日常
突然出ていった彼はいつ戻ってくるんだろう。彼の部屋に置いた植木に水をやりながらぼんやりと考えてた。
いきなり貴族街からやって来たかと思えば私の知らない女の子の手を引いて街から出ていった。
何よあれ。端から見れば駆け落ちじゃない。ジョウロを乱暴に置き彼の部屋から出ていった。
城に避難したときも、彼は居たようだったけど私には顔を出さなかった。
隣の私の部屋に戻って写真を眺める。一枚しかないこの写真。小さい時にフレンのお母さんが撮ってくれた写真。
あの頃は良かった。いつでもユーリの傍に居れたから。
日はすっかり暮れて空は真っ暗だ。買い物を済ましてそろそろ寝ようとした時だった。
誰もいない筈の隣の部屋から壁越しに物音がして心臓が跳ねた。
「・・何の音?」
空き巣だろうか。確かめるべく私は隣の部屋へと急ぐ。外へ出て扉を開けようとすれば先に開けられ白髪の男性が中から出てきて呆気にとられた。
「だ、れ?」
「・・・・」
私の問いに答えることもなく黙って去っていったその男を私は不審に思った。そもそもここはユーリの部屋であんな人知らないし警戒するのも当たり前なわけで。
「あだなか?」
急に聞こえた懐かしい声に、まさかと思い暗い部屋の中を見ると、ベッドに腰かけるユーリの姿があった。
「ユーリ、なの?」
「誰に見えんだよ」
「だってずっと・・・」
帰ってこなかったじゃない。彼に駆け寄って顔に触れると戻ってきたんだと実感した。
「何してたのよ、帰ってこないで」
「悪い。まだやることあんだ」
「え・・」
私の手を払い除けて部屋を出るユーリ。私はその手を見つめる。私、ユーリに手を払われるの初めてかも。胸がズキズキ痛む。
そう言えばお腹包帯してたよね?怪我してるんなら治癒術使ってあげないと。
急いで彼を追いかけるとすぐに見つかった、が。
「ユーリっ!」
桃色のあの子がユーリに飛び付く。慌てて物陰に隠れた。
やっぱりそう言うことなんだ。ラピードも一緒のようで、治癒術もその子がしてくれているようだ。
「出番、なしか」
黙って私の部屋に戻るとその場で踞ってしまった。
もういい、やめよう。こんな気持ちやめてしまおう。
「止まれっ・・・」
瞳から雫が溢れだす。
「お願い・・・っ、止まってえ・・・」
その日、泣き崩れた私は朝まで泣きはらし疲れて眠った。
あれから大分日が経ち、魔導器も使えない世界になってしまった。
私はというと自室で外を眺めていた。仕事も軌道に乗らないらしく休日が増え家にいることが多くなったから。
窓際に置いてある椅子に腰を掛けたまま睡魔に襲われた。下町の子供達の楽しげな声が響く中、目を閉じる。
目を覚ますと夕日が差し込むのが解り、随分寝ていたんだと自覚する。でも何で私ベッドで寝てるんだろ。寝ぼけて自分で移動したのかな。
「起きたか?」
「!」
虚ろな目で横になっていた私は一気に頭が覚醒して起き上がった。
そしたら彼が・・ユーリが私が寝てしまった筈の椅子に座ってる。
「何で・・へ?」
「時間が出来たから来てみたんだ。なのに大口開けて寝てんだもんな」
「そんなっ、大口開けてだなんて、」
「冗談だよ」
可笑しそうに笑うユーリは何だか無邪気で安心した。
そう言えば・・・・、
「ベッドに運んでくれたの?」
「ああ、風邪引くと思って、さ。お前軽くなったな。ちゃんと食ってんのかよ?」
「・・・・」
まともに食べていない。最近と言えば嘘になる。私は日に日に痩せるのを自分自身解っていたけど、食欲すら出なかった。
「食ってねーんだな。何か作ってやるよ」
「いい、私に構わないでよ」
「あだな?どうしたんだよ」
「私やることあるから帰って」
「おい、あだなっ」
無理に彼を押し追い出そうとしたけど、力が出ずに倒れそうになっり彼が抱き止めてくれた。
「大丈夫かよ・・」
「へーき、だから」
彼はそのまま私を抱き締めて、私は抵抗する力もなくされるがままになる。
だめ、やめて。気持ちが蘇りそう。これ以上私に触れて欲しくない。
「細いな、ほんと」
「・・そ?」
「平気じゃねーだろ」
「平気なのっ・・、だから放っておいて」
「平気じゃねーんだよ、俺が」
彼の腕に力が籠る。
「何そんなに強がる必要があるんだよ」
「強がってなんか、」
「もうボロボロだろっ」
「いいじゃない別にっ!あんたに関係ないでしょっ!」
「っ・・・・お前」
目の奥が熱い。泣いちゃだめだ。だめなのに。
「ピンクの姫様の所にでも行ってよ・・」
「酷え勘違いだぜほんと」
「・・んっ・・んう・・」
いきなりのキスに驚いて抵抗しようとすると後ろにあるベッドにゆっくり押し倒された。
そして手を私の服にかけようとしたから、私も抵抗をやめると彼の手も止まり顔をあげる。
「ここまでして解らないとか言わせねーぞ」
「ピンクの・・、あの子は?」
「どうしたら勘違いすんだよ」
「・・する、絶対する」
「そりゃ悪かったな」
押し倒された体を彼はゆっくりと起こしてベッドの上で抱き締めてくる。私の勘違いだったのかと少し笑えてきて彼にしっかりと抱きついた。
「ユーリ、挨拶のキスなんて無しだからね?」
「おいおい、信用しろよ」
「だって、」
「ちゃんと好きだよ、ガキん時から」
「子どもの時からなの?」
意外だ。そんなに前から私はユーリに想われていたなんて。
彼の顔を見てみたら、照れたような顔をしていて尚も見続けようとすれば、ガシッと頭を胸に押し付ける。
「ユーリ照れてる」
「うっせえよ」
日常に彼が
戻ってきました。
「飯食うか?」
「いい、眠い」
「俺の相手は?」
「いい、寝る」
「・・・・・・・」
20120128
投稿日//20120725
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