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僕と黒猫。3(ヒバヒバ)



これの続きです。










「ほら、口開けて」

「……………」

「何、嫌いなのこれ?」

「……………」

「…気に入らないな」


恭さんは持っていたスプーンとお粥の入った茶碗を乱暴に起き、俺に向かって「ちょっとこれ外に捨ててきてよ」と親指で病み上がりの少年を指しながら酷く不機嫌そうに言い放った。

捨ててきてよと言われてもそんな犬や猫じゃあるまいし、なんて言葉はこのお方には通用しない。

彼の命令は絶対なのである。

しかし本当に捨てるわけにもいかないのでどうすればいいのかと言葉を濁らせていると恭さんは軽く舌打ちして鋭い目付きで睨んできた。

「なんでこの子君の手からは食べるのに僕の手からは食べないの」

恭さんはまるで俺が悪いかのように言うがそんなことこっちが聞きたいくらいだ。




事の発端はたまたま気まぐれで少年の部屋に様子を覗きに来た恭さんが、まだ体が思うように動かない少年の口にせっせと食べ物を運んでる俺を見て「僕もやりたい」と言ってきたことだった。

何が彼の心を動かしたのかはわからないが、恭さんが人の世話を焼こうとするなんて初めてのことなので(鳥の世話はよくしているが)この方の心も成長したのだな、と嬉しく思い持っていた茶碗とスプーンを渡した。

そして冒頭の会話である。

さっきまで普通に食べていた少年が全く口を開かないのだ。

面白くなさそうな顔して顔を背けている。

どうしたのか、と聞くまでもない。

この少年は明らかに恭さんの事を嫌っている。間違いない。

そして恭さんはその事に気付いていない。間違いない。

このお方は昔から他人の気持ちを考えるということが得意ではないのだ。

よく言って鈍感、悪く言えば無神経である。

今も、「なんとか言いなよ。何が気に入らないの」と少年に詰め寄っている。

すると少年はやっと重たい口を開き、この家に来て初めて言葉を発した。


「あなたの手からは食べたくない」


恭さんの目を真っ直ぐ見つめてそう言い放った。

第一声がそれとはなんてふてぶてしい少年だ。

なんとなく恭さんに似ている、なんて言ったらきっと俺に明日はないだろうけど。

そんな恭さんはというと言葉を気にしてないのか気にならないのか、真面目な顔で「なんで?」と問い返していた。

「あなたは…なんか好きじゃない」

「じゃあ哲は?」

「普通」

「なんで哲は普通なの」

「知らない。それにお粥は好きじゃない。好きじゃないやつから好きじゃないものなんて食べさせてもらいたくない」


少年は淡々と話すが言っている内容は酷い。

それでも恭さんはなんとも思わないようで、「ふーん」と素っ気ない返事をした。

あまりの薄い反応に恭さんは嫌われることに慣れているのだろうか、と思うと胸が少し傷んだ。

もうそれ以上は、と少年を制しようとした時恭さんの「君は何が好きなの」という問いが言葉を遮った。


「何か食べたいのがあるなら言ってみなよ」

「…………ハンバーグ」


その瞬間、恭さんが俺の方を振り返った。


哲。
へい!


という会話を目だけで行いダッシュで台所へ向かう。

恭さんがいつでも食べれるようにと用意してあった材料でハンバーグを作りながら、彼が人のために動くなんて(まぁ実際に動いているのは俺だが)珍しいなと気付く。

少年が寝込んでいる時もそうだ。

少し前まで「弱すぎて吐き気がする」なんて毒づいていたのに次の瞬間には氷を用意してあげろと言うのだ。

あの少年にはきっと「何かをしてやりたい」と思わせるものがあるのだろう。

…いや、早く体を治させて手合わせしたいだけかもしれないが。

とりあえず今はハンバーグを作ることに専念しようと動かす手を早めた。









「ほら、口開けて」

「…ん」


驚異的なスピードでお望みのハンバーグを作り上げ、恭さんに手渡すと今度は少年は素直に口を開いた。

それが嬉しかったのか、恭さんは暫く嬉々として食べさせていたが、その内「飽きた」と俺に食事を手渡してきた。

このお方はそういう人なのだ。

選手交代し、少年に食べさせている途中でふとまだ名前を聞いていないことに気付いた。

あまり話さないから名前を呼ぶ機会がなかったからだ。

「名前、なんと言うんですか?」

「……恭弥」

「ワォ。奇遇だね。僕も恭弥だよ」

すると少年…恭弥くんは少し嫌そうな顔で「ふーん」とだけ言った。

どうやらこの子も人にはあまり興味を持たないタイプのようだ。

その面では二人、気が合うかもしれない。

「恭弥くんは…」

「ちょっと。恭弥くんって呼ぶと僕が呼ばれてるみたいだからやめてよ」

「え…じゃあなんと呼べば…?」

「さぁ。自分で考えたら」

なんと言う無責任な発言。

そんな恭さんの言葉を聞いていたのかいなかったのか、恭弥くんはふとこちらを見て「ねぇ、僕ハンバーグは和風が好きなんだけど」と言ってきた。

今から作り直せと言うのか。

返事に考えあぐねている俺に二人揃って「ねぇ、聞いてる?」と言ってきた時、これから先この方たちに振り回されるビジョンがありありと見えて思わず重いため息が洩れた。










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きっとその内続きを書くと思います。






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あきゅろす。
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