夢より現実
「おかーさーん」
包丁を片手に料理をしている私に抱きついてくる可愛らしいちっちゃい男の子。
あれ、私お母さん?・・そうだお母さんだった。この子も私が生んだんだった。
「もう、お母さんが包丁持ってる時は危ないって言わなかった?」
そう言いながらも包丁を置き可愛すぎる我が子を笑顔で抱き締め返す。
「あのね、おとーさん、もうかえってくるんだよ」
「お父さん・・」
この子のお父さんってことは、私の旦那様で。・・あれ私の旦那って誰?思い出せないなんて私病気かな?
考え込んでいると玄関の扉が開き、私もこの子もそちらを向いた。
「ただいま戻りました」
「おとーさんっ、おかえり!」
「いい子にしてたかい?」
「うん!」
ジェイだ。あーそっかそっか、私はジェイと・・、え、そだっけ?
「ふぁーすと?どうしました?」
「ううんっ、おかえりジェイ」
そうそう、もうさん付けじゃないんだよね。そして決まってこの後は…
「会いたかったです、ふぁーすと」
「私もだよ」
「お腹の方は順調ですね」
「お腹?・・あ、うん!元気だよ」
それでお腹には二人目がいて。
「愛してる」
こうやって優しく抱き締めてくれて、甘い台詞を囁いてくれて、そして顔を近づけて・・
──ん、・・さい
…──さんっ
「ふぁーすとさんっ!起きてくださいっ」
「うはあっ!?」
思いきり耳元で叫ばれて慌てておき上がった。
「うはあってなんです。やっと起きましたか」
「じ、ジェイ?」
「はい?」
さっきと違い少し幼い顔でキョトンとしてるジェイが目の前に、もうほんっとーに少し動けば当たるんじゃないかって思うくらい目の前にいた。
「ち、近い・・」
「・・、貴女が起き上がったからです」
果たしてそれは言い訳になってるのか。覗き込んできた君こそ原因あるんじゃないのか。
心の中だけで悪態をついてみて、少し距離を置いたジェイを目で追いかけた。
「早く朝食を摂りましょう。食べてないのは貴女とぼくだけです」
「ジェイも今起きたの?」
「まさか。貴女じゃあるまいし」
一言余計だっつーの。私の部屋からジェイが出てから、さっきまで見ていたものは夢だったと現実に教えられた。
「かっこ良かった、かな」
夢の中のジェイは少し大人びてて凄く胸を射たれた気がする。現実のジェイも近い将来はあんな風になるのかな。
考えれば考えるほど、思考がおかしくなっていく私は、必死に煩悩を掻き消して着替え始める。
だいたい私はジェイに対してそんな感情持ち合わせちゃいないってのに。嫌味だし皮肉やだし姑かってくらい小言が煩いしあり得ない。勿論彼にも無いに決まってる。
「漸く来ましたか」
「・・・」
ダメだ。ジェイを見ると夢を思い出しちゃうんですけど。
「?、どうしたんです?」
「あ・・いやその、待ってくれてたんだな、って」
「はい、待ってあげたんです。感謝してくださいよ」
私が前に設置した小さなテーブルの上には手をつけてない朝食が二人分並んでた。
いくら悪態をつかれても今の私には待っていてくれたっていう気遣いに嬉しい気持ちの方が勝ってしまって、なんて良いやつなんだろうと変に胸が高鳴った。
床に座ってジェイとテーブルを囲む。
「いただきます」
「いただき、ます」
「・・様子が変ですね」
「変じゃない変じゃないっ。ほら食べちゃおうよ」
「は、はあ」
それぞれ自分のペースで食べ始めて、私は向かい側に座るジェイを見ていた。するとジェイも私を見て流石に不審に思ったのか食べてる手を止める。
「何かあったんですか?」
「な、何も・・ガハッ」
意識しまくってる私は食事も儘ならないのかお茶とソースを間違えて飲もうとしてしまった。
それを見たジェイは呆れながら情報の資料を片手に食べ始める。
食事中に他の事する人・・新聞とかそれこそ資料とかを読む人って、
「・・・旦那としては無しだな」
「何か言いました?」
「ううんっ。そう言えばジェイも朝食遅いよね。寝坊じゃないとすると何なの?」
「朝方に帰ってきたんで。もう既にキュッポ達が作ってくれてましたけど」
「・・・朝帰りも無しだよ」
「は?」
「何でもないから気にしないで!あはは美味しいなーっ」
私ってば何品定めみたいなことしてんのよ。明らかに墓穴掘るとこだったよ。
ジェイが変な目で見ていたのは気のせいってことにしてまた食べ始める。そして暫くお互い黙ったまま食事を続けていたら(ジェイは資料読みながらだけど)、ふと夢を思い出す。
おかーさーん
「・・・・」
ジェイ・・、私達子どもがいたんだよ。夢だけど。そんなこと口が裂けても言えない言っちゃいけない。にしても可愛かったな。お腹にも赤ちゃんいたっけ。
じっ・・とよそ見をしながら食べているジェイを見る。
「ジェイは将来さ」
「今度は将来ですか」
「何人ほしいの?子ども」
「──っ?!?!ブっ」
子どもと言う単語に、というより私の台詞そのものに驚きすぎたジェイは飲みかけのお茶をまるで霧吹きのごとく、見事に私にぶっかけてくれたわけで。
「ジェイ汚い。パンにも掛かったよ絶対」
「ゴホゴホっ、貴女は何を・・ごほ」
顔を真っ赤にして涙目になりながら私に訴えてくるジェイ。私は私で顔に掛かったお茶を拭おうと近くの手拭いに手を伸ばした。
けど先にジェイに取られてしまって私の手は空気をつかむ。
口元を拭いたジェイはまた私を睨んできた。
「睨む暇があるなら私のこの顔どうにかしてよ」
「貴女が変な質問をっ・・・」
「でもぶっかけたのはジェイだよ」
「・・はぁ」
態とらしくため息をついたジェイは立ち上がって私の隣まで来て膝をついて私の顎もって顔をあげさせた。
「じぇ、ジェイ?」
「おとなしくしていてください。じゃないと思いっきり擦ってやりますからね」
「ん・・」
顔にそっと当てられたのはついさっきジェイが使ってた手拭い。
じっとジェイを見ていれば、彼は私の顔の色んな所を見て濡れていないか確認しながら拭いてくれているようだった。
「ジェイ、優しいよね」
「動かないで下さい。大体ふぁーすとさんがどうにかしろって言ったんでしょう」
「そうだね」
私は思った。もしジェイに子どもがいたら何だかんだ言いながらもお世話してそうだし凄く可愛がりそう。
「ジェイの子どもは幸せだろうな」
「貴女さっきから何言ってるんですか」
「思っただけだから。将来のお嫁さんと励みなよ、応援するからさ、」
「・・・・・ぼくの子が、・・」
「?ジェ、・・・イ?!」
畳んでいた手拭いを広げて私の顔に被せてきたから視界が見えないでいると声だけがダイレクトに耳に届いてくる。
「ふぁーすとさんとの子なら、幸せでしょうね」
「・・・──」
ばっと手拭いが退かされジェイは既に立ち上がり後ろを向いて資料を手に取り部屋に戻ろうとする。
でも耳が真っ赤でチラッと見えた頬も真っ赤だった。
「私もっ」
「・・・」
「私もジェイとの子だったら、その子もジェイも私もみーんな幸せだって思うっ」
ジェイは最後まで聞くと既に赤かった顔を更に赤くして部屋に戻っていった。
夢より現実
「結局のところ何人欲しいの?」
「それはその時の気分次第でしょう」
「へ?」
「欲しくなればその都度に」
「・・・ジェイって意外と大胆だね」
20120704
初々しいジェイ君は素晴らしい爆弾を投下してくれると勝手に願ってる私がいます(^p^)
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