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「さあて、どうかな。お前はどう思う?」
細かい雨が降り注ぐ中、銀時は髪から雨を滴らせながらペロリと上唇を舐めた。その動作に見入っていると、首に腕がかかりぐいっと引き寄せられる。
「なあ、どう思うって聞いてんだよ」
「ッッ!どどど、どうって」
急に近づいた顔に動揺してしまう。
「フフッ、顔、真っ赤だよ」
「ううううるせぇ!‥‥ハッ‥ハッ‥‥」
「ん?」
「ハーーークションッッ!!」
むずむずとする感覚に我慢仕切れずくしゃみをした。‥‥近くにある銀時の顔に思いっきり。
「‥‥‥汚ねぇ。ったく」
「あ、悪ィ。わざとじゃねぇから」
「わざとだったら今頃殴ってるわ。‥‥‥でもこのままじゃあお前のほうが風邪引くな。時間あんならついてこいよ」
そういってスタスタと歩いて行く銀時を慌てて追いかける。
無言のまま30分以上歩くと、人が住んでいるのかと思うほどの古びた小さな洋館の前に辿り着いた。
「ココ、俺ん家。入って」
振り返り、クイッと親指を合図する。
開かれたドアに導かれ、暗い室内に中に足を踏み入れると、古い建物独特のかび臭いような匂いがした。
ギィーッ、バタン。
その音に驚き振り返ったが、光りが途切れた室内では何も見えなかった。
「ぎ、銀時?」
つい弱々しい声になってしまう。
「案外簡単にかかったね。秘密を知られた以上、もう帰すわけにはいかないよ」
暗い室内に銀時の声が響き渡った。
「なっ‥!」
部屋をぐるりと見渡すと、闇の中で光る二つの紅い双眸が俺をジッと見つめていた。
「さようなら、土方くん」
紅い光りが近づいてくる。
俺の人生ここまでってことか?
ああ、でもコイツにならいっか、なんて思ってしまう俺もどうかしてるかもしんねぇ。
一度会っただけのことなのに本当どうかしている。なんだろうな、この不思議な感じ。
深呼吸をする。
「殺るなら殺れよ。お前になら俺の命くれてやってもいいさ」
覚悟を決めてそう言った。
言った‥‥‥のに。
パッと室内の電気が点いた。
急に明るくなった室内に思わず一瞬目を瞑り薄く開くと、少し離れたところに銀時が立っていた。
何事も無かったように。
いや‥‥‥少し、怒ってる?
「ばっかじゃねぇの、お前。なんか変な話か映画の見すぎー。んなことしねぇっつうの」
「え?俺、死なねぇってことか?」
ハァーと大きな溜息をついた銀時は弱々しい笑みを浮かべる。
またあの寂しそうな微笑み。
ツキリと胸が痛んだ。
「簡単な冗談に引っ掛かるんじゃねぇよ。俺を簡単に人殺す奴みたいに思わないでくれるぅ?どんな怪物だよ俺は。‥‥‥いや、怪物なんだろうけどよ」
何だか力なく言う銀時がたまらなくて、その体をギュッと抱きしめた。
「な‥に‥‥」
「怪物なんかじゃねぇよ。お前は、怪物なんかじゃねぇ」
「‥‥‥お前が俺の何を知ってるっていうんだよ」
「知らねえよ。でもそんな傷付いた顔して言う奴が怪物なわけなねぇだろ」
抱きしめる腕に力を込めてそう囁く。
「‥‥‥めたい」
「ん?」
「冷たいっつうんだよ!雨でバタバタに濡れてるくせに引っ付くんじゃねぇよ」
ぐいっと胸を押され、体から引きはがされる。
俯いている顔が少し赤く見えるのは俺の思い上がり?
「奥に風呂があるから先に入ってこい」
「嫌だ。それじゃあお前冷たいまんまで風邪引くじゃねぇか。一緒に入ろうぜ」
「ばっ!お、俺は風邪なんかひかねぇんだよっ」
今度こそ本当に赤くなっているのが分かる。それに気を良くした俺。
「んでも雨に濡れたまんまじゃ気持ち悪いだろうがよ」
「そりゃあそうだけど」
「そうと決まったら風呂だ風呂」
銀時の手を引いて奥にあるという風呂場に向かって嬉々として向かって歩いた。
銀時は、手を振りほどくこともなく大人しく着いてきた。
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