帰るよ
「ふぁーすと、お前・・」
やっぱり泣いてやがる。
みんなで買い物をしてたが、ひとり宿屋に戻ったこいつの異変には気付いていた。だからこうして俺も早めに戻ってきたんだ。
俺を見るなり、ベッドに腰を下ろしていたふぁーすとはバツの悪そうに体ごと顔を俺から背けた。
「あーあー、そんな顔になっちまって」
「・・煩いよ」
隣に腰かけてこいつの肩を掴めば俺の方へ向かせた。
それでもふぁーすとは俯いて目を合わせようとしない。
「おじょーさん、何ならお話聞きますけど?」
「・・・・・」
こいつの事だ。
また悪態付いて離れるに決まってる、そう思ってこいつを眺めていたら急に顔を上げた。
もしかして、まじで悩みを打ち明けるのか?
そう思った矢先、
「うおっ・・?」
いきなり抱きついてきた。
いやいや待て待て、予想外すぎてびっくりした。突然の事に俺の腕は未だに宙に浮かせたまま。
どうすりゃいい・・、このまま抱き締めるのが正解なのか?
けど、俺とふぁーすとはそんな関係じゃねーし、・・俺としてはそんな関係になりてーけど。
「アル、ヴィン・・」
「どうしたんだよ、」
「何となく裏切られた気分って・・解る?」
「・・・・」
一瞬焦りを感じた。
涙声のこいつの表情は、俺の胸に頭を預けてやがるからわからない。
が、何でこんな事を言ってくるのかがそれ以上に理解できない。
「さあ・・解んねぇな」
最近仲間になったふぁーすとの過去とか、俺には予想しようがない。
「私はもう嫌だ。裏切られて、その上私が悪者扱いで、・・」
「・・・何があった」
「私が町の外で倒れてたのは、信頼してた人達に見捨てられたから」
「・・・」
「ひとりの悩みを聞いて、相談に乗ったりもした。けど絶対に私は他言しなかった」
「まあ普通、相談内容は他言するもんじゃないな」
「けど、その人は他言して、話を聞いたもう一人の怒りの矛先が私に向かったの」
「まてよ。他言した内容はなんなんだよ?」
「私がはっきり言って使えないよあの人は。パーティだから切り捨てたい≠チて言ったって」
「・・・・は、」
あり得ないと思った。数日共に過ごして、こいつはそんな事しないし出来ない奴だって感じた。
長い間傭兵として色んな人を見てきたから洞察力には自信がある。
「・・・本当にお前が、」
「言わないそんな事っ!大事な仲間を見捨てたり売るような事しないっ」
「だよな・・・」
その言葉は結構俺に響くな。
俺は今まで・・、
「元々は、その人の言葉。私は言ってない・・っ」
「なるほど。相手はお前に責任転嫁したわけだ」
何だよそれ、ガキかよ。
「はは、どこまで優しいんだよ」
「アルヴィン?」
「お前、今一緒にいるやつらは誰だ?」
「・・・アルヴィンや、ジュード」
「だろ?前の連中はお前と違ってただガキだっただけだ。悩むだけ無駄だぜ?おじょーさん」
そいつらの為に一緒に悩んで相談に乗ってやって、・・なのにそんな仕打ちを受けて・・・・・普通怒る・・いや、通り越して呆れるだろ。
でも真面目なこいつはそいつらを怒れないし嫌いになれないんだ。だからこうやって悩んでんだ。
「お前は今ミラ達と旅する仲間だ。前のやつらは過去なんだ。それにそいつらとまたやり直したいって思えるか?」
「へ・・」
「だからお前は、お前自身を傷つけたそいつらとまた一緒に旅でも何でもしたいのかって訊いてんの」
「・・・・」
「俺なら答えはノーだ」
きっとそいつらはお前にとってマイナスな存在だったはず。
じゃなかったらもっと自分を攻める質だろうから。
「ふぁーすと、ミラやジュードは信頼できるぞ?」
「・・うん、・・・うんっ・・」
またわんわんと泣き始めたふぁーすとを俺は頭を撫でながら抱き締めてやる。
裏切る、か・・。
きっと俺もこいつを泣かせちまうんだろうな。
「アルヴィン、」
「ん?」
「私初めて。こんな風に悩み・・になるのか解らないけど、話を聞いてもらうのって」
「・・・」
「だからねアルヴィン、」
「もし俺が裏切ったら?」
先を言わせないかのように言葉を遮った。
しばらく沈黙が続き、ふぁーすとは顔を上げて俺を見てくる。
真っ赤に目を腫らせて、少し微笑んで、そして一筋の涙を溢しながら・・
「アルヴィンが裏切っても私は待ってあげる」
そう言った。
「ふっ、・・やられたな」
「アルヴィンは前の人たちより凄く信頼できるから。不器用なだけで」
「・・お前な、」
胸が苦しくなるのと同時に嬉しくて熱くなる体。思わず思いっきり抱き締めた。
帰るよ、
「お前のところにな・・」
「今日はその・・ありがと、アルヴィン」
「こちらこそ」
20120805
過去の実体験を元に。その時の別の友人の言葉はとても暖かく安心できるものでした。アルヴィンの台詞に使わせていただきました。
本当に感謝しています。
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