3
次の日から、毎日毎日。
仕事が終わってから銀時と出会った駅前に行った。
目立つところにいてもあいつが声を掛けて来るなんてことはないような気がする。
人通りの多い改札近くの壁に寄り掛かり、行き来する人の流れを今日も見つめる。
手がかかりはここの駅前しかない。
あいつなら、少しでも見かけただけでわかる自信がある。
ていうか、あいつは目立つだろ。
―――――なのに、見つからない。
出会ったのは秋の始め頃。
なのに、今はもう息も白くなり厚手の上着に身を包まないと長時間外に居ることなど出来ない程の寒さ。
時計はもう0時をまわろうとしていた。
今日も、空振りか。
明日も仕事だし、この辺で帰るか。
予報通りに降り出した雨のせいか、今夜は特に冷え込みがキツイ気がする。
傘を畳み、駅の構内へと入ろうかとしたその時。
銀髪の頭が俺の前を通り過ぎて行った。
間違いない。銀時だ!
相変わらずの真っ黒ずくめの服装に銀色の髪。
傘もささずに通りを駅とは反対の方角へとだるそうにあるいていく。
俺は、後ろからゆっくりと近付き傘を銀時の頭上へと差し掛けた。
「風邪引くぞ」
身体がビクリと揺れ、歩みが止まる。
ゆっくり振り向くと、その宝石のような瞳が大きく開かれるのが見えた。
「う‥‥‥‥そ‥‥‥」
「やっとまた‥‥ってオイ!まてっ!!」
俺の姿を確認した銀時は、急に走り出した。
追わなければ。
やっと見つけたんだ。
持っている傘も邪魔だからその辺に放り出し、必死に追いかける。
おいおい、めっちゃ逃げ足早いんだけど。
こっちだって野球部で鍛えた駿足には自信があったってのに、全然追い付ける気がしねぇ。
目の前の階段をどんどん降りて行く銀時を後ろから目で追いながら息を吸い込む。
「銀時―――!!」
そう大声で叫ぶと、もう数歩で階段を降り切る銀時の動きが一瞬止まる。
俺は勢いをつけて階段を全部飛び越え、銀時の前に着地した。
「逃げんじゃねぇよ」
立ち上がり、少々睨みながらそう言うと。
「お前、普通の人間か?」
呆れたような顔をして銀時がそう言った。
「はあ?たりめーだろ。つうかてめぇは何逃げてんだ」
「えーと、いや、なんとなく?」
「何となくで逃げてんじゃねぇよ。こっちはお前が連絡先も教えずに勝手に帰るからずっと捜してたっていうのによ」
逃げないように両手を握って言いたかったことを伝える。
「捜すって俺のこと?‥‥‥何で」
スッと目が細まり、ゾクリと肌が粟立つ冷たい視線が俺を貫く。
眉間に皺を寄せて睨む姿を見ると、いくら綺麗に見えてもやっぱり男だなと思わせる。
「なんで‥‥って、気になったからに決まってんだろうがよ」
「気になる?」
「気になるだろうがよ。いろいろやられて、上乗っかられてアンアン言われたらこっちだって理性吹っ飛ぶし!おまけに目ぇ覚めたらお前はいねぇし、金まで貰った形になってこんな情けないこと俺としては許せんっつうの。その後も、俺って男もいけたんだあとか新しい世界に足突っ込んだことに悩んだのにお前は全然見つからねぇし。‥‥取りあえずコレ、返すから」
早口でまくし立て、ポケットに入れてある少しくしゃくしゃした封筒を取り出し、銀時の手に握らせる。
「何コレ」
「金だよ、金。あんときゃあたまたま財布落としただけで、ちゃんとあるんだっつうの。取りあえず、借りは返しとかねぇと落ち着かない」
「ブッ、アハハハ!お前、面白いね」
「笑うなよ」
張り詰めたオーラはどこかへ消え、楽しそうな顔を見ているとこちらも笑みが零れる。
「なあ。お前、俺の名前覚えてんだよな。全部覚えてるか?」
「?坂田銀時だろ?」
「当たり。やっぱり術効かなかったみてぇだな」
「術?」
「そう。‥‥‥はいこれ、返す」
さっき渡した封筒が再び俺の手の中へ。
「おいこれ、」
「いいからいいから、とっときなあ。この世の中、現金は大切だぞぉ。‥‥‥それから。俺、お前にはちゃんと別のもので貰ったから」
「別のもの?
「そう、別のもの」
そう言った銀時の口元で赤い舌が唇から姿を現す。
「‥‥‥あ。まさかとは思うが」
あの時感じた首筋の肉が裂かれる音。
体内のものが吸い取られるような感じ。
そして、翌朝残っていた首に開いていた二つの穴。
映画や本でみたあの症状と似てるとは思ったが、そんなこと有るわけないと、無理矢理追い払っていたまさか?
「そうだよ。思い出した?土方くんの、なかなか美味しかったよ」
銀時の顔が近づいてきて首筋をペロリと嘗められる。
「お前、まさかとは思ったけど本当に‥‥‥吸血鬼、なのか?」
間近でニヤリと笑った顔には、普通の人間では有り得ないくらい長い犬歯が口の隙間からチラリと見えた。
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