いちごは好きですか
誕生日を好きな人と過ごすなんて甘ったるい時間がなんて自分には永遠に関係ないだろうと思っていた。でも今、初めてその時間を過ごしている自分がここにいる。
目立たない場所にある小さめながらも綺麗なホテルの一室で、俺は相手が風呂から上がるのを寝ずにボーッと待っていた。
純白の糊のきいたシーツはすでに使用済でシワの寄ったものだったが、柔らかくふかふかの布団はそれなりに心地好いものだった。
土方は、初めから強烈だった。しかしまさかその土方が、自分の誕生日にどこぞのカップルのようなデートコースをする相手になるなんてその時の俺に想像出来ていたわけがない。いや、無理だろそれ。
ぼんやりとそんなことを考えながら素っ裸でベッドでゴロゴロしていると、土方が浴室から腰にバスタオルを巻いた姿で出てきた。
俺に背を向けベッドに腰掛けると、キシリとベッドが軋む。その感触が土方が傍にいることを感じさせてくれるようで心地好い。
腰にタオルを巻いただけの背中は無駄のない綺麗な肉付けをしていて、あまりよく拭いていないのか艶やかな黒髪から滴る水滴が背中を伝っている。その姿を見ていると、汗をかく行為をしてシャワーを浴びた後だというのに、何だかまた身体が火照ってくる気がする。
ヤバッ
背中を伝う水滴が熱い吐息と汗を連想させ、中心が少々反応してしまいそれを隠すように俯せになり頬杖をつく。
「どうした」
銜え煙草のまま土方が振り返る。
「べべべ別に」
「んだよ、言えよ」
迫って来る土方に自分の下半身事情を知られたくなく、前々から思っていた事を思い付きで口に出す。
「えと、なあ土方。俺とお前ってなーんか運命的だと思わねぇ?」
「なにがだよ」
話が違う方向に反れたことに安心しながら説明する。
「だってさあ、俺とお前の誕生日四桁の数字にして足してみろよ。どうなる?」
「どうなるって1515になるだけだろ」
「土方くーん。ちょっと頭捻ってみなよ、『いちご』って読めるだろ」
「まあ、確かに。ってそれがどうかしたのかよ」
「だあって、俺の好きなイチゴだよ?それも二回も。なんか運命感じんだろー」
土方は、一瞬キョトンとした顔をしたあと煙草の煙をフーッと吹き出した。
あれ、やっぱ運命とかなんとか重かったかな。そ、そうだよな男同士でなにいってんだとか思ったかな。やべ……俺もいい年して何言ってんだか。
自分の発言に後悔と恥ずかしさでぐるぐるし始めた時、優しい感触で前髪をかき上げられ、そのまま頭の上で土方の手が落ち着く。
「ああ、そうだな」
いつもの厳しい顔とは正反対の、見たことのない優しい優しい顔で土方は笑った。
「んだよ。実はコイツ馬鹿じゃねーとか思ってんじゃねぇの」
まさか肯定の返事が返ってくるとは思わなかったので、素直に喜べずにうたぐり深くついついそう言ってしまう。
「それより銀、いちご好きなのか?」
「はあ?いちご?いちごはすげー好きに決まってんだろ。あ、でも酸っぱい種類のやつじゃなくて甘ーいやつな!!…」
身振り手振りをつけていちごの説明をする俺に、土方が片手でもういいという素振りでストップをかける。
「わかったわかった、よっぽど好きなんだな。んじゃ来年はいちごがたっぷり乗ったケーキ買ってくる」
「へ?来年?」
土方の一言に固まる俺。
土方はそれを別の意味に取った。
「あんだよ、まさか今すぐ用意しろって言うんじゃねーだろうな」
「ち、違っ、んなことより馬鹿にしてんじゃねえのってのの話はどうなって「してねぇよ」
「えと」
「馬鹿になんかしてねぇ。お前が、俺を運命の相手だなんて思ってくれんのは素直に嬉しいし」
「な、」
真面目な顔をしてそんな事を言う土方にこっちのほうが照れて顔が燃えるように熱くなる。
「んで?ケーキは来年じゃあ不服なのか」
「い、いやそうじゃなくて」
「じゃあなんだよ」
「来年…も、こーしていられんのかなってさ」
今この日でさえ、すごいと思っているのにそれが続くのかどうかなんて想像出来なかった。
「馬鹿だな」
「は?!」
「‥‥‥一緒にいるに決まってんだろ。俺がんな簡単に男に惚れると思ってんのか。手に入れた以上は離さねぇから、覚悟しろよ銀時。それに、なんたって俺達には運命っていうすげぇヤツがついてんだからな」
上から覆いかぶさるように抱きしめる土方。
その腕は、俺の不安を包み込むようにあたたかい。
「そっかあ‥‥‥だよな。お前しつこいしな。まあ、いちごの神様っつー運命の神様ついてんもんな」
あたたかいものが心に流れ込むのを感じ、来年もきっと土方とこうしてるだろうと思った。
先のことなんてわからないけど、そんな気に土方がさせてくれた。
「よくわかんねーけどそういうことだ」
「あ、そうだ土方、土方はいちご好きか?」
「そうだな‥‥嫌いじゃねーけど‥‥‥俺は、こっちのほうが好きかな」
そう言うと、銀時の俯せにしていた身体は簡単にくるりとひっくり返され、仰向けにされる。
「う、わっ」
「なんだあ?さっきしたばっかりだってえのにうまそうに育ってんじゃねーか」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべ俺の中心を眺めている土方に、咄嗟に隠そうとした手を拘束される。
「お、お前が耳もととかで話すから勝手に」
「勝手に‥‥ね」
「手、離せよ」
「やだね。悪いな銀時」
「え」
「俺はやっぱいちごよりお前のほうがずっとずっと好きみてぇだ」
拘束されていた手が土方のバスタオルの奥に隠れていた身体の中心へと導かれる。
「マジ‥‥あ、つい」
キュッと握り締めるとビクリと手の中で脈を打つ。
「お前よりもっとだろ。余裕がないのは俺のほうかもな。‥‥‥お前は自覚無しにいろいろ言い過ぎる」
そう言う土方は薄暗いベッドランプではっきりとはわからないが顔が赤い様な気がする。
「土方‥‥‥俺としたい?」
「ああ」
「今、シャワー浴びたばっかりなのにか」
「お前が悪い」
「なに?誕生日なのに俺んなこと言われるわけ」
「あー‥‥悪い。俺が我慢出来ないだけだ」
ちょっと余裕のない表情の土方はとても艶っぽい。
「俺も、我慢出来ないかもな」
了解とばかりに近付く唇に目を閉じようとした時、土方の動きが止まる。
「土方?」
「悪い、言い忘れてた」
次に出てきた言葉は
「誕生日おめでとう銀時」
時間はもうとっくに十日を過ぎていた。
「今更かよ」
「悪い」
「でも、嬉しいけどな。ありがとう、土方」
そうして今度こそ熱いキスが。
いちごの神様、ほんとにいるなら言いたい事が一つ。
「土方に会わせてくれてありがとう」
だけど悪いな。
俺、いちごより大好きなもんが出来ちまった。
そりゃなにかって?
んなこと言わなくてもわかってんだろ。
甘いばかりじゃないけど大切で大好きなんだ。
ま、そーゆうこと。
20101013
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