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バク



 あるところに、夢見師―ユメミセ―と呼ばれるバクがいた。世に言われる様に夢を食べるバクではない。夢見師の名前の通り、バクは夢を見せる。呼ばれれば誰のところにでも行き、対象が望んだものであれば、楽しい夢も悲しい夢も見せた。
 バクは空に茜色が差してから、群青色が白むまでの内にしか現われない。太陽が差せば、完全にその姿は消えてしまう。まるで流れる雲の様に、何処へ行くのか、はたまた吹く風の様に、何処から来るのか、誰も知らない。
 ただ、その名だけは各地を駆けた。誰に聞くでもなく、心ある者はバクを知っていた。バクを知らぬ者は心を持たぬ者だけ。つまりは、この世界には誰も知らぬ者はいない。
 大きな帽子を目深に被り、長く乱雑に伸びた漆黒の髪とで銀の瞳を隠している。背負ったこれまた大きな皮鞄に、夢でも入っているのかも知れない。いつもバクは、望んだ者に夢を見せる。


―寝ても覚めても良い
 夢を見ることを忘れるな―


 これはバクの合言葉だ。




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