好きではなく
プレザとアルヴィンは何かある、そう疑ってた時期もあった。実際何かあった関係だったが、私はまだ子供なのだろうか。この歳になってこんな心境になるなんて。
こんな心境とは、その事を理解していても何と無く許せないような心境で、簡単に言葉にすれば「なんかヤダ」と言った感じだろうか。
だがこれは個人的なワガママで、当人達からしてみればいい迷惑であろう。
「なぁに浮かない顔してんの?」
ベッドが少し軋む音と同時に、私の上に跨がる彼、アルヴィンはニヒルに笑って私を見下ろしてる。
今私達は決戦を前にリーゼマクシアに一旦戻り下準備をして宿屋に泊まっていた。
「顔は浮くもんじゃないのに何で浮かないって言うのかしらね」
「変な疑問を抱かないでくれる?」
こんな疑問はどうだっていい。ただ今は何に対しても疑問を抱けると思う。
真っ直ぐに彼の目を至近距離で見ていたら、むくりと起き上がって横になっている私のすぐ横に座り込んだ。
「最近様子が変だぞお前」
「そんな事ない。きっとアルヴィンの気のせいよ」
「そんな事あるだろ。何だかメリハリがないっつーか、ぼけーっとしてるっつーか」
「・・疲れてるからよ」
横目で、言葉にし難い顔をしている彼を見上げた。私に言わせれば彼の方が浮かない顔をしてる。
はあ、と息を吐きながら彼から目を離し天井だけを視界に入れた。そのままそっと目を閉じたら頬に触れてくる温もりに閉じたそれを開けた。
「何かあったのか?」
「・・別に」
「・・何考えてる」
「アルヴィン」
「は?」
「アルの事考えてた」
想定外な返しだったのか彼は少なからず驚いたような表情になっては視線を反らして頭をかいた。
事実彼の事を考えていた。間違いはないだろう。ただ内容を言う気分ではないし、気分でなくても言うつもりなんか更々無い。
「ほんとどうしたんだよ」
「どうもしない」
「俺の事考えてくれてる割りにはなんか冷たいぜ?」
「なんか、でしょ?思い違いよ」
「そんなに冷たいと他んとこに行っちまうぞ」
「行けば、いいじゃない・・。色気むんむんで挑発的な眼鏡をかけた女性の所に。そこら中に居るんじゃない?」
つまらない強がりは逆に虚しくなってアルヴィンに背を向けた。
プレザはもう居ない。死ぬ間際彼女は優しい目をしてた。そんな目でアルヴィンを見ていて、落ちていった。アルヴィンの顔が脳裏に焼き付いて離れない。その頃からだ。決戦は明日だと言うのに、気持ちが纏まらないのだ。
「・・ふぁーすと」
「浮かない顔をしてたのも、冷たくしてたのもアルの方よ。仕舞いにはジュードや私に拳銃向けてどっかに行っちゃったもの。そして何?会えたと思えば・・あの人達と一緒だなんて」
行動を共にしてない間に、本気でこの恋仲の私を差し置いてヨリを戻したんだと思ってしまった。
子供よね。変にムキになっちゃって、私バカみたい。プレザは悪くない。きっとアルヴィンだって悪くない。
子供な私が悪いんだ。
「おまけに今頃私に優しく接するなんて・・」
また少しベッドが軋んだと思えば彼の腕か私胸の下辺りに回されて引き寄せられる。
横になっていたアルヴィンに後ろから抱き締められたんだと認識して彼の手に触れた。片腕は私をしっかり抱いたままで、私が触れた方の手はその私の手を握り返してくれた。
「アルヴィン・・」
「決戦、行くだろ?」
「・・・」
「来いよ」
「また・・貴方のペースなのね」
「ふぁーすと、一緒に来て俺を見ててくれないか?」
訳がわからず体を回転させアルヴィンとお互い横になったまま向き合う。
「今までみたいな事しないって約束してーんだ。決戦が終わった後もお前には傍に居てほしい。大事なお前を幸せにしてーよ」
「・・・」
「もしふぁーすとが、俺には出来ないと思うなら、来なくてもいい」
今度は正面から抱き締められて、顔が見れなくなった。切実に訴えてくれた彼の背に手を回した。
こうやって触れ合うのもいつぶりだろうか。
「幸せになれなくても、アルの隣に居たい」
小さく言ったら彼は体をずらして私の上にまた跨がってきた。
お互い見つめ合いながら手を絡める。
「私で、良いんだよね?」
「当然だろ。ふぁーすとが良いんだよ」
思わず溜まっていた涙が静かにこぼれ落ちた。
目を細めたアルヴィンは凄く優しい顔付きで私との距離を縮めてきた。私も目を閉じ彼を受け入れる。
翌朝、同じベッドで眠りから覚めた私達は笑い合って抱き合った。
好き、ではなく、愛する
「ジュード?アルヴィン君は?」
「部屋に居なかったんだよね」
「まさかまた裏切ったとか!?」
「心配無用だ」
「ミラ?アルヴィンを見たの?」
「アルヴィンならミィヤと疲れて眠っていたぞ」
「「・・・・。」」
20120701
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