孤独と居場所
遺跡船までソロン様に付いてきて私は今ラッコと戦っている。
「ジェイは家族だからピッポ達が守るキュっ!ジェイの為に負けないキュっ」
「ジェイジェイと煩いラッコだっ・・!」
あいつに家族ですって?笑わせる。そんな淡い夢を見るほど落ちぶれたのか。
「哀れな・・・」
苦無をラッコを囲むように三方向に投げ感電させた。ラッコはうつ伏せに倒れ動かない。
殺してしまったのだろうか。あのジェイが大切にしているものを。
けれど私はモノであってソロン様の駒に過ぎない。だから情け等の感情など持ち合わせていない。
警戒を解いてソロン様の傍による。ソロン様は笑っていた。
「よくやりましたね、ふぁーすと」
「恐縮です」
ソロン様は何かに気づいたのか通路側を見つめ、私に視線を下ろした。尚も不適な笑みを浮かべるこのお方に、私は逆らう気など毛頭ないため、武器を構え直した。
「来ますよ」
「はい」
そして仲間であろう六人を引き連れやってきたジェイ。
「ピッポっ、ポッポ!」
「・・・ジェイ?平気だキュ・・!」
「俺の弟を泣かせたんはワレか?」
「これを人扱いするんですか?何をして来たか解ってますか?」
「例えそうだったとしてもジェイは大事な仲間だっ」
馬鹿みたい。そう思った。
家族? 仲間?
そんなモノ、忍には必要ない。なのに何故こいつは、
「引き返せないほど血で染まったお前はもうこちら側だ」
「本当に貴方は正しい事を言いますね」
「そうだ」
黒い霧。ソロン様からもジェイからも。そして私も例外ではなかった。
「あの女からも黒い霧が出てるぞ」
「・・ふぁーすとさん」
「ふぁーすと、行きますよ」
「はい。貴様らの命、貰い受ける」
ジェイの分身のような者と三人で攻撃を仕掛けてくる敵を迎え撃つ。苦無を投げつけ先ほど同様、円陣を作って電流を流そうと止めの一本を投げたらジェイに弾かれ間合いを積めてくる。
カキンと交わる小刀と苦無越しに目を合わせた。
「ふぁーすとさんっ・・止めてくださいっ」
「逃げた貴方は私に逃げろと言うのですか?」
「逃げてなんか、」
「私は立派なくの一になりましたよ。貴方のお陰でねっ!」
弾き返すようにして一歩大きく後退した。それは向こうも同じで距離が結構開き、また素早く攻撃をし合う。
「くの一の心得、色仕掛け」
「?、」
「貴方が逃げた罰に私は幼いながらも女になりました。くの一になった瞬間です」
「っ・・・!」
そう、私はジェイが居なくなり、ソロン様があいつは俺を置いて逃げたからと私を本当のモノに仕立てあげた。その時は恐怖と苦痛だけで何も良い事など無かったんだ。だが耐えた。モノだから。
なのにジェイに言ったのは紛れもなく皮肉、だ。
何故なら私は常にジェイと行動を共にして唯一、幼かったからか二人だけの時は良く本音で話していた。
いつも一緒がいい、と
別々の任務になってもちゃんとお互い帰ってこようと
そんな些細な約束さえ私は覚えていて。
だから必ずいつか帰ってくると信じてた。自惚れかもしれない、私がいるから戻ってくると考えてしまうなんて。
とうとうジェイが戻ってこなくなって色々ありすぎた。全ては感情を消すため。もう感情なんて真っ平ごめんだ。
「泣いてるんですか?」
「っ・・・ジェイを信じてたのに・・」
「ふぁーすと、」
「ぐああっ」
「ソロン様っ・・?」
ソロン様はボロボロになって倒れていた。私は涙を隠すように乱暴に拭ったあとソロン様に駆け寄ると彼は立ち上がり私を睨む。
パンッ───!!
「うっ・・!」
凄い音で平手をくらい倒れ込むと思いきり何度も蹴られる。お互いボロボロなのに、ソロン様も止めないし私も耐え続ける。
もう目の前が霞んでしまうほど。
「何で・・味方同士なんじゃ・・・」
黄色い服の女がボソッとそう言った気がして朦朧とした中目線を敵に向けた。
「何で私・・を庇わな、かったんです?」
「ごめんなさい・・うあっ」
「盾・・くらいには、なれたでしょう」
「ぁ゛・・ぁ・・・・・」
もう限界が来たとき、彼の声が耳に響いた。
「止めろっ」
ジェイの・・・・・声。
目を覚ますと薬品の匂いが目立って周りを見渡してみる。
病院、という所だろうか。上手く頭が回らない辺り、何日間か眠っていたかもしれない。誰も居ないこの空間にどこか酷く痛くなる。
そういえばソロン様はどうなったんだろう。
そんな時ジェイやその周りの人達を思い出した。彼には仲間がいて家族がいて・・。それに比べ私は孤独に過ごしてきた。いや、ソロン様が居てくださった。
「あっ、起きたんですね」
「エルザ。静かにしなさい。この人は起きたばかりだ」
「はーい」
親子だろうか、二人で私の所へやってきた。
「痛むところありますか?」
「特にない」
「そ、ですか」
「ソロン様は・・」
「・・・エルザ、席を外してくれ」
静かに少女は病室から退室し、室内は私とこの男の二人となる。
「その事はセネル君達に聞いている。今は皆、街にはいないから代わりに伝える」
「ソロン様は?」
「・・もうこの世には居ないそうだ」
それを聞いた時呪縛から解放されたような感覚と、なんとも言えない感情が体を支配した。
「そうですか」
「君はゆっくり休んでいてくれ」
静かに立ち上がり父親も病室から出ていった。
そして部屋に一人になって気づかされた。私は本当に一人になってしまったんだと。居場所なんて存在しないのだと。
これが本当の孤独だと。
ゆっくりと立ち上がり窓から身を投げた。まだ体が言うことを聞いてくれず上手く着地ができなかったけど、フラフラしながら泉の方を目指した。
私はもう必要のない存在だ。
幸いここは船の上。海なんてすぐそこにあるようなもの。崖から身を投げれば死ねるだろう。
道中、体に無理をさせてしまったのか膝を付いてしゃがみこんでしまった。このままいれば魔物の餌食だろうか。
そんな死に方も悪くないのかもしれない。
「ふぁーすとさんっ」
「・・、。」
ジェイだ。
肩を抱かれて立てますかと聞かれた。
「なんで・・?」
「はい?」
「何でこんな事・・するの?」
「ぼくがそうしたかったから」
意味の解らないことを言わないで大人しく死なせてくれれば良いのに。
「私はもう行く」
「どこへ行くつもりですか?」
「空、に」
この世には人が嫌って程居て、主の居ないモノである私はきっと孤独に勝てないだろうから、空に浮かぶ雲になりたい。
「ジェイは幸福者だよ」
「何を言ってるんですか。ふぁーすとさんだって漸く自由に、」
「私は汚れてるもの。・・手も、心も・・・体も・・全部」
すると温もりを感じて放心していながら、ジェイに抱き締められているのだと、理解する。
「ふぁーすとさんは綺麗だ」
「・・っ・・・」
「汚れてなんてない。ふぁーすとさんはとても綺麗だ」
「やめて・・、私はモノ。今更人らしく生きるなんて、」
この温もりの中、私は自分に言い聞かせた。私には居場所などない。誰も私を必要としない。
「ふぁーすと・・」
「・・・」
「ふぁーすとの本当の気持ち、言ってくれませんか?」
「・・もう嫌なの。死ぬしかないの」
「そんなのぼくは嫌ですからね」
力が強くなり私は若干苦しかったけど体が動かないためされるがままになっていた。
「人らしく生きられるように、ぼくが教えてあげるから」
「嫌だ。居場所なんてない」
「大丈夫。これからはぼくがいる」
「ジェイ?」
「ぼくがふぁーすとの居場所だ」
私はその言葉を上手く理解できないでいた。
ソロン様の様に私を駒にするのか。私の思考はそれしかなかった。
「ジェイが主ってこと?」
「違う。主従関係なんかじゃない」
解らない。何が言いたい。
私は何も解らないっ・・・・・。
「離せっ・・」
「お互いを尊重し合う、必要とし合う関係って言えばいいかな・・」
尊重?必要?
「ふぁーすと・・、ぼくを居場所にしていいから。自分を見つめ直して。そしてどうしたいか、」
「・・嫌だ、解らないっ・・・・、」
「いつも一緒がいい」
「!」
いつも 一緒が いい・・──
幼い頃のその言葉。ジェイは覚えていた。
「あ・・ああ・・っ、」
その瞬間涙が溢れだし、ジェイにしがみつく様に止めどなく泣き続けた。
寂しかった。
辛かった。
言葉にすれば切りがない。
「ふぁーすとは生きてる。モノなんかじゃない」
「もうっ・・やり直せない・・」
「ぼくを見てもそう言うつもり?」
「・・・」
きっと大丈夫。
「(昔ぼくたちは互いが互いの居場所だった)」
「(だから安心して)」
20120515
投稿日//20120626
長っ、その上ソロンとのやり取りあやふやでワケわかんなくなりました(ノд゜)
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