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花火


えも言われぬ悲しさは
線香花火の儚さよ…



「しーんちゃーん、あっそびっましょー!!」
「帰れバカ夜叉」
「バカって言った方がバカなんだよ。バカ兄ちゃんのバカ」
「うぜぇでござるバカ夜叉のバカ」

まるで子供のようなやり取り

「うっせぇな、何バカバカ言い合ってんだバカ共が」「晋ちゃん!!」
「晋助!!」

無駄にバカバカ言い合っていた二人は高杉にバカと言われてそちらを見る

「…銀時、何の用だ?」
「帰れバカ夜叉」
「うっせぇバカ兄ちゃん。銀さんは晋ちゃんに用が有るんですぅ。バカ兄ちゃんはさっさとどっか行っちゃって下さぁい。バカ」
「むっか!!晋助の居るところ拙者有りでござるからして、拙者は晋助から離れないでござるよ。バカ」
「……アホくせ」

一向に話が進まない。今日は機嫌が良いから銀時を相手にするのも良いかもしれない、と、出てきた自分こそバカだったと高杉はため息を吐いて部屋に戻ろうとした

「あ、待って待って晋ちゃん。晋ちゃんってば!!」
「…んーだよ?」
「花火しようよ、花火」

高杉が中へ入ってしまうと察知した銀時は慌てて手にした紙袋の中から花火セットを取り出した

「……花火」

ピクリと高杉が反応する

「そうそう。晋ちゃんの好きな祭りは月末じゃん?だから、今日は花火して夏の風情を味わっちゃおうよ。ね?」

流石は長い付き合い。高杉の心をくすぐる様に言い募ってくる

「………っち、しゃぁねぇな」

嫌々を装ってはいるものの、高杉は内心花火に浮かれていた

「つー訳で兄ちゃん、ここ中庭あるっしょ?案内してくんない?」
「……晋助の為でござる」
「ハイハーイ」




「おっほー、さっすが鬼兵隊。隠れ家ひとつも豪華だね」
「どこぞのバカと違って真面目に働いているでござる。このくらいは当然でござるよ」
「…かっちーん」

ハンッと鼻で笑う万斉に銀時はカチンと来たが

「おい銀時、早く用意しろ」

女王様高杉に急かされて、花火の封を開けて縁側に広げた
バケツに水を用意するのも忘れない


◇◆◇◆◇


楽しい時間はあっという間に過ぎ、残ったのは線香花火だけ

「………」

一本手に取り、高杉はじっと見ている
銀時は高杉が何を思っているのか知っているのだろう、見て見ぬふりで散らばった花火の燃えカスをバケツに放り込んでいた

「晋助は線香花火は嫌いでござるか?」
「………」

万斉が話しかけても高杉は答えない

「……白夜叉」

仕方なしに、ゴミを集め終え池の畔の岩の上で、池に映り込む月を見ていた銀時に声をかけてみる
ちら、とこちらを見たのを万斉は話してくれる合図と取って、下駄を履き銀時の側へ

「晋ちゃんさ、派手好きじゃん?」
「ああ」

即答に銀時が少し笑う

「でもさ、花火で一番好きなの、実は線香花火なんだぜ?」
「……え?」

万斉の驚きは最もだろう
数有る花火の中で一番地味と言ってしまえる線香花火を派手好きの高杉が好むなんて…

「思い出なんだとよ…ま、それは俺も一緒なんだけど」

誰との思い出とは言わない

けれど、万斉はきっと高杉を走らせた原因となった人物の事なのだろうと、ぼんやりと考えた

「さて、俺らもやりますか」
「そうでござるな」

万斉と銀時は高杉の許へ
パチパチとはぜる線香花火
少し揺れただけで儚く散ってしまう線香花火
その儚さ故にこうも思える


美しい、と



「銀時」
「んー?」
「ありがとな」
「うん」

高杉の右目が光ったのは気付かないふり
そして

「ごちそーさま」

チュッと左のほほに触れるだけの口付け

「?!」
「……白夜叉…っ殺す!!」

驚いた高杉は反射的にほほを押さえ
万斉は刀を抜いた

「まったねー晋ちゃん、兄ちゃん」
「二度と来るなバカ夜叉ァァァ!!!」

走り去る銀時を万斉が追おうとしたが

「いい、万斉」
「しかしっ!!」

高杉に止められてしまった

「いい。今夜はそんな気分じゃねぇ」

言い募ろうとしても高杉本人に気分じゃないと言われれば引き下がるしかない

「分かった。だが…」

万斉は高杉の肩に手を添えた

「…ばん…ん、」

先ずは消毒と左ほほに
それから、右ほほと額、鼻先にも
ちゅ、ちゅと触れるだけの口付け

「また、花火をしようぞ」
「……ああ」
「ただし、今度はバカ夜叉抜きでござる」
「………ぷ」

子供の様な独占欲を剥き出しな万斉に、高杉は久しぶりに声を上げて笑った








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