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彼女の世界
初めての接触


次は移動教室のため、俺は廊下を歩き、すぐに非常階段に向かった。

向かうべき他の校舎への近道だから。

でも誰も使ってない道。
教師なんかにももちろん遭遇しないから俺はだいぶ気に入っている。


残り5分をきったが、この道なら余裕。

そう思ってゆったり歩いていた俺の前方で、しゃがみ込む人の影があった。



何故。





何故、彼女がここに。

暑さから流れていたはずの汗、それはそのままに体温だけが消えたような感覚。


思わず立ち止まり、彼女の横顔を見て



その場から動けなくなった。

彼女は、眉を軽く寄せ、でもどこかうっとりしてる、そんな表情をしていた。


その腕から覗いていたのは赤。
それも無数の赤、赤、赤。

それらは、いつもシャツによって隠れる位置にだけで、手首などにはなかった。


赤い切り傷だというのは、彼女の手に握られていたカッターでわかった。


初めて知った、そして初めてみた。

彼女は自傷癖のある子だった。




「あ、君はクラスの…」

いつの間にか彼女はこちらを向いていて俺の名を呼んだ。

手にはアレを持ったままで。



「ティッシュとか持ってんの?」

その問いに目を丸くして、笑った。

「タオル持ってるから平気。シャツ汚したくないからね。」

タオルは汚すのか。


カチカチカチ、というカッターの刃をしまう音とともに、彼女は立ち上がり

「授業遅刻しちゃいそうだね、急ごう」

そう言って、走って行った。


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あきゅろす。
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