お前って奴は
帝都に来てあだなに会えたかと思えば、あいつ全力でオレを拒みやがった。
昼間にそんな事があって今、住み慣れた下町の自分の部屋で項垂れる。
そして、
「青年、どうすんのよ」
「遠目で見てたけどあの女の人怖い顔してたよ?」
何故かおっさんと先生までもがオレの部屋に上がり込んでやがる。
「おっさん、城におっさんの部屋くらいあんだろ」
「は?今のオレ様には、んなもんありませーん。俺ただのギルド員だし?」
「・・・。カロル、お前エステルんとこで美味い飯食うんじゃなかったのか?」
「そ、それが・・・リタ達が男子禁制とかなんとか言ってきて・・さ、」
もういい。こいつらの詰まらない言い訳はこれ以上聞くまい。聞いてもどうかなる訳じゃねーし。
「けど、お前らどこで寝るんだよ。狭いぞここ」
「そりゃベッドでしょうよっ、少年と青年は床ね床」
「えーっ、レイヴン狡いっ」
「言ったもん勝ちだもんね〜」
本当に隊長だったのかと疑いたくなるくらい大人げないおっさんを哀れんで見てしまったのは置いといて、だ・・・。ここに長年住んでるオレが何で床なのかが疑問だ。旅してた時は確かに警戒としてオレが床で座ってたけど、ここでまで警戒する必要性がない。
「あのさー青年」
「何だよ?」
「落ち込む暇あったら会いに行けば?」
「大きなお世話だっつーの」
あの状態のあだなは会いに行ったとしても取り合ってくれないだろ。
そんな会話を聞いていたカロルが閃いた様に手を挙げた。
「ねぇねぇユーリ!」
「何だ先生?良い提案でも、」
「その人の名前何ていうのっ?」
カロル先生は閃いたんじゃなくて単に名前が知りたかっただけらしい。まあ閃いていたとしてもあんまり当てにはしないだろうな。
「ふぁーすとだよ。オレはあだなって呼んでるけどな」
「ふーん、青年らしいっちゃらしいわね」
「もういいからほっといてくれよ。あいつの事はオレが解決する」
つもり、だ。おっさん達に意見を求めようとしたオレがどうかしてたんだ。
「ねね、あだなちゃんさ青年辞めて俺様んとこに来ないかなー?」
な・・何?今おっさん何て、
「え、レイヴンってあんな恐い女の人が良いの?僕はヤだよ」
「これだからお子ちゃまは。あれはジュディスちゃんと良い勝負だわよ?それにあの顔立ち・・・笑ったら美人に決まってるって!」
「ほんとかな〜?僕には恐い人に思えたけど」
「あれはジュディスちゃんくらいあるわ・・、うん・・・おっさん何だか熱く、」
「てめえら出ていけっ!!!!」
黙って聞いてりゃ人の女を恐いだの何だの好き勝手言いやがって。
「いでっ!いででで!青年痛いって!」
「ユーリ落ち着いて!」
「うっせえうっせえ頭冷やしてこいっ!オレは今一人になりたいんだよっ」
げしげしとドアの外へ追い出して戸を閉める。
ため息を吐き、頭を冷やさなきゃならねえのはオレの方だとその場で少し反省した。
すると戸の外から二人の声が聞こえてきた。
「ありゃあだなちゃんじゃないのー」
あだなだと?あいつ来てくれたのか?
「もしかしてユーリに会いに来たの?」
「でも青年は一人になりたいらしいからさ、今日はおっさんと熱〜い夜を過ごさない?」
冗談じゃない。あのおっさん本気でナンパしてやがる・・・!
荒々しく戸を開けた俺。
「おっさん!そいつに手を出したら解ってんだろうなっ?!」
「・・・・」
「・・・・」
一瞬目を疑った。だってそこには、
「ぷ・・」
あだなの姿なんか無かったからだ。呆気に取られた俺を見る二人は何とも愉快そうなこと・・。
「やーい青年引っ掛かってやんのー」
「ユーリってば慌てす、」
「お前ら・・覚悟は出来てんだろうな?」
睨み付けると二人は笑顔のまま真っ青になって俺を見る。
「ごごごごごごめんユーリっ、レイヴンが」
「おっさんに振っちゃうの!?酷い少年!」
バタンっ
もう付き合ってられなくて二人を無視し強く扉を閉めてベッドに体を沈める。
あんな嘘に騙されるオレもオレだ。怒ったあいつが来るわけがねぇんだ。
目を閉じるとまたおっさん達の声が扉の向こう側から聞こえて、まだ居んのかと寝返りを打つ。
「あだなちゃん、青年不機嫌なのよ〜」
「今は本当に一人にしといた方が」
またその手かよ。わりぃが二度も引っ掛かるほどオレは馬鹿じゃねーん、
「そうですか。じゃあ帰ります」
だ・・よ?
って、は?!
慌てて飛び上がり扉を開けると、おっさんとカロルが居て、そして・・凄い音をたてて開いた扉になのか、俺になのか、驚いた顔をして立ってるあだな。
「ユーリ・・」
「・・あだな。あー・・と、なんだ。中入るか?」
しどろもどろ出てきた言葉をあだなはただ無表情で聞いてた。
まだ怒ってんだろーな。この様子だと。
「いいの、・・対した用じゃないし」
「そ、か」
素っ気ない返事に挫けそうになりながらも悟られないように必死に表情を変えない。
特におっさん達には悟られたくない。だけどニヤニヤしてるからなおのこと腹立つ。
「はい、これ」
「・・・?」
いきなりつきだしてきたのはちょっと大きめのラッピングされた箱。
なんだ?いったいこれは・・、そもそもどうしてオレはプレゼントを貰って・・・・・。
「今日は沢山の武勇伝を残した貴方にお祝いとしてプレゼント・・」
少し複雑そうな表情でそう言ったあだなに、胸が締め付けられるような感覚に陥った。
いつの間にかおっさん達も消えてて夜風に二人の髪が小さく揺れる。
「もっと前から準備してたんだけど、」
「ありがとな。・・」
これ以上言葉が出ない俺を見かねたのか、あだなの苦笑の声が小さいのにやたらと耳に響く。
「それじゃ、私はこれで」
「っ、あだな!」
咄嗟に抱き締めて久しくあだなの温もりを感じる。
「ごめん・・・好きだ」
「なんで謝るの」
「謝る事がありすぎて収集着かねーんだよ、・・ほんとに」
「自覚はあるんだ?」
耳元で聞こえてくるあだなの笑い声に安心して抱き締める力を強めた。
どうしようもなく
愛しくて
「今度は私を連れ去ってよね」
「ばーか」
20120905
最後は甘めにおさまるという・・
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