なきゃならんのだ。向かうのにこんなに苦労しているんだから給料ももう少し上げて欲しいよ。


そう、私はバイトでこんなバカみたいな山道を進んでる訳で。

そして内容と山は一切接点を持たず全くといって関係のないものの筈。けど、それを繋ぎ合わせるのが雇い主の住まいなのだからしょうがない。





「遅かったですね、先生」

「あは、は・・ごめんねジェイ君」



学生の私を先生と呼ぶこの子が、学生の私も生徒と言える子。

早い話がこの子の家庭教師をしている。
この子は因みに二回目である。




「今日は数学と英語だよね」




机には既に教材が開いていて、やりかけの問題が視界に入る。
彼の隣まで椅子を運んで腰を下ろし、大して大きくないペンケースからペンを取り出す。





「ここ解らない?」

「予習しようと思ったんですけど、」

「ん?ちょっと待ってこの問題・・」




高三で習う内容じゃ・・。次の試験の復習やらなんやらをやるつもりでいた私は高一の参考書しか持ち合わせていない。

ていうかこの子に、山道を必死に歩いてやって来る家庭教師が必要でしょうか?





「あの、ジェイ君?期末の試験勉強は・・。ていうかこの問題期末に出るの?」

「ぼくの学年では出ませんよ。ぼくが勝手にやってるだけです」

「そっか。それじゃあチンプンカンプンだよね」

「いえ、そんなに苦戦はしませんでした。でもあともう少しなんですけど」

「・・・・・」




もう何?私は必要か?こんな寒い中山道を歩いた私はっ。

心の中で悪態をつき、少し(いや大分)疲れたように息を吐きながら、参考書無しでもなんとか私にも解る問題だったから説明を始めた。





「このbはこのページに載ってるこの式を代入して答えを求めるの。それでここが二乗・・─」




ふむふむと理解しながらなのだろうか、私の説明を聞き入ってたジェイ君はシャーペンを片手に答えを導きだした。





「せーかい」

「なんかスッキリしますね」

「それじゃ試験勉強を、」

「もう充分やりましたから試験勉強は良いです」




まあ、そうだろうね。こんな問題も解けるわけだし心配要らないじゃん。

英語も理解していて素晴らしい頭脳を持っているらしい。これでは私の立場がない。






「ジェイ君は苦手な科目とか無いの?得意科目よりそっちを専攻していこうか?」

「教えてくれるんですか?」




あるならね、と告げると彼は少し顔を伏せたあと、私に視線を注いだ。

不意討ちで胸が熱くなったが、まさかあり得ないと言い聞かせて彼の言葉を待つ。





「ふぁーすと先生」

「ん?」

「知りたいのは貴女の事です」

「なっ・・?」




してやったりな彼の顔に対し私の顔は、きっと動揺しきって赤くしているだろう。





「な・・何言ってるの?私は科目じゃないし、・・ままま、真面目に答えなさいっ」

「先生は彼氏居るんですか?」

「だから、」

「あ、質問を変えます。彼氏、居たんですか?」




至って真剣に訊いてくる彼に私は折れて答えることにした。





「居たわよ高校の時に。今はいない。はい、勉強しようね」

「居たんですね、」




今度は眉間に皺を寄せ視線を背かれた。いったい何を考えているの全く解らない私はペンを握って持参した参考書に印を付けていく。




「それよりほら。この辺出やすいからやってみて?」

「・・x=6」

「今、解いたの?」

「はい」

「じゃあこれはっ?計算し、」

「√2」




これはもう私の必要性は丸っきりない。ジェイ君の保護者に相談しよう。そう言えばここに来るの二回目だけど、親に会ってないな。
大学で家庭教師のバイト募集してたからやってみて、指定された場所に来ただけで決まってジェイ君しかいない。


そのまま一時間が過ぎ、私は自分の物を鞄に詰める。






「ジェイ君、お母さんはいる?今お仕事?」

「居ませんよ、そんなの」

「・・・(そんなのって)。じゃあお父さんは、」

「いません。二人とも随分前に他界しました」




あ、地雷踏んじゃったかな。

何とも気まずい空気になってしまい、出る言葉もなかった。

ところがジェイ君は私が考えてる事が解ったのか可笑しそうに笑い出す。思わず呆気にとられると私に目を合わせた。






「物心付く頃には居なかったんで気にしないで下さい」




ではどのようにしてここに・・・、いや、深く考えるな私。

無理矢理思考を別のものに向けて、参考書を見る。そしたら小さく笑い声を漏らしながら静かに勉強を始めてくれた。

暫くすると、彼は沈黙を破る。





「ふぁーすと先生」

「なに?」

「先生はぼくを見てくれますか?」

「へ」

「異性として、見てくれますか?」



女の子のような姿でその台詞はいかがだろうとか思う前に、胸の高鳴りの方が遥かに早かった。




100点、
取ったらね。


「こんにちは、試験の結果どうだった?」
「・・知りません」
「え、悪かったの?見せてよ。・・凄いっ。全教科90越えてるじゃないっ」
「100点じゃなかったので。次こそは貴女を捕まえるので覚悟してください」
「え、と・・・あはは」







20121029~1103
投稿日::20121104

ジェイ君は覚えが早いと思うので家庭教師を雇った瞬間学校じゃ怖いもの知らずなんだろな。





あきゅろす。
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