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「は、早かったなあ土方」
「んだよ、お前が早く来いって言ったんだろうが」
いつもの黒い着流しで現れた土方は、ふて腐れたようにソファに腰を下ろす。
「ほら、これ。‥‥土産だ」
テーブルの上に置かれたケーキの箱に俺の目はくぎ付け。
「そ、それってもしかして駅前の『アンとスージー』のケーキじゃねぇかっ!」
「ん?ああ、なんか旨いって話を聞いたからな。試しに買ってきてみた。甘けりゃ何でも食べれんだろ?」
箱を開けるとキラキラと宝石の様なケーキの数々。
「旨そー!ありがとな。あ、一緒に食べようぜ」
「いや、俺は別に‥‥」
「いいじゃん、たまには一緒に付き合えよ。でもイチゴショートとこのタルトは俺んな。あとはどれでもいいから」
「まるでガキだな」
そういいながら、土方はふんわりと俺の頭を撫でて、笑った。
「ッッ!!俺、コーヒーいれるわ。お前飲むだろっ」
急いで立ち上がり、台所の方へと向かう。
やべ、、いますっげ心臓バクバクいってる。
ちくしょー、なんであんな顔するかな。
ケーキより甘い顔すんなっつうの。
顔‥‥‥あっちい。
ブツブツと呟きながらインスタントコーヒーをサラサラとカップに入れ沸かしたお湯を注ぐ。
「なあ、土方ー。お前砂糖とかミルクとかって入れるんだっけか?‥‥‥‥土方?」
?
何か、雰囲気が先程までと違う。
タバコをくわえて俯いて。
なんだか暗い。
「どうした?」
「悪い。ちょっと片付けなきゃなんねぇ仕事思い出した。今日は帰るわ」
「え?ちょ、ちょお待て‥‥」
声を掛け追いかけようとしたが、あっという間に出て行ってしまった。
残されたのは俺一人。
二人分のコーヒーの香りが部屋に虚しく広がっていた。
「‥‥‥んだよ。今日は一緒にいれるんじゃなかったのかよ」
一人で文句を言ってで溜息をつく。
砂糖とミルクたっぷりのカフェオレを手にソファに座り、半ばやけ食い気味にケーキを口に運ぶ。
とびきり美味しいはずのケーキが、ちっとも旨く感じられなかった。
「あー、食った食った」
腹はいっぱいになったけど、心は満たされない。
ふぅ、と溜息をまた一つ。
動く気にもなれず、そのままソファに横になると、テーブルの下に何かが落ちているのに気がついた。
「ん?なんだ?」
手を伸ばし先を摘んで拾い上げる。
「‥‥‥あ」
落ちていたのは、写真。
やべ。
どうやら慌ててたからしまい忘れたらしい。
それもよりによって、高杉と二人で写ってるやつ。
そういえば、さっきの土方は何か変だった。
「まさか‥‥‥これ見て拗ねて帰ったとか言わねぇよなあ。いや、ないだろ。お互い大人なんだし、たかが昔の写真じゃん。ナイナイ。アイツに限ってんな思春期の付き合い始めのカップルみたいな嫉妬なんてなぁ」
そう、口に出して呟いてみたが、暗く俯いた土方の顔が頭に浮かんできて離れない。
「ダァーッッもうッ!!」
アイツのことだ。もしかしたらだけど、聞きたいことも聞けずに悩んでるかもしんねぇ。
勢い良く立ち上がり、土方を捜しに行くことにした。
本当に仕事だったら仕事でいいじゃん。その姿みたら気も晴れるってもんだ。
そう思い、万事屋を後にした。
真選組の屯所まで行くと、ちょうど中から出て来たジミーくんと出くわした。
「あれ、万事屋の旦那、どうしたんですか」
「よう。あのさ、おたくの副長さんいる?ちょっと用事があってさ」
そういうとジミーくんはキョトンとした顔で
「副長なら今日は非番ですよ。って、旦那のとこ行ったんじゃないんですか?美味しいケーキ屋教えろとか聞いてきたから俺はてっきり旦那んとこに行ったもんだと思ってましたよ」
「ああ、そっか。ちょっと行き違いになったかな。んじゃまたな」
「あ、ちょっと、旦那あ」
後ろからジミーくんがまだ何かいってたが、俺は踵を返し土方を捜しにいくことにした。
やっぱりな。
仕事なんて嘘。
わざわざジミーくんに聞いて買ってきてくれたケーキまで持ってきてたのに。アイツが何を考えて帰って行ったのかはわからねぇが、とりあえずは見つけないと。
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