海
私はただ海を見ていた。
「ふぁーすとさん、探しましたよ。全く急にいなくなるなんて迷惑な話です」
「・・・・・」
「聞いてます?」
「聞いてるよ」
そう私は
ジェイの声も・・・
静かなこの海の細波の音も
───聞いてる・・。
「なら早く戻りましょう」
「ジェイは先に戻ってて。私はまだここに居たい」
「我が儘言わないで下さいよ。キュッポ達だって、」
「ごめん、もう少しここに居たいの」
ここで果てしなく続く海原を眺めていたい。
「・・、解りました」
「ジェイ、何してるの?」
「ぼくも休憩がてら少し眺めていようと思って。貴女を探し回ってクタクタなので」
「そっか・・」
「・・はい」
「ねえジェイ、命って脆いよね」
「え・・・」
ほんと脆い。
何かあれば簡単に命の灯火は小さくなっていく。
急所を刺されれば強い風が吹いて灯火なんて一発で消えるような、それとも、水滴がぽたぽた周りに落ちて、その火を追い詰めて蝕んでいくような・・・。
「人の命ってほんと脆いや」
「急に何言って、」
「私の命も脆い・・」
「ふぁーすとさん?」
「命尽きる時は海の見えるばし、」
「・・・っふぁーすと!!」
「なぁに?」
「いい加減にしないと怒りますよ」
彼の瞳は私を捉えて放さない。
真っ直ぐな瞳に私はどう答えればいい?
「ジェイ・・・」
「・・なんですか」
「くっついていい?」
「何を・・、・・・。良いですよ」
「ありがと」
手を繋いで、指を絡めて、肩を寄せる。
目を閉じて、波の音と彼の手の温もり、肩から伝わる彼の温もりを感じる。
「ジェイ、私は海が好きだよ」
「そうですか。ぼくは・・」
「うん」
「ぼくはふぁーすとと見る海が好きです」
「・・・・・」
「だからしわくちゃになっても、ふぁーすとはぼくと居てくれますか?」
「・・・うん。ジェイの隣にいるよ」
「年老いてもこうして海を眺めたいですね」
「へへ、ジェイ」
「はい?」
幸せだよ。
「また来ようね、海」
「はい。何度でも」
20120813
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