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私だけを












「エステル、味これくらいで良いか?」

「これですか?んー、バッチリですっ」

「・・・・・」






薪を取りに行けって言われたから取りに行ったものの、戻ってみれば充分すぎる薪が置いてあった。


これはいったい、とユーリを見ればエステルと楽しそうに料理をしてる。

元々今日は私とユーリの当番だったのに、お前は薪を取りに行けってユーリに言われた。
そしてこれだ。


私がただ自分の抱えている薪をため息混じりに見つめていたらレイヴンに肩を軽く叩かれた。





「あらま、ふぁーすとも薪持ってきちゃったのね」

「うん。でも要らないみたい、ね」

「解んないわよ?後々使うかも」

「そうかな?」

「もしもの時はおっさんが使っちゃうわよ?」

「ふふ、ありがと」






薪をその辺に置いて少しテントから離れる。

そしたら正面からやって来る二人組。一人は夜でも輝くのではないかと思うくらい明るい金髪の男と、ゴーグルを頭に付けている少女。





「リタにフレン、何してたの?」

「水汲みにね」

「少し歩いた先に湖があるのよ」

「で、あだなはどうしたんだい?」

「いや、息抜きにちょっとね」

「息抜きって。あんたね、今真っ暗なのに一人でほっつき歩くのやめなさいっての。危ないじゃない」





何だか母親のように言ってきたリタに少し微笑んでみせて大丈夫と言葉を漏らして通りすぎて歩き続けた。

先にはリタの言う通り湖があって私は近くの少し大きな岩に座り込む。





「何よユーリの馬鹿」





私が邪魔ならそう言えばいいじゃない。どれだけエステルと作りたかったのよ。

いつだって貴方はエステルエステルって。






「浮気、してやろうかな」

「じゃあ僕とする?」

「・・へっ?!」






聞き覚えのある声に振り替えると立っていたのはフレン。

隣失礼するよ、と断ってから座って私を見ては笑ってる。私もそれを見て少し安心してしまった。







「フレンってば、そんな事言ったらユーリに怒られるよ?」

「君が一番怒られそうだけどな」

「それもそっか」





浮気と声を出した私が一番怒られるのは当たり前かもしれないな。


でも・・・・






「今のユーリは怒らないかもね」

「そうかい?」

「そう、かも」





最近私に構ったのはいつの日の事なんだか。彼の目線の先には必ずと言っていいほどエステルがいる。

それは心配だからなのか、それとも・・・・愛しさからなのか。






「フレンはさ、私が浮気しようって言ったら、その話に乗ってくれる?」

「・・・どう、かな。でも今は絶対にイエスなんて言えないな」

「え?」

「少しからかってみようか」





何を言っているのかちんぷんかんぷんで黙ってフレンを見ていると急に顔を近付けてきて私のすぐ目と鼻の先で止まった。

驚きながらもじっとフレンを見つめていると、口が怪しく笑ってる。

しばらくじっとしたままで、痺れを切らした私は口を開く。






「フレ・・・」

「フレン!!いい加減にしろ!」

「ふははっ・・」

「えっ・・うわっ」






今度はニッコリと笑ったフレン。そんなフレンがすごい勢いで離れていく。

ううん。正確には私が何かの力で離れてた。

後ろを向いてみるとユーリが私の腕を引っ張ったんだと理解してまだ腰を下ろしているフレンを見れば可笑しそうな笑いを見せていた。






「遅い登場だったね、ユーリ」

「お前っ・・あだなに何しようとしたんだ?」

「前髪に付いた葉を取ってあげただけさ」

「・・・っ、そーかよ」





いつから持っていたのか、小さな葉をヒラヒラと見せびらかすフレン。

そんなフレンを睨みながら言ったユーリは私の腕から手を離してくれたけど、ユーリの後ろへと引き寄せられた。







「あ、それじゃ僕はテントに戻るから」

「・・フレン、さっきはごめんね」

「謝る理由が解らないな、それじゃ」




背中を向け歩き出そうとしたフレンは何を思ったのかこっちを振り向いてユーリを見つめた。






「ちゃんと捕まえとけ」

「・・・・」






そう言い残して今度こそテントへと向かったフレンを見て苦笑いをしながらユーリを見る。

けど、ユーリの表情は険しく無言だった。







「えと・・私達も戻ろうか」

「・・・」

「・・ユー、リっ?・・ちょっと何、あっ!!」




いきなり肩を押されて木に追いやられた。頭のとなりにはユーリの手。






「お前、何て言った・・」

「へ?」

「フレンに何て言ったっ!」

「・・っ、聞いてた、んだ」





どうしよう、怒ってるよ。
当たり前だよね、フレンにあんなこと言うんだもん。






「浮気しようだと?ふざけんな。オレをバカにしてるのかよ」

「違うよっ、バカになんか、」

「じゃあ何であんなこと言ったんだっ?」





泣かない・・絶対に泣かないっ・・・






「・・・だってユーリが、」

「オレが何だよ」





泣いちゃダメだっ






「ユーリ、が・・・エステ、ル・・エス、テルって・・!」

「・・・」





ユーリが目を丸くして私を見てる。それは私の言葉のせいなのか、それとも溢れてしまった涙のせいなのか。






「そっ・・なに、エ・・ステルが、い・・・ならっ、エステル、のこ、・・びとにでも、なればいいっ!」

「あだな・・、違う、オレはお前だけだ」

「ふぇっ・・知ら、ないっ・・!ユー、リな・・んかっ」

「あだなっ、あだな・・悪かった」





慌てたように抱き締められて私は尚も泣き続けた。

暫くすると、さっきまでフレンと座っていた所に今度はユーリと腰かけてる。

私がすっかり落ち着いた頃にユーリが私の肩に腕を回して引き寄せた。







「あだな」

「・・なに?」

「冗談でも浮気しようなんか言うな。特にフレンには」

「フレン?」

「あいつとお前、すっげー仲良いからシャレにならないんだよ」






そんな事を呟くように言ったユーリに少し笑いながらユーリの肩に頭を乗せて目を閉じた。

結局私の早とちりだったのかと思えば凄く安心して眠りにはいる。






「ユー、リ・・私と、いてよね」

「ああ、当たり前だ。ギルドがでかくなってもお前といるって」

「・・・・」

「ははは、寝ちまったか」





私だけを見て

「フレン、どこへ行っていたんです?」
「ふぁーすとの所に、」
「また。フレンがそんなだとまたユーリがひねくれてグチグチと鬱憤を聞かされるんですからねっ」
「はは、それは申し訳ありませんでした」









20120805



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