万高/3z【イチゴとか黄桃とか】
万高/3z【イチゴとか黄桃とか】
胸の内がもやっとする。
何だこれ…何だ、これ…
もやっとする。イライラす。何も手につかない。
何も考えたくない…
「……なんとかしろ、万斉」
今、隣に居ない男。
◆◇◆◇◆
「河上、こないたのアレ、手に入りやしたぜ」
「マジでござるか?!」
朝、教室に入ってすぐに沖田から声が掛った。
すっとんで行くあいつ。
「あーらら、晋ちゃんご機嫌ナナメ?」
「うっせぇ」
「先生に向かってそれは無いんじゃないの?」
知るか、糖尿。
「あ、なんか失礼な事考えてたでしょ?」
「………」
鬱陶しいからシカトするに限る。
「…ふう、まぁいいか。おーい、出席取んぞー、席つけー」
その銀時の声を合図にガタガタと席に着くやつら。
万斉も例外でなく、隣の席に戻ってきた。
◇◆◇◆◇
「すまぬ、今日は先に帰ってくれ」
「……別に、良いけど…」
良いけど、後ろで待ってるやつらは何だ?
「それじゃ、晋助先輩あたしたちと一緒に帰りましょ!!」
「高杉さんと帰るの久しぶりですね」
隣でキャッキャッとまた子と退がはしゃいでる。後ろからは当然の様に似蔵と武市が付いてくる。
でも、万斉は居ねぇ。
畜生、なんだこれ…もやもやする。
「晋助先輩クレープ屋さんスよ!!」
公園を通りかかれば、ピンク色した販売用のトレーラー。
「じゃ、買って来ますね!!」
ぼーっとしていたら、いつの間にかクレープを食う事になったらしい。
また子と退がきゃいきゃいと嬉しそうにトレーラーに向かって行く。
ったく、女子高生かっつの…いや、また子は合ってんのか。
「それで、晋助さんどうかしましたか?」
「晋ちゃん悩み事かい?」
「は?」
二人が離れて行ったと同時に問われた。
「元気が無いと言うよりも、心ここに在らず」
「何か考え事をしてるみたいだからね」
「………」
別に隠すつもりは無かったが、表だって分かりやすくしていたつもりも無かったのに…
「大方、万斉さんの事でしょうけどね」
「あいつ普段から晋ちゃん独り占めしてるからねぇ、俺としてはたまにはこんな日も欲しいねぇ」
「同感です」
「………」
「気になりますか?」
「――?!」
武市と似蔵の会話に唖然としていれば、背後から声をかけられて振り返る。
「はい、どうぞ」
渡されたのは、白い生クリームに焦茶だか黒だかの、たぶんゼリー。
「何だ、こりゃ」
「コーヒーゼリーです。ちょっと苦めに作ってあるって言ってたんで、高杉さんも大丈夫だと思います」
「ふうん。で、退は?」
「俺ですか?俺はチョコバナナです」
「あたしはアップルシナモンっス!!」
「わたしは黄桃クリームです」
「俺はイチゴチョコだよ」
……聞いた俺が馬鹿だった。食ってもいないのに、段々口の中が甘ったるくなる。
「っつーか、お前らイチゴとか黄桃とか似合わねぇもん食ってんじゃねぇよ」
「晋ちゃん…酷い」
◆◇◆◇◆
「晋助、出掛けぬか?」
「あ?」
ニコニコと話しかけてくる万斉。対して俺は不機嫌全開だった。
あのクレープを食べた日から2週間。退は「高杉さんが心配するような事は無いですよ」つってたが、だったら何で万斉は今の今まで何も言ってこなかったんだ…
2週間。万斉は放課後になればすぐに沖田たちとどっかに行っちまう、昼間だって、寝てるか沖田土方たちと何かを話していて、俺と会話なんて殆どしてねぇ。
元来俺は気が長い方じゃねぇ。今までキレなかったのは耐えた方だと自分で思う。
そんなわけで俺のイライラはピークに達していた。
また子や似蔵すら寄って来ない程に。
「土日でござるよ」
「んなもん沖田か土方と行きゃいいだろ」
つーか、土日って明日じゃねぇかよ。
「どうして沖田たちが出てくるんでござる?」
はて、と首を傾げる万斉に更に苛ついた。
「最近ずっとあいつらと一緒だったじゃねぇかよ。俺なんて放っといてあいつらと行きゃいいだろ!!」
気がつきゃ叩き付ける様に怒鳴っていた。
放課後の屋上に俺の声が響き渡る。
「―――晋助?」
驚いてる万斉の顔。
駄目だ、止まんねぇ。
「2週間俺の事放っておけるくらいあいつらと一緒に居る方が良いんだろう!!だったら俺なんて放っといて――」
「晋助」
「―テメェ…何ニヤけてやがんだ」
ニヤけた口元を片手で隠しているが、ばっちり俺が見た後じゃ意味ねぇし。
「あーもう、晋助晋助晋助!!」
「な、何しやがんだっ!!」
がばっと抱き締められて万斉は阿呆の様に俺の名前を連呼する。
ついでにぐりぐりと頬擦りまでしてくるから、
「…いってぇんだよ、馬鹿万斉!!」
「ゲフッ」
体を捻って万斉のみぞおちに拳を叩き込んだ。
ああ、ついでにサングラス叩き割っときゃよかった。
「帰る」
「ま、待つでござるよ晋助」
追い縋って来る万斉をシカトして校舎へ続くドアに手をかけたら、
「済まぬ、晋助」
「………」
今度は後ろからそっと抱き締められた。
「沖田や土方にはバイトを世話してもらったんでござるよ」
「―バイト?」
思わぬ単語に振り返った。
「ああ」
どうして万斉がバイトなんてする必要があるのか。そんな疑問が思いっきり顔に出たからか、
「自分の稼いだ金で晋助と行きたいと思ったのでござるよ」
ポケットから何かを取り出す。
「―――これ」
「行ってみたいと言っていたでござろう?」
とあるテーマパークの10周年記念限定パレード。それの指定席のチケット。
確かに、見てぇって言った。
ガキの頃に一度だけ行った事のあるそこ。懐かしくてぽつりと溢したのを万斉は拾っていたらしい。
「一緒に行ってくれぬか?」
「……俺がヤだっつったらどうすんだよ」
「無論、拐ってでも連れて行くでござるよ」
「―万斉」
俺は体ごと振り返って、万斉の背中に腕を回す。
そうすれば、万斉は更に俺を抱き締める。
「―しかし、嬉しい誤算でござるな」
「は?」
「まさか晋助が嫉妬してくれるなどとは思わなんだ」
「―――」
言いたい事はたくさんある。だが、
「悪いかよっ、テメェが何も言わねぇのが悪ぃんだろ!!」
万斉の行動が意味が分かってすっげぇ嬉しいから、
「悪いどころか嬉しいでござるよ」
「次からはちゃんと言え」
「それではサプライズにならぬでござるよ」
「それでもだ」
俺は力いっぱい万斉を抱き締めた。
おまけ
「………晋助」
「何だよ?」
「…済まぬ、ムラムラしてきた」
「そんじゃ家帰ってヤんなさい。ここもう閉めっから」
「テメッ…銀!!」
「さっさと速やかに帰るでござるよ晋助!!」
俺のときめき返せ!!!
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