気のせい
キジル海瀑で足を滑らせた私は今ずぶ濡れでハ・ミルまで向かってる。そんな私の不幸をアルヴィンは隣でバカにしたように笑ってた。
心配してくれるのはジュードだけでミラに関しては「濡れたのか」とだけでスタスタと前進するだけ。
二人にはジュードを見習ってほしいよ。
「う゛ぅ・・・寒・・。風邪引くかも」
「馬鹿は風邪引かないってよく言うぜ?」
「バカだって言いたいわけ?」
「そう聞こえなかったか?」
この男、本当に殴ってやりたくなる。こっちは尋常じゃないほど寒いってのに。
「・・くしゅんっ」
「ふぁーすと、大丈夫?」
私のくしゃみを聞いて前を歩いてたジュードが心配した様子で私に向き直る。流石のミラも気になるのか、せっせと動かしてた足を止めてくれた。
「ありがど、だーじょぶ」
「言葉になってないよ。顔だってなんだか赤いし・・、頭だして」
言われた通りに前髪をかきあげたらジュードの手がおでこに触れる。
「熱い・・」
「おいおい、言ってる傍から風邪かよ」
「人間とは軟弱な生き物だな」
どうやら私は濡れたままでいたから発熱したらしく、寒気もだるさもそこからきてるらしい。ミラの言う通り軟弱かも。
「歩けそう?」
「休んでいる暇など無いぞ」
「ミラ・・・」
ミラの言葉にジュードは困った顔をしたけど、直ぐに上着を脱ごうとしたのか自分の服に手をかけた。
「な、何してるのジュードっ」
「ふぁーすとも脱いで。濡れたままだから風邪引いたんだよ」
そんなの解ってるよ。でも何でそんな冷静に爆弾発言をするのっ。
本気のジュードを私は必死に止めた。きっとジュードは私に上着を貸したかったんだろうけど。
「い、いいっ。私を置いていっても良いからっ」
「駄目だよ。歩けない時はおぶるから」
食い下がらないジュードに困惑していたら、急に体が浮いた。横向きに。
「たく・・、岩場の影まで連れてってやるからさっさと脱げよ」
「アルヴィンっ降ろして恥ずかしいっ」
「ジュード君、こいつには俺の上着を貸すからお前は脱がなくて良いぞ」
私を無視して岩場の影に降ろされた。ムッとしたようにアルヴィンを見たら後ろを向く。
「何で後ろ向いてんの」
「見ない様にだろうが。ほら、さっさと脱げよ」
「!、やだっ」
「駄々捏ねるなって。ほら俺の上着」
後ろを向いたまま私の方に脱いだ上着を差し出してきたから仕方なく受けとる。
「・・、見ないでよ?」
「見ねえよ」
私は自分の濡れた服を脱いでアルヴィンのコートを羽織った。少しズシリと来るそれは大きいから私の全身を覆って、見えるのは足先くらい。
でもほぼ裸の上にこれっていいのかな?
「着たな。そんじゃ乗っかれ」
「は?」
私の前でしゃがみ込むアルヴィンに何事かと言いたくなったけど、見れば誰だっておぶる体勢だと解る。
「歩けるからいい・・」
「フラフラの病人が何言ってんだよ」
「でも・・・」
「お前な・・」
恥ずかしいと頑なに拒む私を見かねて彼は呆れるようこっちを見て息を吐く。
「おいアルヴィン、ふぁーすと。ぐずぐずするなら置いてくぞ」
先に痺れを切らしたのは少し離れたとこにいるミラだった。
「ほら、ミラもああ言ってる。本気だぜ、あれ」
「じ、じゃあジュードにおぶってもらうっ」
「・・・」
覚束無い足取りでジュードの所へ向かおうとしたら腕を引かれて一瞬で抱え上げられた。
「何してっ、」
「素直に聞かないお前が悪い」
「横抱きなんて恥ずかしいって、わっ?!」
いきなり走り出したアルヴィンに驚いて首に捕まってしまった。ミラ達の所に着いたら止まってくれて安心して冷静になってみた。
思いの外アルヴィンの顔が近くて心拍数が上がっていくような気さえした。実際上がってるのかな、これ。
「遅いぞアルヴィン」
「わりぃわりぃ」
「まあいい。先を急ぐぞ」
ミラはまた歩き出してその後ろを歩くアルヴィンとジュード。私は恥ずかしくて顔を背けていた。
「僕がおぶろうか?」
「ほんと?じゃあ、」
「おっと〜、ミラがあんな遠くに」
「ひぇっ!」
変な奇声をあげた私を他所にわざとらしく言ったアルヴィンはまた駆け出した。
「私が病人だって解ってる?」
「なら、おとなしく俺だけに捕まってろよな」
「は?」
「だからこれからは俺だけを見てりゃ良いんだよ」
余計に顔が熱くなった私は何も言えなくなってアルヴィンを直視できなくなった。
「なんか言葉が変わってるんだけど」
「気のせいだって」
気のせいじゃない
「ふぁーすとどうした?顔が先程より真っ赤だぞ?」
「アルヴィン何かしたんじゃないの?」
「いんや?知らねぇな」
「「・・・(嘘だ)」」
20111125
投稿日//20120630
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