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フッと、目が覚めた。
陽の光が入らないこの部屋では時間の感覚が沸かない。
脇にあるサイドテーブルに置いてある目覚まし時計に手を伸ばして時間を見ると、まだ3時も回っていない。夜明けにはまだ余裕があった。

‥‥‥‥何処にいった?

いつもならすぐ隣にいるはずの銀時がいなかった。
ベッドを降り、ヒタヒタと素足で廊下を歩いて銀時を探す。
トイレにはいない。
何処だ、銀時。

その時キッチンの方から、ガチャン、と何かが割れたような音がした。
キッチンへと向かい開いているドアを覗くと、銀時らしき影が見えた。
ホッとしながらドアを開く。
キィ、という音に反応したのか中の人物が振り返った。
‥‥‥‥目、だけが闇の中で異様にハッキリと見えた。紅い‥‥いや、銀時の瞳は元々紅い色をしてはいるが、それとは違う異様な禍禍しさというか、目全体が血に染まったような色になっている。
ゴクリ、と唾を飲み込みゆっくりと声をかける。


「‥‥‥銀時?何、してんだ?」


返事はない。
ただ、ゆっくりと紅い瞳がこちらに近寄ってくるのが見える。
なんとなく。
なんとなくだ。
今の銀時が普通じゃないような気がして少し後ずさる。入口の壁を手で探って明かりのスイッチを探す。

あった!!

パチン、と音をさせて電気をつけると、強い光が部屋を包み、眩しさに目を細める。


「どうしたの、十四郎?眠れないの?」


‥‥‥目の前にいる銀時は、いつもの銀時だった。
正直ホッとした。
でも、さっきのは何だったんだろう。


「あ、ああ、ちょっと変な夢見てな。起きたらお前いないし探しにきた」

「ハハッ、十四郎子供みたいだなー」


そうやって笑う姿はいつもと変わらない。


「お前は?こんなとこで何してたんだ?」

「ああ‥‥‥ちょっと喉が渇いて。水飲みに来たんだけどグラス落としちゃって。こっち近寄らないでね」


そういいながらしゃがんでガラスを拾いだす。


「俺も手伝う」

「えっいいよ、自分でやるから」

「二人でやったほうが早く終わるだろ」


サッサッとガラスの破片をひらう。


「そりゃそうだけど‥‥ぃたッ」


その声に銀時を見ると、話をしていて油断したのか、指先の小さな傷からぷっくりと血が出てきていた。
何の気無しにその指を手に取り口に含む。


「なっっ‥!」

「とりあえず、消毒な」


指を離してそう告げると、銀時は信じられない!と怒りだした。
それを宥めるのに必死で先程のことなどどこか隅へと行ってしまっていた。
そんなに怒ることないだろうと言っても、なかなか収まらなかった。




次の日、思っていたほどの体の怠さもなく、わりと頭もスッキリとしていた。
昼すぎに目を覚まし、銀時をベッドに残してそっと部屋を出る。
今日はたまには俺が飯を作るか。銀時みたいに洒落た料理は出来ないが、一人暮らしを何年もしてきたのだからある程度は出来る。

太陽が光り輝いている間は銀時はどこにも行けない。今日は天気がいいせいかやけに陽射しが強く感じるな‥‥。それとも昨日、銀時に血を与えたのがこたえているのか。
そんなことを考えながら風呂に入り、軽く部屋の片付けをしてから食品のチェックをする。
どうせなら銀時に旨いといわせたい。
足りないものと欲しいものを確認して家を出る。
頭上高くにあった太陽も、だんだんと傾き陽射しも弱まって少し冷たさを感じる程だった。

結局、外に出てみればあちこちと行きたいところもあり最後に繁華街にあるスーパーに立ち寄った。


「うおっ、いつの間に‥‥」



店に入るときにはすでに辺りが薄暗くなってきたのはわかっていたが、出て来た時には外はすっかり闇に包まれていた。
時間はまだ5時前を指しているというのに、日が暮れるのが随分と早くなったものだ。


「こりゃあもう、あいつ起きてっかもしんねぇな‥‥早く帰んねぇと、心配すっかな」


そう考えてる自分がなんだかくすぐったい。

いやいや。
あいつ、結構さみしがりやだからな。
口じゃ全然大丈夫とかいってて大丈夫じゃねぇからな。
早く帰ってやらないとな。

銀時の顔を思い出すと自然が顔がにやけてきてしまう。

やべぇ、俺あやしい奴みたいじゃねぇか。

袋を一つの手にまとめ、片方の手で煙草を吸いながら緩んでる顔を落ち着け、歩みを早める。
家に向かって行くほどにだんだんと通りには人もまばらになってくる。
真っ直ぐ家に帰って歩いていた時、それは聞こえた。


「キャァァァ‥‥‥」

「なんだっ?!!チッ、気になんじゃねぇか」


声は小さかったが、確かに聞こえた。早く帰りたい気持ちはあったが、放っておく訳にもいかない。
煙草を揉み消し、声の聞こえて来た方に小走りに駆けて行くと、ビルとビルの隙間の暗闇にキラリと光るものが見えた気がして、足を止める。


「オイ、そこに誰かいるのか?」

「た‥‥た、すけ‥‥」


掠れたような小さな女の声が、微かに聞こえた。


「おい!!」


ニ、三歩、中に足を踏み入れ、闇に向かって声をかける。
ドサリ、と何かが地面に落とされた音がした。
はっきりとは見えないものの、女の足らしきものが投げ出されている。

そして。

‥‥闇の中、全てが紅く染まったような真っ赤な瞳が、ジッとこちらを見つめていた。


「‥‥‥銀時?」


まさか、と思いながらも闇に向かってゆっくりと声をかけた。


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