405号室の哀愁。
生と死について。
「ねえ、L」
「なんだい、R]
「どうして僕等は生きているの」
不思議そうに突然話を始めるR。
「そんなこと俺にはわからないよ、R」
困ったように方を竦め苦笑するL。
「そう、Lにもわからないんだ」
残念そうに下を向く。Lは突拍子もないことを尋ねてきたRを不思議に思い、「どうしたんだ」と聞いた。
「そうだね。生の先には死が存在するだろう?だったら、どうして僕等は生きているのか、って思って」
考えたことはない、L。
と、さも当たり前のことのようにLに問う。
「は、馬鹿なことを考えるね、R」
「何故?わかりきっているから馬鹿なことなのかい、R?」
「そうだよ。わかりきっていることを考えなくてもいい」
くすくす、と小さく笑う。
Rは意味がわからず小さく首を傾げた。
「『わかりきっていること』?さっきわからないって言ったじゃないか、L」
もうわからないや、とR。
「『わからない』ということが『わかりきっている』んだよ。『わかったこと』を理解した、という意味での『わかりきっている』じゃないよ、R」
「そっか、そうだね」
やっと理解できた、と目元を和らげるR。
「ああ。結局は生きているうちに残った記憶の何倍もの記憶を消去しながら生きて、最後には無の世界が待っているんだろう、きっと」
それがきっと『死』なのさ、とL。
これがLにとっての『死』の答え。
残るは『生』の、答え。
「じゃあどうして天国や地獄があるの?」
「そんなものないさ、良く考えてごらんよ。死んだ後にまた記憶をそのままに罰や褒美を与えられると思うかい?肉体も、何もかもを失った状態で、誰がそんな場所にいける?あれは、人間の作った空想さ」
「どうしてそんな空想をしたの?」
「死んだ後に、無になるのを恐れて先をつくりたかったんだろう。臆病なものなんだよ、人間は、R」
でも、生きている限りは臆病になるのは仕方のないことなんだよ、R。
Lが小さく微笑む。
「そうか……じゃあ、最後には全部なくなるのに、どうして人は長く長く生きようとするの?どうして、早く死んではいけないの?」
人って矛盾してる、Rが理解できないと唸った。
「それはせっかくこの世に生まれたのだから、たくさんのことを学ばなければ、と考えるからだよ、R」
Lが氷の入った硝子のコップに、サイダーを注ぐ。
小さな音ひとつたてずに、サイダーはなみなみとコップに注がれた。
「じゃあ、どうしてこの世界に生まれてくる子供達を祝うの?だって、最後は全部失ってしまうのに。悲しいじゃないか、最後、全部失ってしまうのに、どうして生かすの。早く死んだほうが悲しくないんじゃないの、L」
「早くに死んでしまったら、その悲しみすらわからないだろうね。それもまたいい。けど、その悲しみすら知らず悪戯に生まれてくる子供もいないんだよ。生まれてくる子供達には、それぞれ未来に役割がある。この世界を支え続けるのも、また新しく誕生する子供達なんだ」
コップに手を伸ばし言うL。
「わかるかい?たとえば、この硝子」
Lが手にコップを持つ。
そして、手を、放した。
「割れちゃったよ、L」
「そうだ。割れたんだ、R」
落ちた硝子のコップは勿論割れた。
落ちて、粉々になって、割れた。
そこに、音は、ない。
「割れたら、新しいものが必要だろう?壊れるから、新しいものをつくる、手に入れる。それは、当たり前のことなんだ。だから、人間も同じように、死ぬから生まれ、生きるから死ぬんだ」
それが多分『生』なんだ、とL。
これがLにとっての『生』の答え。
これで『生』と『死』、両方の答えが出た。
「難しいね、L」
眉を寄せ難しい顔をするRに、Lは小さく笑い粉々になった硝子のコップを捨てた。
やはり、音は、なかった。
「難しいことなんだよ、R。考え出したらキリがない。だから、答えなんて結局どこにもないし、誰にもわからない」
「嗚呼、そうだね、L。やっぱり、Lも馬鹿なことを考えたんだ。馬鹿なことを考えるんだね」
「詰まるところ、俺もおまえと同じことを考えるんだ、R」
(でもやっぱり、)
(答えはわからないままで)
(本当は探さなくても)
(きっと僕等は)
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