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ギィー、と借りた鍵で古びた扉を開け、勝手知ったる風に銀時の部屋へと急いだ。


「銀時。オイ、銀時」


銀時は朝の姿のまんま同じ場所で寝ていた。


「んん??えっと‥‥あ、十四郎」


まだ眠そうな顔をしている。


「ああ、そうだ。なあ銀時、今日から俺ここに住んでいいか?」

「‥‥‥‥へ?」

「この家お前しかいないんだろ?俺んとこちょうどアパート来月更新になるしさ、住んでもいいだろ?」


もう今日の朝からずっとそればかり考えてて。仕事終わってから速攻で部屋の片付けして当面の荷物だけ手に持って急いでここに戻ってきた。
夢じゃないと確認するためにも。
銀時の都合とかそんなこと少しも考えてはいなかった。


「何、言ってんの。言い訳ないだろ、断る」


不機嫌そうな顔をしたままバサリと布団を跳ね退け服を身につけ始める。


「なんでだよ。お前昨日ヤんのは俺だけでいいっつっただろ」

「それとこれとは話しが別でしょ。それがどうして一緒に住むことになるわけ?会ったの二回目だよ?俺ら」

「今で三回目だ」


銀時の顔に三本の指を突き立ててやると、呆れたような顔をして長い溜息を吐き出した。


「そういう問題じゃないだろ。だいたいアパートに住んでるってもどっかに実家があって家族とかもいるんだろ?突然一軒家に住むとか言い出すの変だろ。俺だってあんまり他の人とか関わり合いになりたくないし、正直困る」


キッパリスッパリ断られるとは予想外だったが、んなことで簡単に諦める俺じゃあない。


「それなら問題はねぇよ。俺、両親とももう亡くなってるし親戚付き合いとかもねぇ。天涯孤独ってやつだし。でももしお前が嫌だっつうんならアパート借りたまんまにしとく。だけどなあ銀時、少しでもお前の傍にいたいんだ。じゃないとまた消えてしまいそうな気がして落ち着かねぇんだよ。だから頼む、この通り!俺をここに置いてくれ!!」


両手を合わせ、頭を下げて頼み込んだ。
プライドとかんなもんはコイツの前じゃあ無意味。心をさらけ出して頼まなきゃいけないことがあるってもんだ。


「‥‥‥顔あげなよ。んなことされても全然嬉しくないからな。ったく、つくづく変なヤツだな」

「え?!じゃあ一緒にすんでもいいってことか?」

「まあ‥‥でも帰る部屋はちゃんと確保しとけよ」

「わかった!!じゃあ決まりな!」


こうして俺達の共同生活が始まった。
つっても銀時の方は朝は起きることはないから、顔を合わすのは俺の仕事が終わって帰ったころ。
すっかりと闇が降りて暗くなった時間帯だった。

銀時が寝ていたのは初めの一日目だけ。
あとは‥‥‥あとは、飯を作って待っていてくれる。これがまたなかなか料理が上手くて、毎日一緒に食べる夕飯が楽しみ。


「ちょっとさあ、人が丹精こめて料理作ってんのになにソレ」


指さした先にあるのは俺の手に握られている業務用マヨネーズ。


「なにって‥‥‥マヨネーズ」

「んなもんな、そんなかけられたら飯の味なんかわかんねぇだろうが。腕によりをかけて作ってる俺の身にもなれ」

「いや。いくらお前でもこれだけは譲れねぇな。それに味ならちゃんとわかってっから」

「あー、そう。もう勝手にしろ」


そんなたわいもない会話をしては笑っている時間が好きだった
幸せな、日々だった。







「うー‥‥寒ィなあ。ちょっと寒くなんの早くねぇか?」


夕方から急に雨降りになり、心配して携帯にかけてきた銀時に傘を持っていないことを告げると、いいって言ったのに駅前まで迎えに来てくれるらしい。
駅の改札を出ても銀時の姿は見えなかった。


「俺の方が早かったか」


行き違いになってはいけないので改札の近くの壁際で静かに待つことにした。

なんかこうしてると、銀時探してた時のこと思い出すな‥‥

本当、記憶が消えなかったことに心から感謝をする。


「えー!!うっそ、こわーい!!!」


すぐ近くにいる女共が大きな声を出したので聞きたくなくとも意識がそっちにいく。


「でさあ、昨日被害にあった女の子ねぇここの駅利用してたらしいよ。それがうちの兄貴と大学一緒だったらしくてさあ、聞いた話じゃあ全身の血、無くなったらしいよ」


血?‥‥‥なんか、物騒な話だな。最近忙しくてニュースなんか全然見てなかったから知らなかったな。


「なんかそれって‥」

「吸血鬼みたいでしょ!」


その言葉に思わずビクリと体が震えた。
いま‥‥なんつった。


「だよね。映画とかでよくあるじゃん」

「それにさ、あったらしいよ」

「なにがなにが?」


なにがあったんだよ。
んなとこでためねぇでさっさと言えよ!
すっかり俺はその会話に聞き入っていた。


「首にさ、二つの穴が開いたような傷」

「えぇ!それじゃあマジで?」

「まあそんなことあるわけないから、警察の方では吸血鬼を模倣した猟奇殺人ってことになってるらしいんだけどねぇ」

「そうなんだあ、でもさぁ」


「‥‥ろう。十四郎?どうしたの?」


ハッと正面を見ると、傘を二本持った銀時が立っていた。


「あ、ああ銀時。悪いな寒いのに」

「いや。俺も家に篭りっぱなしも良くないからさ。それよりどうかしたのか?ぼやっとしてるなんて珍しいな」

「ちょっと明日の仕事んこと考えてた」

「大変だな。俺、あんまり働いたことないからわかんねぇや」


少しさみしそうに微笑む銀時。時々見せる影がある。


「それでねー」


さっきの声がまだ聞こえてくる。
女同士ってよく喋るよな。
何にしろ銀時にはあまり聞かせたくない話題だ。


「早く帰ろうぜ。家に帰ってくっつきたい」

「ばーか。んなことばっかりいうなよ」


恥ずかしいのか傘を押し付けてさっさと一人で歩いていく。
その後を追いかける俺。





『吸血鬼みたいでしょ』

違うとはわかっていてもやはり気になった。
だいたい銀時は女の血は飲めないと言っていた。
でも。
あまりにも近い場所での出来事に気になってしまう。
他に、吸血鬼がいるのか?
そんな話は聞いていない。
ずっと一人だといっていた。
あいつらが言うようにただの猟奇殺人か?

何か付き纏う闇を払うように頭をふる。



「十四郎―。遅いー」

先を歩いている銀時が振り向いて待ってくれている。



そんなことあるはずがない。



それ以上の考えを心に閉じ込め、銀時のところへと歩みを早めた。


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あきゅろす。
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