好きな人
「キュッポ、ちょっと街まで行ってくる」
「今日も仕事かキュ?」
「う・・ん、そうだよ」
「解ったキュ。気を付けて行ってくるキュ」
最近ぼくが仕事漬けで休んでいないと思っているらしいキュッポはどこか心配している顔だ。
ぼくもキュッポ達には普段から素直に接してるんだけど、この事だけは知られたくなくて嘘を吐いてまで街へ毎日欠かさず行くようになってた。
申し訳ないと思う反面、早く、と急かす自分がいてそれどころじゃない。
キュッポに見送られながら家を出て街まで向かう。
そして噴水広場のベンチにただ座り込む。これだけなんだ、ぼくがするのは。
これだけでその内事を運ぶから。
暫く噴水を眺めていると人の気配がしてそちらを見ると階段を登ってくるふぁーすとさんの姿。
ぼくに気づいたのか、微笑んで一歩一歩と近づいてきた。
「ジェイ、こんにちは」
「こんにちはふぁーすとさん」
軽く挨拶をして、隣良い?と訊ねてくる彼女の言葉を断るわけもなく、はい、と返事をする。
そうすれば勿論ふぁーすとさんはぼくの隣に座るわけなんだけど、この状況にしっぽを振るのはぼくの方で。
いや、ぼくだけなんだろう。
「今日も仕事?」
「はい、今一段落してるところで」
「ふふ、とか言いながら仕事なんて嘘だったりして」
一瞬ドキリとしたけど、冗談めいたように笑った彼女につい見とれてしまった。
元々彼女の言う通り今日は完全に仕事なんて無くて、ぼくは彼女に会うためだけにこうして街に来てる。
これって所謂ストーカー、ってやつなのか・・?
「ふぁーすとさん、今日はプリンパンですか?」
「うん。今日は色々しんどいからね。このあとも頑張らないと」
彼女も働いていて、内容は運び屋としか聞いてないけど力仕事らしい。
その割りには外見はとても可愛いし綺麗だし・・、でも中身は中性的というか、カッコいいとぼくは思ってる。
「ジェイはどことなく、」
「?」
「可愛いよね」
「・・はい?」
ぼくはそんな言葉で喜ぶほど、男が廃ってる訳じゃない。
・・・・訳じゃない、はず。
「ほらっ、そうやって顔赤くするところとか」
「し、知りませんよ。からかわないでください」
「そうやって拗ねるところも可愛いって思う」
綺麗に笑いながら言うふぁーすとさんの方が可愛いって思う。それにぼくは男ですよふぁーすとさん・・。
けど、彼女になら言われても構わない・・かな。
「もう知りません」
「あははごめんごめん。そんなこと言わずに、はい」
「へ?」
何かと思えばプリンパンを少しちぎってぼくに差し出した。
「これで許してよ」
「軽い上にやっすいですね」
「はあ、全く。可愛くないわね」
「さっきと矛盾してますよ。ぼくとしてはそれで良いんですけどね」
そうしてるとふぁーすとさんは急にぼくを引き寄せた。何事かと思いながらも彼女の胸に顔を押し付けられた状態で酸欠になりそうだ。
「ぷはっ・・!」
漸く離してくれたかと思えば、ぼくの手や顔、頭の後ろとか露出してる部分を触って確認してる。
「ジェイ大丈夫?刺されてない?」
「貴女ねっ・・、て刺されてないって何がです?」
「蜂がジェイに向かってたから。よし、私がジェイを守るよ」
そう言うことでしたか。でも正直ベタベタ触られると恥ずかしいし、カッコいい台詞を言われるし何とも言えない気分になる。
思わず手を払い除けそっぽを向いた。
「ジェイー、さっきからかった事まだ怒ってる?パンじゃ足りない?」
ふぁーすとさんは鈍感なのか何なのか、さっきの話を掘り返してきた。
別にその事で手を払ったわけでもないし、怒ってるわけでもなくて、ただ照れ隠しでやった事だった。
でも、仕返しとばかりにぼくは怒ったフリをしてみる。
「パンで許される世の中じゃありませんよ」
「なにそれ。可愛いって誉めただけなのになー?」
「またからかってるでしょう貴女っ」
ニヤニヤと微笑む彼女に反論するのをやめて、ぼくは本気で落ち込みそうになる。この分だと脈なんてない。
「ジェイー、ごめんね」
「もういいです。心籠ってないですし」
「・・・、ジェイ」
「なんです、・・かっ!?」
最後の辺り声を張ってしまったのは、ぼくにキスをしてきたからで。
頬でもなく唇でもなく、ホントに唇の間隣で・・っ。・・・・少し当たってるのかもしれないけど。
「私ジェイには嫌われなくないな。大好きなんだもん」
それって、いったいどういう・・。
困ったように笑って見せて彼女は立ち上がった。
「それじゃ私は仕事に戻るから、ジェイも早く仕事に戻りなよ?」
「え、あの、・・・はい」
え、どっち?
「好きって・・・・」
「ジェージェーとあだなの中身が入れ替わったらバランス良くなるかもしんないよね。真逆だわー」
「あまり声を出すなノーマっ・・・!」
「見つかっちゃいます・・・」
20120909
投稿日::20120913
初恋な感じを出したかったけど不発しました(д)
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